交流会で肝試し
入学式が終わってから1週間が経った。1週間も経つと、どのクラスも賑やかだ。だが、ひかりはとても疲れている様子だ。
「ひかり、どうしたの?そんな疲れたって顔をして」
そんなひかりに声をかけたのは、ひかりの友達である、宮野葵だった。
「葵?あーいや、ちょっとね」
「あっ、まさか、さっき話してた肝試しが怖いの?」
「こ、怖くないよ!」
実は、さっきのホームルームの後、先生が教室を出てから話になった、みんなと交流を深めるために今日の夜、肝試しをしようとなったのだ。もちろん、全員参加だ。だが、ただの肝試しならよかったものの、場所が近くにある霊宝山だということが問題なのだ。
(なんでよりにもよって山でやるのよ…。)
夜の山は、霊が集まりやすいのだ。
(なんで、こんなことに…。でも、静音に御幣をもらってて良かった。もしもの時は、あれでどうにかしないと。でも、札がないから、家に帰ったら作らないと。)
札とは、お祓いの時に使う道具の一つだ。
「ひかりって、お化けとか怖いんだ〜!」
「だ、だから違うって!」
「え、白石肝試し行きたくないの?」
急に違う声が聞こえて、ひかりも葵も驚いた。
声の主は肝試しをしようと言い出した、瀬戸悠一だ。
「だ、だから怖くないって!瀬戸君までそう言わないでよ〜」
「あ、そうなの?なら良かった。白石は引っ越して来たから、ちょっとでもみんなと仲良くなって欲しかったから言ったからさ。」
「そ、そうだったの?ありがとう!」
「ほんとかな〜?」
「おい、宮野!」
「あはは、ごめんごめん。」
「二人って仲がいいんだね。」
「そりゃ、幼稚園から一緒だからねー。」
「こいつ、幼稚園の頃はずっと泣いてばっかだったからな。」
「ちよっ、ひかりに変なこと言わないでよ!」
「あはははは。」
「ひかり、そこ笑わないっ!」
「それじゃ、7時に霊宝山の近くのコンビニで。」
「わかった!」
「りょうかいー!」
そうして、7時になった。みんなは霊宝山の近くのコンビニに集まっていた。
「後は、あ、来た来た。瀬戸ー!あんたで最後よ!」
葵は大きい声で言った。
「わりぃわりぃ、待たせたな。じゃ、始めますか。」
「遅れときながら、仕切るのはあんたなんだ…。」
「んじゃ、このくじをみんな引いてくれ。ちゃんと人数分あるはずだけど、足りなかったら、言ってくれる。」
「「「「はーい!」」」」
みんながくじを引き終わった。私は、瀬戸君と、葵はクラスメイトの野山君とだった。
「げ、野山か…。」
「なんでそんな嫌そうなわけ?」
「いやいや、嫌じゃないよ!」
「私は、瀬戸君とか。……周りの視線が痛いのは放っておこ。」
「よろしくな、白石。」
「うん。」
「じゃ、書かれてる番号順に、頂上にある神社にお菓子を置いてきて、別ルートで帰ってくる。そんで、最初の奴が行ってから5分後に次の奴が行く。わかったな?」
「「「「はーい!」」」」
そして、肝試しが始まった。私たちは10番目で、葵はその次だ。
45分後、私たちは山に入った。待っている間、30分経つとみんな無事に帰ってきたから、心配は無さそうだけど、念のためひかりは周りを警戒していた。
「白石怖いのか?」
「え、怖くないよ!」
「ならいいんだけど。いや、ここ結構心霊スポットで有名なんだよな。」
「え?」
「まあ、みんな帰ってきてるから大丈夫だろうけどよ!」
「そうだね。」
(心霊スポットで有名か…。どうりで霊気が多いわけだ。でも、これは悪霊じゃないから大丈夫かな。それより問題は、この霊気に隠れている妖気か…。)
「お、見えた。あそこにお菓子を置くんだ。」
「うん。じゃあ、行こうか!」
「おう。にしても、雰囲気すごいな。ほんとに怖くないのか?」
「まあね。瀬野君は?」
「ずっと思ってたんだけど、君はいらないから、瀬野って呼んでくれ。」
「分かった。じゃあ、瀬野は怖くないの?」
「こ、怖くねーよ。」
「あはは。じゃあ、置くね。」
「おう。」
そうして、お菓子を置いたとたん、周りの空気が変わった。妖気が強くなったのだ。
「っ!」
「瀬野っ!」
隣で、瀬野が苦しそうにしているのを見たひかりは、瀬野の名前を呼んだ。この妖気の強さは、霊力がない人間でも感じられる。だが、普段は感じない気配にあたると、立っていられなくなるほどに、頭痛や、吐き気が襲ってくる。
「瀬野!大丈夫?!」
「ああ。…なんともないっ!」
本来なら、立っていられないはずなのに、瀬野はフラフラしながらも、立ってこう言った。
「早く、ここから離れよう。なんだか嫌な感じがする。」
「う、うん。」
すると、誰かの声が聞こえた。
「先ほどから我を弄ぶ愚か者は誰だ」
「なんだ、この声…っ」
「瀬野、大丈夫?」
「なんだ、ただの人間か…。にしては、霊力が強いやつがいるな。」
ひかりは声の主の方に目をやると、そこには二メートルほどの大きさであるキツネの妖、妖狐がいた。
「っ!」
ひかりはこれ以上は無理だと思ったのか、家で作ってきた札を瀬野に見えないように出して、小さく術を唱えた。
「星よ、彼の者を僅かな眠りへと誘え。」
すると、瀬野が倒れるように眠った。
「ほほう、お前巫女か。それも、“あの四家”の」
「よくわかったわね。念のため、これもつけておくか。」
そう言って、ひかりはどこからか、面を取り出し、つけた。
「ほほう、その霊気、お前、星宮か。だがおかしいな。星宮の名は最近聞かなくなったのだが。まあいい。さあ、かかってこい、星宮!」
「そこまでわかっちゃうか。でも、ここで奴を消したら知られないままか。やってやろうじゃない。」
「どこまでできるかな?」
そう言って、妖狐は火を飛ばしてきた。
「この狐火を、人間が防ぐことができるか!」
「舐められたものね。」
そう言って、ひかりは札を取り出して、呪文を唱えた。
「星よ、我らを守れ」
すると、札から四角い壁が作られた。これは、結界だ。
「なっ、なかなかやるな。」
「あら、随分弱いのね。次は私ね。」
そう言ってひかりは御幣を取り出した。そして、ひかりの目に星が宿った。
「術式 星、展開。」
そう言うと、ひかりの足元が光った。その光は大きい丸の中に星の形が描かれていた。
「星神よ、今こそ汝が力、我に与えよ。宇宙の果てにて星となれ。砕けなさい!星魔 星霊破滅」
「ならなんて力だ...。くそ、敵わない...。」
ひかりが呪文を唱えると、妖狐は光に呑まれて消滅した。
「ふう、どうにかなるものだね...。」
ひかりはそう呟きながら、面を外し、瀬野の方を見た。
「っ!」
すると、瀬野が目を覚ました。
「瀬野、大丈夫?」
「え、白石?あれ、俺、何やって…、あ、なんかすごい嫌な感じがして!て、あれ?何もない?」
「き、急に瀬野が倒れたからびっくりしたよ。大丈夫?」
ひかりは、瀬野に気づかれないように嘘をつく。
「お、おう。じゃあ、下に、降りるか」
「うん。」
瀬野は大丈夫と言っていたが、まだふらついていた。
「ねえ、瀬野。本当に大丈夫?体調悪いの?」
いくら術で眠らせたからと言って、あの妖気に当てられたのだ。しばらくは頭痛や吐き気は治らないだろう。
「っ、やっぱしんどいや。わりぃ。」
そう言って、倒れかけた。それをひかりが支えた。どうやら、意識はあるようだ。
「大丈夫?顔色、すごく悪いよ、?」
「平気、ちょっと休めば良くなるさ。」
「分かった。」
そう言いながら、ひかりは座れそうな場所に移動し、瀬野を座らせた。
しばらくしてから、瀬野が
「よし、もう大丈夫だ。」
と言ったので、二人は集合場所に戻った。その五分後、葵達も降りてきた。
そして、全員無事に帰ってきたので、解散となった。
帰り道、瀬野がひかりに近づき、こっそりと
「さっきはありがとな!」
と言ってそのまま帰っていった。
「こちらこそ。」
その呟きは、誰にも聞こえていなかった。