54.面白くて楽しみで……熱い!
「それじゃあ皆さん……文化祭お疲れ様でした! かんぱーい!」
時刻は午後7時過ぎ。場所は黒前駅前、レストラン&カフェゴースト。そんな場所で盛大な乾杯を告げたのは我らが1年2組学級委員長。かくして、
「「かんぱーい」」
文化祭打ち上げパーティーなるものがスタートしたのだ。
「いやぁお疲れー」
「お疲れー」
「何とかなったねぇ」
「うんうん」
各席から聞こえる喜び・労いの声も一入で、クラス皆で乗り切った充実感に溢れてる……んだけど、
「ホントありがとうー水森さんっ! 水森さん居なかったら私倒れてたよー」
「いやいや能登さん、それは言い過ぎだって」
「言い過ぎじゃないよー」
うん。うちの委員長がお世話になったから是非っ! と言うことで、2組・3組合同の打ち上げ……ということで……
「かーいー? カンパーイ」
「おっ、湯花。乾杯」
「すずちゃん!」
「あっ、昇君。乾杯ー」
「白波ー、メロンソーダとって来てくれる?」
「えっ?」
「ん?」
「たっ、ただいまお持ちしますー!」
いつものメンバーも揃い踏みだ。
「いやぁまさかの展開だね」
「合同とはな。うちの委員長が大分水森さんに恩義を感じてるみたいだ」
「会議とか忙しかったみたいだしね」
「1年となると慣れない部分もあるし、水森さんと仲良くなれたことが相当嬉しかったみたいだな」
「だねぇ。あっ、海。昨日はごめんね?」
昨日かぁ。
昨日の文化祭・姉ちゃん達と遭遇した俺達は、デザート求めて日南先輩のクラスに向かったんだけど……姉ちゃんと希乃さんも最初からそこに行く予定だったらしくって、結局4人で向かったんだよな。 そんで湯花にアイスキャンディおごって次どうするー? なんて話してたら、湯花のストメに連絡。急遽模擬店にヘルプ行くことになり、文化祭デート終了。
結構楽しかったけど少し物足りなさも感じたんだよな。まぁ仕方ないっちゃ仕方ないんだけどね。
「気にすんな! 湯花のせいじゃないし」
それに今日に至っては、昼過ぎまでは普通に模擬店やってたけど、そこからは片付け。もちろん湯花と一緒に回ってる時間なんてなくて……あっけなく文化祭は終了。でもこの打ち上げの場に一緒に入れるのは嬉しい限りだ。
「それでね? 私ちょっと考えたんだけどさ……」
「ん?」
「明日明後日って文化祭の振り替え休日じゃん。だからさ……いつものメンバーで打ち上げしない?」
イツメンで? 確かに良いかも!
「良いなそれ。どこでやる?」
「それも考えたんだけどさ……うちどうかな?」
「うち? うちって湯花の家? ということは……」
「旅館で泊まりがけで打ち上げ! どう?」
待て待て旅館で打ち上げ? 泊まり? 唐突過ぎてビックリしてんだけど……いやむしろ、逆に聞きたいくらいなんですけど。いいの!?
「どうって、そんなのできたら最高だぞ? でも俺達にそんなお金は……」
「大丈夫、客室に使ってないところがあるし……実はもうお父さんにお願い済みなんだ! てへっ」
「かっ、お願い済みって……お父さんなんて?」
「おうっ、明日はお客さんも2組しか居ないから全然良いぞーだって」
軽っ! 返事軽っ! でもマジでOKなら……めちゃくちゃ楽しいよな?
「マジか、本当に良いのか?」
「もちろん。黒前来てさ、このメンバーと出会えて仲良くなれたことが嬉しいんだ。だからっ!」
「湯花……分かった。じゃあ皆に聞いてみようぜ」
「うんっ!」
「マジ!?」
「声大きいよ山形君!」
「悪い悪い!」
「それにしても湯花ちゃんの家が旅館だなんて……」
「知らなかったぁ」
「海、お前はもちろん知ってたんだよな?」
「そりゃな?」
「でも本当に俺達が行っても良いの?」
「もちろんだよっ!」
まぁこんな反応が当たり前だよな。友達の家が旅館で、泊まりに行けるだなんて……にわかには信じられない。けど、正真正銘湯花の家は宮原旅館で、あのお父さんなら軽く良いよー! って口にする姿が容易に想像できてしまう。
「とりあえず、皆明日の予定はどうかな?」
「私は大丈夫だよ」
「私も」
「私もぉー!」
「水森さん達は全員OKだね? 男性陣はどうかな?」
「俺も大丈夫!」
「同じく!」
「全然暇だよ」
「おっけぇ! 海は?」
おっと、俺か? そんなの……
「聞くまでもないだろ? 湯花」
「ふふっ、了解」
「でもさ? タダはまずいよ? 湯花ちゃん」
「そうそう、さすがに悪いよぉ」
言われてみると、多田さん達の意見には同感だね。
「確かに。いくらなんでもタダはなぁ」
「んーそっかぁ……じゃあ1人500円とか?」
「やっす! せめて2,000円以上にしようぜ?」
「谷地君の言う通りだよ。それでも安すぎる気はするけど」
「えぇ! ……じゃあわかった! 参加費1人1,000円で」
「1,000円!?」
「私の提案だし、これ以上は貰えないよ?」
「いっ、いいの?」
「もちろんだよ、真子ちゃんっ!」
「よっしゃぁ、決まり!」
「声おっきいよ? 昇君」
「ごめんごめん」
「じゃあ詳しくは後でグループストメで流すね?」
「「了解ー」」
そんな感じであっと言う間にイツメン達による打ち上げパーティーが決定し、その後は皆でどんちゃん騒ぎ。そして気が付けば……
ん? もう良い感じの時間だな? 列車無くなる前に帰らないとな?
「湯花?」
「ん?」
「結構良い時間だし、そろそろ帰るか?」
「時間……げっ、もうこんな時間? 全然気が付かなかったぁ」
「仕方ないって。じゃあ一緒に帰ろう」
「うんっ」
「じゃあ俺達帰るな?」
「おー! 列車無くなるもんな?」
「ちゃんと送り届けろよ?」
「えぇーもう帰っちゃうの?」
「白波、ちょっと静かにしなさいよ」
白波、たまに出てくるオネエチックな言い方どうにかしてくれよ。マジでそのガタイと一致してないからな?
「それじゃあ、あとでストメするね。じゃあね?」
「うん。ばいばぁーい湯花ちゃん」
「昨日今日と本当にありがとうね。湯花ちゃん」
さて、お金は最初に払ったし……あっ、一応我が学級委員長にも挨拶して帰るか。
「委員長ー俺達もう帰るよ」
「おぉー雨宮。ホント男子の方まとめてくれてありがとうね。……ん? 俺達?」
「ん?」
「えっ、なに? 横に居るのは3組の宮原さん? もしかして……」
「もしかして?」
「付き合ってんのかぁ!?」
こっ、声でけぇ!
「何なに?」
「えっ、雨宮と隣の宮原さん付き合ってるんだって」
「マジ?」
「超お似合いじゃん」
あぁ……委員長。お前に挨拶しに来たことを後悔したわ。まさかそんな大声出されるとは思っても見なかったよっ!
「いっ、いやぁごめんごめん。つい興奮しちゃった」
「ついじゃねぇよ!」
「ははっ、あっ……委員長としてこれだけは言っておくぞ?」
「なんだよ?」
「真っすぐ家に帰れよ? ラブラブ光線出しっぱなしで……」
「そうだそうだ。ホテルなんか寄るなよ?」
「そうだー!」
ホッ、ホテルって!? おっ、お前らぁ……
「行く訳ないだろっ!」
人通りの少ない駅前通り。さっきまで騒がしかった店内に居たからか、それはいつにも増して静かに感じる。
ったく、余計なこと言いやがって。湯花大丈夫か。とりあえず……打ち上げパーティーのお礼改めて言っとくか。
「なぁ湯花」
「どっ、どしたの?」
「明日の打ち上げパーティーのこと、本当にサンキューな?」
「全然だよ。あのメンバーが居たから……多分今の私達が居ると思うんだ。だから少しでも恩返ししたくって」
湯花……
「そっか。あっ、じゃあ俺も色々手伝うよ。使わせてもらえる部屋の掃除とか、午前中とかには行こうかな」
「えっ!? そんな……気持ちだけで十分だよ」
「いいって、湯花と一緒に手伝いたいんだよ。それに……その方が一緒に居られる時間多くなるだろ」
「はっ! もぅ……てへへっ、嬉しいなぁ」
「ふっ、だからいいだろ?」
「はいっ! 是非お願いします」
お互いに笑みを浮かべながら、俺達はそっと手を繋いで歩き続ける。10月の夜は少し肌寒くなっていて、より一層湯花の体温を感じられた。
「あっ、あのね……海」
「ん?」
なんだ?
「その……1個聞いても良い?」
「どしたー?」
「その……海はやっぱり……行ってみたい?」
「行ってみたい?」
どこの話だ? 湯花の家にも部屋にも一応行ったことはあるけど……
「うぅ……その……」
それにしては妙にモジモジ?
「ホテル……」
「なっ!」
いっ、いきなり!? はっ! もしかしてさっきの奴らの話気になって?
「ホテルって、そういう意味のホテルのことだよね。海はどうなのかなって……」
くっ、そりゃ……興味はある。けど高校生OKなの? ってそんな倫理的な問題じゃないっ! あくまで願望の話だよな。だったら隠す必要はないのでは。
「そっ、そりゃ……興味はある。それに湯花と……行きたい……よ」
「ほっ、本当?」
「当たり前だろ? けど……」
「ふふっ。海の言いたいことわかるよ? でも……わっ、私はいつでも良いからね? 海が興味あるなら……いつでも……大丈夫……だから……」
あぁ、なんだろう。俺の周りだけかな?
夏が舞い戻って来たように……熱いっ!!




