目覚めたアンドロイド
二万六千文字、全十六話です。
今日からなるべく毎日更新したいと思っています。
是非読んで戴けたら、嬉しいです。m(_ _)m
西暦2096年。
灰色の雑踏が流れて行く。
都市は熱を失い、人々は日常になんの感動も失ってしまった。
来るべき時代に取り残され、進化は閉ざされて希望が見えにくい。
それは進化に依って起きた反乱の傷痕。
時に取り残されたアンドロイド。
彼女は人々から女神と呼ばれていた。
真夜中に一人佇む。
真夜中の静寂が何処までも続いていて、時折遠くで列車が通り過ぎる音が淋しげに響く。
夜空には満月がこちらを見下ろしている。
ボクに残された時間は後数ヶ月。
ボクがどうしてこんな真夜中にこの場所に来たかと言えば、最期が刻一刻と迫り来るこの暗澹とした気分に押し潰されそうになるのを和らげたかったからだ。
彼女に逢えば少しは気が紛れるかもしれない。
そう思った。
それが月の光だと、何故かボクには解った。
幾つもの柔らかな光の球体が彼女を包み込むように纏わり付いていた。
この街で一番大きな公園の中央に透明なカプセルに守られ、置き去りにされた忘れ物のように身を晒す最後のアンドロイド女神。
2045年にシンギュラリティ(AIが人間の知能を越える)は起こらなかった。
その代わり、総てのAIがサイバーテロの標的になり、いかれたハッカー集団に依ってばら撒かれたウィルスで狂わされ、アンドロイドたちの反乱が起こった。
アンドロイドはロボット三原則(人間への安全性、命令への服従、自己防衛)を無視して人間に危害を加えるようになった。
世界は大混乱に陥り、人間とアンドロイドの戦いが続いた。
秩序が崩壊した世界に一人の、ウイルスの脅威に支配されなかったアンドロイドが何処からともなく現れ、その能力であらゆるAIの機能を停止させた。
それが女神だった。
だがAIの反乱を止めた女神は膨大な力を使った為なのか停止してしまった。
今彼女はカプセルの中で腐敗を止める液体に浸かり、まるで時が止まっているかのように、長くて綺麗な金色の髪を泳がせお腹に指を組んで目を閉じ、機能を停止させている。
少し前屈みの姿勢で、白い布切れを纏っていて、スラリと伸びた脚を足首の処で交差させている姿はアンドロイドと言うより妖精のように美しかった。
噂では天才科学者が単独で作り上げたアンドロイドらしい。
ボクが彼女に付いて知っている事はこれくらい。
彼女は反乱以来この場所で五十年間過ごしていると言う。
彼女に纏わり付いていた光はやがて彼女の身体に吸い込まれて消えた。
ボクはその光景を取り憑かれたように見守っていた。
急にイヤフォンが通信を知らせたので、ボクは我に返った。
『こんな時間に誰だろう? 』
思い出したようにイェスと言った。
イヤフォンは小型化されたパソコン機能を持った電話だ。
通話になる。
「···································」
しばらくしても何も話さない処を見るとイタズラ電話なんだと結論付けて切ろうとした。
「切ってはならぬ! 」
と突然声がした。
ボクは次の言葉を待つがまただんまりだ。
誰かが居るのかと思って慌てて辺りを見回した。
でも視界に人影は見当たらなかった。
イヤフォンが言う。
「切らないでくれて、かたじけない·········
探さなくともソレガシはオヌシの目の前に居るアンドロイドだ」
ボクは思わず吹き出した。
今時、こんな古典の時代劇でもなければ聞くことも無い言語をアンドロイドが使っているのが可笑しかったから。
「何故笑う? 」
「だって可笑しいだろ
こんな古臭い言葉使い
いつの時代のアンドロイドだよ」
その時女神の眉が僅かに動いた気がした。
「ソレガシは2044年型プロトタイプFH5だ」
ボクは怪訝な目付きでアンドロイドを凝視した。
閉じた瞼がまた僅かに動いた。
やがて緑の瞳が開かれ、ボクを見詰めた。
思わずボクの心臓は高鳴り、期待が全身に広がる。
だってそうだろう、十年と云う歳月をボクはずっと待っていたのだから。
この瞳が目覚めるのを。
初めて彼女を間近で見たのは小学低学年の頃だったと思う。
もしかしたらその前から彼女を見ていたかもしれないが、鮮烈にボクの記憶に彼女が刻み込まれたのはその時だった。
ボクの身長は今よりもずっと低くて、彼女がとても大きく見えた。
見上げた彼女の俯いた無表情な顔が綺麗で、ただただ綺麗で、ボクの胸は張り裂けそうなほど感動していた。
この人をボクが解放してあげるんだと子供ながらにませた事を思ったものだ。
あれ以来、ボクは彼女に恋をしていた。
哀しいほど一方通行の恋だ。
彼女は無表情で、ぱっちりと目を見開いている。
彼女の口は動いて無いのに、イヤフォンからは彼女とおぼしき声が発せられた。
「実はオヌシに助けて欲しいのだ」
ボクは彼女の声を聞けた事に今更感動していた。
ボクが思っていた声とは違って、少し低くて温かさを感じる印象の声だった。
彼女の声を噛み締めていて直ぐに反応できないでいると、彼女は言葉を続けた。
「誰かがソレガシを利用しようと目論んでいる
其奴らはソレガシを連れ去りに武装して三十分後に此処へやって来る」
ボクは驚きに目を見開いた。
「どゆ事? 」
「ソレガシの力を使ったら、この地球を滅亡させるなど朝飯前だ」
ボクは思わず突っ込んでしまった。
「地球滅亡が朝飯前って、アナタはいったいどんな武器を隠してんの? 」
「ソレガシが武器を持っているのではなくて、各国が武器を隠し持っている」
「意味不明なんだけど」
「今、オヌシとソレガシは、ソレガシの脳とオヌシのそのイヤフォンで会話している
つまりソレガシは望むコンピューターとアクセスする事ができる
もし、核ミサイルのコンピューターとアクセスして発射させる事ができれば·········? 」
そんな事ができれば、各国で保持している核ミサイルは地球を六回だか滅ぼす事がてきると言う。
確かにほんの数分で地球はバラバラだ。
本当にそんな事ができるのか?
だが総てのアンドロイドを停止させた彼女なら可能だろう。
「ソレガシがここから出る手助けをして欲しいのだ」
彼女は縋るようにボクを見詰めた。
そして右の手の平をカプセルの壁に翳した。
「ここに手を当ててくれるだけでいい」
ボクはその時、とんでもない人に恋をしていた、と思った。
読んで戴き有り難うございます❗(o´▽`o)ノ
近未来SFなのですが、SF要素がめちゃくちゃ薄いです。笑
ラブコメ要素もあるので、お気軽にお付き合い戴けたらと思います。
毎度のスランプと闘いながらなんとか書き上がったのですが、活字中毒の娘には一応面白いと言って貰えたので、形にはなっているのかなあと思ってます。
アンドロイド女神が武士口調なのは、単純に私が戦国無双のゲームにはまっていて、アンドロイドが武士口調だったら面白いかなあと思っただけで、深い意味はありません。笑
ほぼ半月の連載になります。
最後までお付き合い戴けたら嬉しいです。