62.及ぼした影響?
ある日の午前中、俺は体育館の脇に座り考えていた。
何か、入学する時は深く考えなかったけどさ?
「ナイスサーブ!」
黒前高校って……
「あっ、わりぃ!」
「ドンマイドンマイ」
なんか変わってるところあるよな?
「よっしゃー、勝ったぁ」
体育館に響く各クラスの歓喜と落胆の声。そんな中、隣に座る山形と白波に、
「なぁ、黒前高校って妙に変なところないか?」
今さっき浮かんだ疑問を問い掛けていた。
「ん? 変?」
「いや、入学するときはさ、ぶっちゃけ行事予定なんて気にしてなかったんだ。けど……これ体育祭だろ? 体育祭って名前のくせに中身球技大会じゃね?」
そう、今現在行われているのは黒前高校体育祭。しかしその種目はバレー、バスケ、ドッジボール。そしてなぜか球技に混じってクラス対抗リレー。これだけ見れば、体育祭じゃなくて球技大会+リレーと言った方がシックリくるはず。
「あぁ、言われてみればそうだな」
「俺は運動会得意じゃないから万々歳なんだけど?」
「しかも時期が最悪じゃね?」
「時期?」
「先週文化祭あったばっかだぞ? しかも今月末にはウィンターカップ予選なんだよ」
「ここで怪我したら最悪だよねぇ」
白波の言う通りだ。
「バスケは冬にも大会あんのか? だったら怪我するわけにはいかないもんな」
「そうそう。だから力入れてやる必要が……」
「よっし晴下! 全力で来い!」
「先輩……全力でやって怪我でもしたら元もこうもないですよ?」
「いやいや、やるなら全力だろ?」
マジッすか、野呂先輩……3年生がそんなに張り切ってどうするんですか。晴下先輩見習って下さい。
「黎ー!」
ん? 黎? 誰……あっ!
「頑張ってー」
あれは磐上彩音!? そいえばさくらまつりで2人見かけて以降、特に気には留めてなかったけど……
「あっ、あぁ」
てっ、照れてる!? あからさまに照れてる! まっ、まさか晴下先輩……本当にそんな関係だったんですか? ……はっ! 待て待てこれはマズくないか? よりによって野呂先輩の前でそんな……
「はっ、晴下……貴様……リア充は殲滅じゃぁ!」
やっぱりぃ! 頼みますよ? 怪我だけは勘弁して下さいよ? お願いしますよ!?
「おっ、海? 次俺達だぞ?」
「あっ、あぁ」
くっ、こんな時に出番か……大丈夫か? 下平キャプテンは……居ないっ! 立花先輩も……居ない?
もしも野呂先輩が暴走したら止めれる人が居ないじゃないか!
「昇君ー」
「あっ、すずちゃん」
ん? あれは間野さんに多田さんに……湯花!?
「がんばー」
「おうよっ! やってやるぜっ!」
おいおい、ここにも良いとこ見せようと張り切ってるやつがいるよぉ。
「白波? 負けたら……」
「ひっ、ひぃ! ぜっ、絶対かかか勝つぞぉぉ!」
白波、お前多田さんに弱みでも握られてんのか? 軽く脅されてるやつもいるよぉ。
ったく、俺はパス。
「かーいー」
わかってるって湯花。絶対全力は……
「海ー? 頑張ってねっ」
頑張って……ガンバッテ……がんばって……
ヤバい、山形ごめんな? 白波ごめんな? 女の子から応援されるってこんなにも嬉しいものなんだな。しかも……彼女なら尚更なんですけど! ここは……
「任せとけ!」
格好良い姿見せるしかない!
「ちょっと皆集まれ……良いか? この試合……絶対勝つぞっ!!」
「「おぉ!」」
そして、そんなやる気に満ちた俺達の体育祭は、準優勝という形で幕を下ろした。
「いやぁ雨宮、お前達強かったよ」
「いえいえ、結局決勝で晴下先輩のクラスに負けちゃいましたし、さすが先輩です」
「なぁなぁ、野呂先輩おかしくないか? さっきからブツブツ言いながらひたすらジャンプしてバックボードにタッチしてるんだけど?」
「ん? ブツブツ?」
「……けた……負けた……全部負けた……リア充達に……」
あっ、もしかして……晴下先輩のクラスはもとより、俺のクラスにも負けたからかなりの精神的ダメージを受けてるんじゃ……
「はいじゃあ練習始める前に一旦集まってー」
ん? 集合? のっ、野呂先輩聞こえてますよね? ……ホッ、ジャンプするの止めて、めちゃくちゃゆっくりではあるけど監督の方へ来てる。
「えっと改めて、ウィンターカップ予選まで残りは少ない。今日もオフェンスディフェンスの総合的な動きを鍛える為に試合形式の練習を多くやろうと思ってる。皆宜しくね?」
「「はいっ!」」
「あぁ、あと……下平?」
「はい」
「下平から皆に話しておくことがあるそうだ」
ん? キャプテンが? なんだろう……
「えっと、今日は皆に話しておきたいことがあってさ、実は……」
じっ、実は……?
「俺、高校卒業したら鳳瞭大学へ行こうと思ってる」
「鳳……瞭?」
「東京の大学じゃ……」
「こんなこと話すのは場違いだと思ってる。けど、やっぱり皆には嘘つけないからさ?」
鳳瞭大学!? 望さんも通っている、あらゆるスポーツにおいての名門大学……
「他に何校か話は貰ってたんだ。それで最初は黒前大学に行こうとしてた……皆も進学すると思ってさ? けど、インターハイが終わって、夏合宿とか……経験したらさ? 思ったんだ。もっと……上手くなりたいって」
上手く……
「鳳瞭大学はスポーツにも力入れてて、Bリーグのチームとも連携しあってる。それに時々プロの試合に出られることだってあるんだ。だから……決めた。そこでバスケができたら、絶対上手くなれると思ったから」
下平キャプテン……
「だからさ、俺……本当にウィンターカップで後悔したくないんだ。最初で最後、皆で笑って全国行きたい。だから……力を貸してほしい」
他の大学……それはキャプテンなら十分あり得る話だと思ってた。けど心の中では、先輩達の多くは黒前大学へ行って、大学でもまた一緒にプレーできるかもって想いもあった。でも……
キャプテンは別の道を選んだ、上手くなる為に。
そしてそのことをこのタイミングで俺達に伝えたっていうことは……嘘をつきたくないってことと、もう1つ……
このメンバーで居られるのは本当に今だけ、だから絶対翔明実業に勝とう!
その覚悟の現れ。
そしてそれを俺達が感じ取るのに……時間は掛らなかった。
「聖……当たり前だろ?」
「もちろんだ」
「言われなくたって全力だぜ?」
俺も同じです。そのこと聞いて俄然やる気ができましたよキャプテン。絶対行きましょう?
「ははっ、ありがとう。じゃあ皆宜しくね?」
「「はいっ」」
「あっ、あとも1つ……」
ん?
「たちば……いや? めい? こっち来てくれる?」
「えっ、ちょっと……」
めい? って立花先輩のことだよな? けど、名前で呼んだのはあの夏合宿の時だけじゃないか? ……それより女子のキャプテンと並んで一体何を……
「えっとさ……実は俺達付き合ってるんだ。隠しててごめんね?」
「ひっ、ひじりっ!!」
まっ、まじですかキャプテン……
「……」
「…………」
このタイミングで、しかも皆に暴露するんですかぁ!?
「よっ」
スパッ!
「ナイシュ」
静かな体育館に響く2人の声と、ボールの音。それはいつもと変わらない居残り練習の光景。ほぼ毎日日課のようにこなしてきたそれは、今となっては、練習というより湯花と過ごす大切な時間って意味合いの方が強く感じている。
けど、勝負するときは真剣に。それだけは俺も湯花も心に強く決めていた。
「なぁ湯花?」
「んー?」
「今日、キャプテンが言ってたのって……俺達のことじゃないよな? キャーとか、やっぱりそうだったんだぁって周りは騒いでたけど……」
『自分の気持ちに正直になれたら、もっと上手くなれる気がするんだ。まぁ実際目の当たりにしてるからね?』
「あの時、俺の方見て……目が合った気がするんだ」
「そうなの? 立花先輩に皆行っちゃったもんだから、目の前壁で全然見えなかったよ」
「まぁ考えすぎかもしんないけどさ? けど……鳳瞭大学に行くとか、皆の前で立花先輩との関係暴露するとか……今までのキャプテンからはちょっと考えられない行動じゃないか?」
「確かに……」
「その真意は分からないよ? でもハッキリしたのは、キャプテンは黒前大学へは行かない。だから本当に本当に……このメンバーで試合ができるのは最後だってこと。絶対全国へ行こうって……キャプテンの強い意志」
「強い意志かぁ……」
「だから絶対に……全国行きたいんだ」
「行けるよ。絶対!」
「本当か?」
「海の努力を1番知ってるのは私だよ? いつも隣で見てた彼女の言うこと信じてよ。それに……海は私にとって……優しくて、格好良くてバスケが上手い……自慢の彼氏なんだからっ」
はいドーン! 撃ち抜かれました。心臓撃ち抜かれました。恥ずかしくなる言葉にその笑顔は一撃必殺です。
「なっ! ……ったく」
「にっしっし」
「もちろん勝つぞ。でも湯花? 女子も絶対勝てよ? そんでさ一緒に行こうウィンターカップ。そして東京に……ね?」
「……東京かぁ。うん、絶対一緒に……」
「いこっ?」




