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108.恋落ちコンディション〜隣の彼女が可愛過ぎる!〜?〜

 



 1歩足を踏み出せば、心地良い日差しが体を包み込む。

 少し自転車を漕げば、風に乗った春の匂いが息を吸う度に突き抜ける。

 そしてゆっくりと見上げれば、雲1つない青空が……永遠と広がってる。


 そんな4月独特の雰囲気を全身で感じながら、俺は駅に向かって自転車を進ませていた。


 やっぱ気持ち良いな。春って感じのホンワカした雰囲気。てか、そう考えると高校入ってもう1年経つのか。なんかあっという間だったなぁ。

 ……そっか、去年の今頃って……


 そう、去年の丁度今頃……高校生活初日。全てはあれが始まりだったのかもしれない。

 叶のしたことに傷ついて、けど何度動画を見ても信じられなくてさ? そんな自分で居ることが限界で……あのメッセージを送ったんだ。

 予想外の反応に困ったりしたっけ。けど1対1で向き合って、言いたいこと全部吐き出して……ちゃんとケリを付けられた。

 これが無かったら、俺の高校生活どうなってたことか。今が充実してるからこそ尚更……怖くて考えたくもない。


 まぁそう思えるのも、それを乗り越えたからこそなんだけどさ。

 ほとんど知ってる人が居ない黒前高校で、ぶっちゃけ友達とかできるかなって不安だったよ。けど、隣に居た坊主の野球部山形と、斜め前に居たナルシストっぽいバドミントン部谷地。大人しいバスケ部白波。話してみるとなかなか馬が合って、仲良くなるのに時間は掛からなかったなぁ。


 あとは間野さんと水森さん、そして今やバスケ部コーチの多田さん。隣クラスだけど、この3人と仲良くなかったら自分のクラスは元より、近隣クラスの女子達と話す機会なんて滅多になかったと思う。3人経由で初めて話した子も多いし、女子のコミュ力は総じて高いって思い知らされたよ。


 しかも山形は最初から狙ってた間野さんとめでたく付き合ってるし、谷地はそこまで行ってはいないけど、水森さんと遊びに行くくらいの関係になってるし……上手くいくと良いな。

 それに多田さんは、マネージャーからバスケ部コーチに任命されたし、白波は不調を乗り越えて必死に頑張ってるしさ? ……これからもよろしく頼むよ。


 あっ、そういえばこの1年を語る上で外せないのが部活だな。不思木監督が就任して、ここ数年で急速に成績が伸びてるって聞いてさ? どんなところなのか興味があった。まぁ実際入ってみると練習時間は短いし、原則朝錬と居残り錬は禁止って聞いて大丈夫なのかって不安になったっけ。でもそこに裏付けされた理由と、とにかく明るくて優しい先輩達。そんな雰囲気は……最高だった。

 それにまさか春季大会で翔明実業と戦えるなんて思ってもみなかったよ。今でも鮮明に覚えてるよ。余りの威圧感に足がガタガタ震えてさ? でもそれが良い経験になったんだ。


 初スタメンを任された高校総体決勝。いきなり言われて驚いたよなぁ。しかも翔明実業相手だぞ? 鳴り止まない歓声に、火傷するかと思うくらいに熱い照明。けど、そんな注目される中で、自分の名前呼ばれたことに感動したっけ。けど最後……スリーポイントを外した。

 悔しかったな……泣いたな……でも、あれがあったからこそ俺はもっと上手くなりたいって思ったんだ。


 そして下平先輩達にお願いして、出場してもらったウィンターカップ予選。翔明実業に勝った瞬間は最高だったよ。そして何より……全国という舞台に男女揃って行けることが嬉しくて仕方なかったんだ。

 全国の強豪たちと真っ向勝負を繰り広げたウィンターカップ。他の試合を見るだけでも勉強になって飽きることがなかった。出来ることならずっとここに居たい……そんな思いの前に立ち塞がったのは、高校王者鳳瞭学園。皆凄かったなぁ……榑林さんとかヤバかった。結局負けちゃったけど、絶対リベンジしてやる。


 野呂先輩に樋村先輩、そして下平先輩。この3人から学んだことは余りにも多いよ。その内大学に練習行くんで、よろしくお願いしますよ? お二方。そして下平先輩? 絶対行きますから、待っててください! インカレでっ!




 そうこうしている内に、辿り着いた石白駅。1年前まではなんとなく見慣れなかった光景も、今は日常の1コマへと変わっている。駐輪場だっていつしか毎回同じところに置いて、勝手にいつもの場所なんて言っちゃって……すっかりと馴染んでしまっていた。


 ほとんど毎日列車乗ってたら、流石に慣れるもんだな。最初はフカフカで驚いた座席だって……よっ。良い意味で何も感じなくなった。1年前の俺に言ってやりたいよ、絶対慣れるってさ。


 こう考えると、俺も色々変わったんだな。……あっ、その要因になった人居るわ。めちゃくちゃ影響受けた人物がさ?


 そう……湯花。


 中学の時からの知り合いで、同じバスケ部、同じキャプテン。だから自然と仲も良くって、仲の良い女友達って感じだった。

 1年前は精神的にもあれだったし、中学と同じテンションが少し煩わしく感じたよ。あっ、いやごめんよ? でも本当のことだからさ。でも、その明るさがなかったら山形達とすぐにあそこまで仲良くはなれなかったと思う。間野さんや水森さん多田さん達と知り合えたのも間違いなく湯花が提案した合コン風昼食会のおかげだったし。

 今思えば、色々元気なかった俺を、湯花なりに一生懸命馴染ませたいって思ってたんだろうな。 

 ……感謝しか浮かばないよ。振り回されて、疲れることもあったけど……確かに俺は徐々に笑顔を取り戻していたかもしれない。だからこそ……


 叶と1対1で向き合えたんだ。


 そしてそれからは……何をするにも傍に居たっけ。


 湯花のおかげで、皆と色んなところ行って、色んなことが出来て……学校生活はめちゃくちゃ楽しい。

 負けたくないって思って、バスケにも力が入った。

 居残り練習にも付き合ってくれてさ。それにあの公園で泣いた時、傍に湯花が居なかったら立ち直れなてなかったのかもしれない。先輩達にウィンターカップへ行こうなんて言えなかったかもしれない。

 辛い時にも嬉しい時にも……気が付けば隣に居てくれた。


 だからこそ男女揃って全国へ行けたのは嬉しかったよ。1年生で鳳瞭学園と戦えたなんて、まるで夢のような話。でもその記憶と経験は……しっかりと体に沁み込んでる。


 ふっ。こうやって思い出すと、マジで記憶に残ってる場面には必ず……湯花が居るよ。

 まぁ当然だよな? だって、1番変わったのは湯花との……関係なんだ。


 ずっと仲の良い女友達。ふざけ合って、笑い合って、戦友として切磋琢磨する存在。高校に入ってもそれは変わらないと思ってた。でも、めぶり祭りでの……


『あなたのことが……好き』


 あの告白を受けて、俺自身が思っていた関係は……少しずつ変わった。


 仲の良い女友達って関係、それは湯花だって同じだと思ってたんだ。もちろん突然だったから驚いたよ? 焦ったよ? どうしたらいいのか全然わからなかった。でもさ? 湯花の真剣な眼差しと言葉。それを噛み締めて、改めて今までの湯花の行動を思い出してみたら……急にドキドキしだして、顔が熱くなってたよ。



 そして……自分の気持ちに気が付いたんだ。



 湯花は言ってた。


『好きになるのに理由なんて……ないんだよ?』


 あの時の俺は、その意味を理解出来る余裕なんかなくてさ? 全然わからなかったんだ。けど、こうして自分の気持ちに正直になって、想いを伝え合った今なら……ハッキリとわかる。


 だってさ? 1年前の俺に、お前湯花と付き合うんだぞ? なんて言っても絶対信じないぞ?

 でも……友達だからって、そういう関係に絶対にならない訳じゃない。実際、自分自身が経験してるんだよ。


 気持ちが変化するのなんて、ましてや好きになるなんて……一瞬なんだ。


 ふっ、好きになるのに理由なんてない……か。全くその通りだよ。全くその通りだったよ。

 おかげで、湯花は俺にとってかけがえのない、大切な存在になってしまった。


 あの声が聞こえるだけで安心する。

 その笑顔を見る度に、自然と笑みが零れる。

 傍に居ないと落ち着かないし、隣に居ると心地良くて仕方ない。


 だからこそ、なんの迷いもなく口に出せるんだ。何度でも、変わることのないその言葉を。



 湯花。今までもこれからも、ずっと……ずっと……




「うぉ~い、なんか嬉しそうだね? どしたのうみちゃん」




 大好きだ



































 ―――――――――――― 数年後 ――――――――――――




 熱い照明。鳴り止まない声援と地ならしのような応援。


 遂にこの時が……来た。


「じゃあこのスタメンで行くぞ。悔いなく……ぶち当たって来いっ!」


「「はい!」」



 ―――それでは黒前大学スターティングメンバーを紹介します―――



 ―――6番、野呂大河君―――


「先輩、行ってきます!」

「あぁ。建前上一応俺がキャプテンやってるけど、コートの中では正真正銘お前がキャプテンだからな?」


 ―――7番、晴下黎君―――


「これが国内最後の試合だぞ? 行ってこい! あっ、ケガは注意ね?」

「もちろんです! 監督!」


 ―――9番、丹波嵐君―――


「今日も頼りにしてるぞ? 小さなゲームメーカー!」

「小さいは余計っすよ! 樋村先輩っ!」


 ―――13番、白波聖覧君―――


「しっ、式柄(しきえ)先輩、良いんですか? スタメン俺で……」

「何言ってんだよ。成長した姿見せたいんだろ? ガッツリ行ってやれ!」

「はっ、はい!」


 ―――14番、雨宮海君―――


「海! 待ち望んでた試合だ! 最初から飛ばせよ?」

「まぁ、ガス欠起こしたらいつでも交代してやるよ」

「最初から全開で行くさ九鬼。あと坂城、残念だけど出番ないぞ?」

「なっ、なにぃ」

「はははっ」



「雨宮? ちゃんと湯花に続きなさいよ? 手加減なしで……行っちゃえ!」

「了解! 多田さん」



「海君、力入り過ぎないようにな?」

「わかりました! 宮原監督」


「なんかその呼び方嫌だな。普通に呼んでよ」

「ダメですって透也さん! ここでは監督なんですから」


「んー! まぁいいか。とにかく存分に……楽しめっ! 湯花に負けるなよ?」

「もちろんですよっ!」




 対面するのは……鳳瞭大学の面々。

 見知った顔が並ぶ中、ひと際この状況を喜んでいる人物が1人。


 この日を夢見て、頑張ってきました。そして最短最速で……約束通り来ましたよ? 下平さん!


「うみちゃーん! 行けぇ!」


 湯花! さっき試合終わったばっかりだろ? それなのにもう応援席まで? ったく……でもありがと。その声援が何よりも力になるよ。


 さてと、先輩? 女子の勢いそのまま、男子もいただきますよ? 優勝の二文字。


 それに勝利の女神が居るんで……負ける気しないんです! 


 だから……




「手加減なしですよ?」




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