ザッツ ヴィジュアル系
読んで戴けたら嬉しいです。ヾ(≧∀≦*)ノ〃
夜戯のかっぱらった薬のお陰で随分調子がいい。
ただで世話になるのは申し訳ないから、夜戯とボクはばあちゃんの果樹園の仕事を手伝った。
今日はばあちゃんと夜戯が彼岸用の桃を収穫して、ボクがその桃を網に入れ、箱に詰める手伝いをした。
夜戯が桃の沢山入った籠を作業場に持って来た。
「今日の分の収穫が終わったら手伝いに来るから、急いでやらなくてもいいと、ばあちゃんが言っていたぞ」
夜戯は籠を地面に置いて、笑いながら言った。
作業をとても楽しんでいるみたいだ。
夜戯は日を追うごとにだんだん人間ぽくなって行く。
それは夜戯の脳の機能が低下して行ってる印だ。
失われて行く能力に対して夜戯の感情が豊になって行くのは皮肉な気がする。
後どれくらいの時間が残されているんだろう··········。
夜戯は人間らしさが増すごとに笑い方が自然になった。
輝く様な笑顔をボクに向けるから、ボクはその笑顔に釘付けになる。
夜戯が不思議そうな顔をして言う。
「何を見ておる? 」
ボクは臆面も無く言った。
「夜戯の笑顔がとても綺麗だから·······」
限られているから、ボクは後悔したくない。
だから伝えたい言葉は恥ずかしくても伝えることにした。
夜戯は怒ったような顔をして目を逸らす。
どうやら照れてるみたいだ。
本当なら顔に赤みがさす処なのだろうけど、そうゆう機能は無いらしい。
ただ、夜戯が人間らしくなって困る事が在る。
それは夜·············。
ボクが風呂から上がって来ると夜戯とばあちゃんが悪そうな笑みを浮かべて、茶の間で出迎える。
二人の手には化粧用のハケや髪を固めるスプレーが握り締められていて、ボクは深い溜め息を吐きながら項垂れた。
ばあちゃんと夜戯が結託してボクにヴィジュアル系のコスプレをさせるのだ。
勿論ボクは抗議する。
「ボク、風呂入ったばかりだよ
化粧なんかされたら、また風呂に入らないとならないじゃん」
「良いではないか、減るものでも無し」
夜戯は構わずニコニコしながら、ボクの手を引いて鏡台の前に誘導する。
「男が四の五の言わないの! 」
ばあちゃんは年寄りとは思えない強い力でボクを押さえ付け椅子に座らせる。
ばあちゃんが嬉々として言う。
「今日はね、ヴィジュアル系のクラシック、1990年代に活躍した黒夢の清春くんがアイスマイライフって曲のPVでしてた格好のコピーするよ
へそ出しが超セクシーなのよねーーーぇ」
「イエーーーーイ!! 」
夜戯が親指を立てた手を振り上げる。
イエイってなんだよ、イエーイって!
女はどうして男に化粧させるのに、こうも熱くなるのか。
たっぷり一時間メイクに費やされ、ボクは白いへそ出しのセーターを着せられ、そのなんとかってバンドの映像を見せられて同じ動きをさせられた。
その動きがなかなかエロくて恥ずかしい。
ばあちゃんの家に来る度にこの儀式は繰り返されるので、ボクも慣れたもので、映像に合わせてポーズをとる。
「紗月、セクシー!! 」
ばあちゃんがめちゃくちゃはしゃいでカメラのシャッターを切り出す。
ボクの周りをお気に入りのアングルを探してシャッターを切るこの動き、七十になる婆さんとはとても思えない。
夜戯と言えば、何処から持って来たのかスズランテープで作ったポンポンを振ってボクにエールを送ってくれてる。
こうなりゃボクたって男だ。
なんとかって奴になり切って見せようじゃないか!
ボクは夜戯に熱い視線を送りながら手を差し出したり、片手を抱き締めてシナを作った。
「さ・つ・き!
さ・つ・き!」
かぶり付きの夜戯は何処から取り出したのかペンライトを両手に握り締めノリノリで振っている。
なんだろう、これ···········。
ま、いっか···············。
ひと時でも夜戯とばあちゃんが笑顔になってくれるなら、悪い事では無いかもしれないと諦めているボクが居る。
気のせいか、夜戯の視線がいつもより熱い気がする。
女の子ってこうゆう中性的な男に弱いのかな。
ばあちゃんが古いDVDを引っ張り出して来て、今時珍しいDVDプレイヤーにセットした。
「今夜はキズのライヴにご招待してあげるよーん」
ばあちゃんがにっこにこでボク等二人を画面の前に並べて立たせた。
ちょっと待って、アレは凄くハードで勘弁願いたいんだけど········。
演奏が始まった。
「はい、ヘドバン! 」
ばあちゃんが叫ぶ。
ボクは仕方無く頭を8の字に振り回した。
昔ヴィジュアル系のライヴでバンギャたちがやっていた振りを延々一時間半ライヴが終わるまで再現させられるのだ。
夜戯もここ数日で何度かやらされているので、ヘドバンを完全マスターしている。
頭を勢い良く8の字に振り回して、長い金髪の髪柱を上手く立てていた。
チョップをしながらボクを見て笑う夜戯。
こうしていると普通の女の子とちっとも変わらない。
そんな夜戯がとても愛しいって思う。
突然ばあちゃんがボクのお尻を叩く。
「ケツバンはNG! 」
ヘドバンの時お尻を動かすのはダサいらしい。
ヘドバンの他にも手扇子(開いた手をくの字に動かしてX字を描く)や、折り畳み(上半身を前に倒すを繰り返す)、チョップ(横に揺れながら手を前上に振る)、モッシュ(小刻みに飛び跳ねながら右へ左へと移動する)等々、ハードな動きの連続で、現役で若いボクでもこれを一時間半やり続けるのはかなりキツイ。
って言うか、首振り過ぎて、手を動かし過ぎて、いかり肩になりそう·····。
曲によって振りが決まっていて、ばあちゃんはそれを総て憶えているのだが、こっちは二三曲やるだけでゼーハーしてるのに、ばあちゃんはこれをきっちり約一時間半ライヴが終わるまでやり切る。
七十近い老人とは思えない体力·········。
若い頃、こんな調子で随分ブイブイ言わせていたんだろうな。
夜戯に至ってはこれを完全マスターしていて、ばあちゃんに愛弟子と呼ばれている。
さすがは元ダンサー。
ボクは明日、きっと全身筋肉痛で起き上がれる気がしない。
読んで戴き有り難うございます❗(o´▽`o)ノ
この回ではばあちゃんのキャラが濃ゆ過ぎて、夜戯が食われてしまいました。
娘には私の未来の姿を見ているようだと言われました。(o・・o)/~
実は、私の欲望渦巻く回でした。笑笑