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53.口にするのが嬉しくて

 



 あぁどうしよ。


「海? どこ行こっか」


 湯花と校内を歩いてる。


「まっ、任せるぞ」


 しかも腕掴まれて、体が密着してる!


「ん? かーいー」


 うおっ! ひっ、引っ張るなぁ! ぎゅって力入れるなぁ! 胸が当たってる弾力がMAX! 左腕が吸い込まれてなくなっちまうよ!


「なっ、なんだ?」

「照れてる?」


「てっ、照れてない!」

「本当かなぁ?」


「本当だともっ!」

「ふふっ、じゃあ……もっとだっ」


 はっ! さらに至福の柔らかさが……!


「これでも大丈夫なんでしょ?」

「だだっ、大丈夫さぁ」

「海ったら……可愛いな」


 くっ、こいつ楽しんでやがるな? けど、その小悪魔的な顔も……良いじゃないかっ! って、いかんいかん。気を緩めると一気に顔も緩んじゃうよ。腕はホットに頭はクールに……よっし!


「ふっ、ふぅ。それで? 最初はどこ行こうか?」

「んーそうだな? 海はお昼自分のクラスで食べた?」


「いや? まだだけど」

「そっかぁ。じゃあお昼食べに行かない?」


 いいねぇ。結構他のクラスでも食べ物系の模擬店やってるから、選び放題だしな。


「いいね。湯花は何食べたい?」

「んー特に好き嫌いはないからなぁ」

「俺もだ」


 どうしたもんか……あっ! そう言えば野呂先輩のクラス、ラーメンやるって言ってたなぁ? 先輩達のクラスにも貢献できるしラーメン美味しいじゃん?


「そう言えば野呂先輩のクラスでラーメンやるって言ってなかった?」

「あっ! 言ってた! ご当地ラーメンでしょ? 立花先輩も同じクラスなんだよね」


「そうなのか。じゃあ尚更どうかな?」

「賛成ー! 決まりだねっ」

「じゃあ行こうか? 3年生の教室まで!」


 見慣れたはずの校内も今日は沢山の人で溢れていて、その雰囲気はいつもと違って見える。黒前高校の生徒はもちろん、私服姿の他校の生徒や保護者、地域の人達。廊下の人通りが激しくなるのも無理はない。


 こりゃ勝達以外の知り合いに遭遇する可能性もあるなぁ。それにこの格好……湯花は腕離す気はなさそうだし、見た瞬間俺達の関係を察するね。まぁ別に隠す必要もないけど一応……


「なぁ湯花」

「んー?」


「こんな感じで野呂先輩達のとこ行ったら、俺達の関係バレると思うけど……良いのか?」

「良いに決まってるじゃん! 隠す必要なんてないもん。それにぃ? 海だって同じこと思ってるんじゃない?」


 お見通しかぁ。


「バレた? まぁその後野呂先輩に何されるかは考えたくないけど……良いよな。皆にバレても」

「てへへっ、むしろ見せつけたいな」


「……見せつけちゃうか」

「うんっ!」




 なんてそんな惚気話をしていると、あっと言う間に3年3組の教室付近まで到着。その様子を見る限り結構にぎわっているみたいで、廊下にも順番待ちらしきお客さんの姿がちらほら。


「結構混んでるのかな」

「すごいねぇ。ちょっと待たなきゃだね」


 なんて話していると、


「ふぅー」


 まさに狙ったかのようなタイミングで、野呂先輩が教室から出て来た。

 うぉっ! まさかいきなり遭遇するとは……


「ん? おぉ、雨宮に宮原! もしかして食べに来てくれたのか?」


 しかも速攻で目付けられたぁ!


「こんにちはっ、野呂先輩。海と一緒に来ちゃいました」

「きっ、来ちゃいました」

「ん?」


 湯花、何事もないように普通に話すなんてさすがだな。けど……めっちゃ俺達のこと凝視してんですけど!? これは……


「はっはっは」


 ……えっ? 爆笑? なんで?


「何だお前ら! いつも仲良いのは知ってるけど、そんなことしてたらまるでカップルだぞ? はははっ! おもしろいなぁ、ちょっと待ってろ」


 えっと……これはどういうこと? 教室の中行っちゃったんだけど? 


「湯花? 先輩どうしちゃったんだ。壊れた?」

「わっ、わかんない……」

「こっちだこっち」


 あっ、出て来た。こっち?


「見て見ろよ立花!」

「何ー?」


 しばらくして野呂先輩が戻ってきたかと思うと、その後ろに居たのはまさかの立花先輩。そして野呂先輩が指さしてる俺達の方へ顔を向けたんだけど……


「ちょっと忙し……えっ?」


 その顔は一瞬で驚きの表情に早変わり。いや、多分これが普通の反応なんだけどね。野呂先輩は何をどう勘違いしたのやら……いや、でもここは女子バスケ部キャプテンにちゃんと報告しないと。


「こんにちは、先輩っ!」

「お疲れ様です」


「おっ、お疲れ様……けど、あんた達その佇まいにその雰囲気……」

「えっと、そういうことなんです」

「ははっ」


 少し緊張気味な俺に反して、まるで普段の会話をするような感覚で話す湯花。でも当の立花先輩はというと、笑顔で話す湯花の顔を見るやいなや、その表情がゆっくりと笑顔になっていって……


「ふふっ、そうだと思ってた。居残り練習始めた日辺りから?」


 後輩から根掘り葉掘り聞いてやろうという、先輩方特有の顔へと一瞬で変わっていた。


「へへっ、実は夏合宿の時で……」

「えっ? そうなの? てか、むしろ入学した時からそういう関係かもって思ってたんだけど」


「色々ありまして……それで今は……」

「なるほどね。見てるだけで火傷しちゃいそう」


「ほっ本当ですか?」

「湯花のそんな顔、部活じゃ見たことないもん。ふふっ」


 おっと、ガールズトークが始まりました。こうなると男性陣は蚊帳の外……


「何言ってんだ立花。こいつら面白いだろ?」


 切り込んで行ったぁ!?


「はぁ……あのねぇ野呂?」

「なんだ?」


「あんたの気持ちも良く分かる。現実逃避したくなる気持ちも分かる」

「……現実逃避?」


「この2人は付き合ってんの、正真正銘恋人同士なの! いい加減認めなさいって」

「はっ! そんな……そんな……」


 ん? ということは、野呂先輩壊れてたとかじゃなくて、もしかして。


「くっ! あっ、あっ、雨宮ぁ! お前わざと見せつけに来たのかぁ!」


 ぎゃっ、逆切れ!? いや見せつけに来たってのは半分正解なんですけどね?


「ふふっ、まぁ良いじゃない? あと少しで中に入れるから、()()()()()食べてって頂戴」

「はぁい」

「ありがとうございます」


「なに祝福モード全開なんだ立花。大体、部活内恋愛なんて良いのか? キャプテン!」

「ぶっ部活内って……そっ、そんなの元から禁止じゃないでしょ」


 あれ? 立花先輩動揺……あっ、そうか。先輩、下平キャプテンと付き合ってるんですもんね。大丈夫ですよ、俺と湯花は口堅いんで。


「なっ、なんだって!? 俺、聖に聞いてくるぞ」

「ちょっ、ちょっと待ちなさい! 野呂ー!」


「なんか色んな意味で大騒ぎ?」

「みたいだな? なんか色々起こりそうだけど、とりあえず……」


「ラーメン食べようぜ?」

「うん! 食べようっ!」





「ふぅー食べたぁ」

「だな? 湯花食べてたの味噌カレー牛乳ラーメンだっけ?」


「結構な賭けだと思ったんだけど、スープがマッチしてたぁ」

「うん。意外と美味かったな」


「でも海が頼んだ冷やしラーメンもさっぱりで良かったよ?」

「ラーメンが冷たいって、俺も興味本位だったんだけどさ? すっきりさっぱりでスープまで全部飲んじゃったよ」


「大満足なお昼だったよね」

「なにより、湯花と一緒に食べれたからな」

「はっ! ……もぅ、海ってばいっつも急にそんなこと言って……」


 その照れ顔見たさなんだよ。さて、じゃあ次はどこ行くかな。


「ふっ。湯花、次はどこ行く?」

「そうだなぁ、お昼食べたし……となると次はデザートじゃない?」


「甘いものは別腹ってやつ?」

「乙女は皆そういうものなのだよ? 海君」


 乙女ねぇ、少し前までは湯花の口からそんな言葉出てきても信じられなかったよ。でも……


「そうだなっ」

「うっうぅ。なっ、なんでいきなり……頭……」


 腕ギュウの仕返しだっ! くらえ頭ナデナデ攻撃っ!


「ダメか?」

「ダメじゃ……ない」


 こんな姿見せられたら、信じるに決まってる。


「そいえば日南先輩のところって、色んな果物使ったアイスキャンディ売ってるんじゃなかったっけ?」

「そなの!? 食べたいなぁ」


「おごってやるよ。行こう」

「いいの? やったぁ」


 まぁこの切り替えの速さは、俺の知ってる湯花だけどね。


「あれ? 海?」


 なんてデレデレ全開で居た時だった、不意に前から聞こえたその声に、俺と湯花は一斉に顔を向けたんだけど……その人物の顔を見た瞬間、


 やべぇ……


 心の中の第一声はこれだった。


「あっ、海君に湯花ちゃん! こんにちは……あっ、やっぱり! ねっ、棗ちゃん? 私の言う通りだったでしょ?」


 目の前の2人組……我が姉と新人巨乳ウェイトレスさんこと希乃さん。まさかこんな所で会うとは……しかも希乃さん? 言う通りって……


「えっ、いや! でも、腕ギュウにその甘々な雰囲気……海!?」

「なっ、なんだ?」


「2人はやっぱりゴーストで出会った時には付き合ってたんでしょー?」

「付き合って……そうなの? 海!? 湯花ちゃん!?」


 うおっ! やっぱこうなりますよね。特に姉ちゃん、なんか怖いんですけど? その男の影が無いからって若干怒ってます? キレてます? 


 でも……なんだろう? 同じこと説明しなきゃいけないのに、そこまで嫌じゃない。てかむしろ口にするのが嬉しいかも?


 多分お互いにそんなこと考えてたんだと思う。湯花の方を見ると目が合って、自然と笑みがこぼれて……そして重なるように口にしていたんだ。


「俺達」

「私達」



「付き合ってるんだ」

「付き合ってますっ!」




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