ロマンティック
読んで戴けたから嬉しいです。(o´艸`o)♪。
散々暴れて疲れきったボクはソファに座る夜戯の隣に勢い良く腰掛けた。
夜戯はそんなボクの横顔をじっと見詰める。
その視線がくすぐったくて、ボクは俯いて夜戯の顔を上目遣いで覗き込んだ。
ボクと夜戯はそうして暫く見詰め合っていた。
夜戯と居るだけで、全身に幸福感が染み渡る。
夜戯を知れば知るほどどんどん好きが増して行く。
夜戯はどう感じているんだろう?
ボクの気持ちに応えられないと断言した夜戯だけど、今夜戯の目は熱を帯びているように見える。
それはボクの願望がそう見せているのだろうか。
夜戯が何か言い掛けると、ばあちゃんが向かいのソファに座って言った。
「ねえ貴方たち、想い人の谷の伝説を知ってる? 」
「想い人の谷?
確かここの山奥にあるって言う谷の事でしょ?
伝説なんてあるの? 」
ばあちゃんは笑顔を輝かさせる。
「それがあるんだな、とってもロマンティックなのが」
「昔話の類いのものか? 」
夜戯は興味津々のようだ。
「まあ聞いて
想い人の谷には昔からの言い伝えがあってね
想い人の谷に自分の髪や爪などを想い人の物と一緒に放ると次に生まれて来る時も人間に生まれ、想い人と結ばれると言うんだ」
ばあちゃんは一呼吸置いて話始める。
「昔依吏と言う月の住人が地上に降りて来て侑稀と言う娘と恋に落ちた
束の間二人は一緒に過ごしたが依吏は月に帰らなければならなかった」
夜戯を見ると目を大きく見開いて、食い入るようにばあちゃんの話に聞き入っていた。
「侑稀は酷く哀しんだが、依吏はどうしても帰らなければければならない
二人は言い伝えを信じて、想い人の谷に互いの髪を絡ませて放った
二人は互いを想いながら老いて死に、そして生まれ変わって再び巡り逢い恋に堕ちて結ばれたと言うの··········
どう?
なかなかロマンティックな話でしょう」
何故かばあちゃんはドヤ顔をしている。
「その想い人の谷がこの村の何処かにあると言うのか? 」
夜戯は身を乗り出して訊いた。
「昔旦那と行った事があるの
想い人の谷の近くには一本のゆうに百年を越える月の時の大木が立っていて、八重桜に似た花を咲かせてたのよ」
ボクの頭をふと過る。
ボクはそこに行った事があるのかもしれない。
そこで月の時の、花の匂いを嗅いだんだと思う。
だから夜戯が入っていたカプセルの液体の匂いを嗅いだ事が在ると思ったんだ。
でもボクはそこへ行った記憶が無かった。
「風が吹くと花吹雪になってね
本当にそこだけ時間が止まったのよ
傍を跳ねていた野うさぎが空中を花吹雪の中で止まってた
とても幻想的な光景だった」
ばあちゃんは想い出を噛み締めるように目を閉じた。
夜戯が言う。
「月の住人は地球を観察するが決して干渉する事を許していない
その月の住人は侑稀に最初からコンタクトを取るつもりで地球に降り立った可能性が強いな」
「へーえ、じゃあ依吏は月の住人の掟を破って侑稀に逢いに来たのか? 」
「多分············
おそらくは掟を破ったのが露見して依吏は帰らねばならなくなったのであろう」
ばあちゃんは目を輝かせて言った。
「あら、ますますロマンティック
依吏と侑稀の恋は許されない恋だったのね
掟に背いて、宇宙空間を越えて逢いに来てくれるなんで、なんて情熱的! 」
ばあちゃんは乙女のように指を組んで、夢見るような顔をした。
「ばあちゃんはロマンティストなのだな」
ばあちゃんは意味ありげに夜戯を見る。
「あら、女は何時だってロマンティストよ
貴方たち」
読んで戴き有り難うございます❗(o´▽`o)ノ