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59.終わりの後に

 



 ピピピ、ピピピ


 ぼんやりとした意識の中で、聞こえてくる電子音。段々と大きくなるその音に比例するように、ハッキリとしてくる頭の中と目の前の光景。


 見慣れない天井。そして頭を持ち上げると真正面にある窓のカーテンから薄っすらとこぼれる光。息を吸うたびに感じる石鹸の良い匂いで、ここがどこなのか思い出す。


 ここ湯花の部屋だ……ということは?

 自分の左手を枕に寝ていたはずの湯花。けど、今はその重さを感じない。視線を向けてもやっぱりそこに湯花の姿はなかった。


 居ない? でもアラームは……止まってる。あれ?


「海? おはよう」


 その瞬間、耳元に聞こえるその声に、驚きはもちろん……それ以上に嬉しさを感じる。


 ゆっくりと体の向きを変えると、そこには立ち膝をついて俺を覗き込む湯花。

 この優しい表情を朝から見れるなんて最高過ぎる!


「おはよう、湯花」

「ふふっ」


 少し微笑んだ後に、重なり合う唇。

 こんな風に起こされるなんて最高過ぎるだろ!? 


 改めて、隣に大切な人が居る喜びと、将来必ず……そんな気持ちがより一層強くなる。




 そんな心地良さも束の間、俺達にはやるべきことが残っていた。今の時刻は午前4時、まだ起きてはいないと思うけど、誰にも見つからず皆が寝ている部屋まで戻るという最後の試練。

 まぁ1番の難所は湯花の家から旅館に行くまでの道中だったけど、湯花が先導してくれたおかげで見事突破。そのまま3階まで進むと、お互いに自分の部屋の前まで辿り着いた。


 そして顔を見合わせ、手を振り合うと同時に部屋へと入っていく。

 頼むぞ? 寝てろよ?


 ゆっくりと襖を開けていくと隙間から見えたのは、布団は散らかり、全くもってバラバラの位置。更に情けない格好で寝ている……3人の姿だった。

 おい、お前ら……寝相悪すぎだろっ!


 そんな3人を跨ぎつつ、俺は部屋の隅まで自分の布団を引っ張るとその中に潜り込む。そしてスマホに目を向けると、


 ピロン


 タイミング良く届いたのは、湯花からメッセージ。


【ドキドキだったね。海の隣は私の場所だからね? もちろん私の隣は海だけの場所だよ】


 そんなメッセージを見て、ニヤけない訳がない。

 早朝から熱くさせないでくれよ湯花? そんなの……


【離れるなよ? てか離さないけど】


 当たり前だろ?




「「お世話になりました!」」


 青空広がる太陽の下、巴さんや湯花のお父さん達にお礼を口にする山形達。


「てか、なんで海! お前がそっちに並んでるんだよ?」


 ん? あっ……やべ。ついつい湯花の隣に立ってたらお礼言われる側に居たわ。


「そうだぞー」

「えっ、もしかしてもうそんな……」


「白波? なに言ってんの中学からの知り合いだよ? そうに決まってるじゃん」

「なんか……こうして見てると違和感ないもんね」

「いいなぁ公認カップルなんて」


 えっ、あの……それを知ってるの巴さんだ……


「えっ、公認? ……はっ! 湯花!? 海君!? まさか……」

「お父さん? あとで話しますから今はお見送りが先ですよ?」

「おっ、おう」

「ふふっ。お父さんにもバレちゃったね?」


 何笑ってんだよぉ! てか、言っておいてくれても良かったんじゃないの?


「いやぁ、隠すつもりはなかったんだけど……ねぇ?」


 その小悪魔のような笑顔、絶対ワザとだろ? ったく、でも……可愛いから許すけどさっ!




 そんな具合で、色んな意味で楽しかった打ち上げパーティは無事に終了し、山形達は源さんの運転する車に乗って宮原旅館を後にした。


 まぁあとは想像通り、


『湯花!? さっき言ってたことは本当なのか?』

『海君! いつからだい? 湯花で良いのかい?』

『巴ー、知ってたなら教えてくれよぉ』


 湯花のお父さんによる怒涛の質問ラッシュに会い、根掘り葉掘り聞かれたけど……


『まぁ、海君なら安心だ。いつでも泊まりに来てな』


 その言葉を聞いた瞬間に、嬉しさと認めてもらえたって安心感で一杯だった。


『ふふっ』

『ふふふっ』


 まぁそれを見ていた2人……もしかしてこうなるように仕向けたのか? 

 そう疑わざるを得ないくらい落ち着いた様子で、笑顔を見せる姿に……やっぱり親子なんだと思い知らされたっけ。


 それでも、そんなの忘れちゃうくらい湯花と一緒に居られる時間は楽しかった。皆で一応部屋は片づけたけど、格安で泊めてもらったお礼も込めて、湯花と一緒に掃除機で綺麗に。


『楽しかったね? 海』

『だな? でも本当にありがとうな? 色々準備してくれて』


『全然だよ! それに海も手伝ってくれたし』

『あんなの手伝いに入るかぁ?』


『入るよ? それにどんなことでも、海が近くに居るだけで……嬉しいんだもん』

『俺もだよ?』


 なんてバカップルのようなやり取りしてたなんて……今思い出したら火の吹くように恥ずかしい。




「それじゃあ、俺も帰ります」

「またいつでも来てね?」

「そうだぞー!?」

「ありがとうございます」


 本当に……認めてもらえたんだな。


「海? また来てね? また泊まりに来てね?」

「当たり前じゃんか。絶対」


「嬉しい」

「ふっ」


「あらやだ、アツアツねぇ。火傷しちゃいそう」

「火傷?」


「お父さんはちょっと黙ってて?」

「えっ!? まっ、まぁ……とにかく! 海君、湯花のこと頼んだ! 元気過ぎて五月蝿いかもしれないけど……」

「ちょっ、お父さん!?」

「根は思い遣りがあって、優しい子なんだ」


 湯花のお父さん……そうですね。湯花は素直で……めちゃくちゃ優しいですよ。


「俺も十分、そう思ってますよ?」

「かっ、海……」


「なんだ! さすがだなぁ……まっ、ホントいつでも来てくれよ」

「そうよ? いつでも歓迎するわ」

「ふっ、2人共何言ってんの!」


 2人から感じる優しさ、それは湯花から感じるそれと似ている。だからこそ分かるんだ。この宮原家がどれ程仲が良いのか。

 そして、改めて思う。この人達と……家族の繋がりを持ちたいって。


「本当にありがとうございます。俺湯花を悲しませたりしませんから! それだけは信じてください」

「はっ! ……もっ、もぅ」

「もちろんよ?」

「ふっ」


 そう言う2人の表情は優しくて、本当に信じてくれたって思うには十分だった。そして俺は……


「じゃあ湯花行くよ? また明日な?」

「うん、また明日!」


「あっ、それと……」

「うん?」


「お弁当、楽しみにしてる」

「本当!? にっしっし、期待しててね?」


 そんな3人に見送られながら、宮原旅館をあとにした。




 結構距離あるから、自転車だとキツく感じるはずなのに……昨日のこと思い出してたらあっという間に家の近くまで来てたよ。


 にしても、湯花可愛いかったなぁ……柔らかかったなぁ……はっ、そうだ! アレ買いに行かなきゃ! とりあえず家に入る前に、ドラッグストア行くか。

 じゃあ家の前に通り過ぎて…………ん? あれ誰だ? 家の前から誰かが道路に……って!


 家の前を駆け抜けようと、スピードそのままに自転車を漕いでいた俺の前に、タイミングよく道路に出て来た人影。位置的に出てきたのは俺の家で間違いない。そして、


 キィィー


 自転車のブレーキ音が響き渡る。

 その人影の前で停止した俺。確認しようとこちらに体を向ける人物。その顔が目に入った瞬間、俺は思わず……生唾を飲み込んだ。


「おっ、やぁ! 久しぶりだね?」


 なっ、なんでこの人がここに居る? 


「おっ、お久しぶりです……」


 たっ、確か東京の大学に行ったんじゃ……なのに……


「元気してた? 海君?」


 どうして! 今日ここに……俺の家の前に居るんだ!? 



 皆木(みなき)……(のぞむ)……




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