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105.まさかの偶然、まさかの再会

 



 春休みともあって、流石に人の気配がない廊下。けど、その教室の数を見るだけで普段の様子はなんとなくイメージできる。


 外から見た通り廊下なげぇ。しかも実習室1・2とかは分かるぞ? それもさすがに6とかまで来ると……凄さ通り越して恐ろしいんだが? 


 そして、さっきの会話からめっきりその話題に挙がらない、新聞部前部長の()()()()()とやら。その存在が気にならないと言えば嘘になる。けど俺だって空気が読めない訳じゃない。月城さんや、さらに湯花からも感じられる触れてはいけないってオーラ。それを横目に感じながらも俺は静かに体育館へと歩き続ける。そして、


「えっと、ここを曲がった先が第1体育館だよ?」


 遂に鳳瞭学園バスケ部が練習している場所へと……近付いた。

 ここを曲がるってことは、この正面の体育館は……あっ、第2体育館って書いてるわ。やっぱどこでも校舎から直結してるのは2つなのかな? 


 廊下から一直線。渡り廊下を越えた先に見えた体育館の入り口には第2体育館の文字。月城さん曰く、バスケ部が練習しているのはここを曲がった先。そんな月城さんの声に視線を変えると、その先に見えたのは……扉が開かれたままの第1体育館。


 あれが……第1体育館。


「じゃあ行こうか?」


 そんな月城さんの言葉に続くように、後を付いて行く俺達。その時、


 ダンダン


 不意に聞こえて来たドリブルの音。


 キュッ、キュッ


 床に擦れるバッシュの音。そして、


「よっしゃ」

「あぁーもう! もう1回!」

「当たり前だろ?」

「おいおい、勝つまで止めない気じゃないだろうな?」


 廊下に漏れる男女の声に、普通だったら動揺するのかもしれない。でも、その楽しそうな声を聞いてたら、不思議とこっちまでワクワクしてしまう。

 だれか居る? しかも複数ってことは鳳瞭学園のバスケ部?


「あれ? だれか居るのか?」

「うみちゃん? もしかしてバスケ部の子かな?」

「どうかな? けど……」


「めちゃくちゃ楽しそうだ」

「めちゃくちゃ楽しそうな声だよ?」


 やっぱ湯花もそう思ってたか。声の雰囲気でなんとなく分かるんだよなぁ。あぁ俺も無性にバスケ……


 その時だった、ボールのバウンドする音が聞こえて来たかと思うと、それは次第に大きく響く。そして……


 あっ!


 そのボールは体育館を飛び出して、俺達の居る廊下へと転がって来た。


「よっと」


 そしてそのボールを月城さんが拾った途端、体育館から現れた人物。


「あっ、すいませーん」


 その姿に俺と湯花が驚かない訳がなかった。


「「えっ?」」


 だってその人は数日前まで苦楽を共にし、その船出を皆で見届けたはずの……


 まさか……でもどうして? ここ鳳瞭学園ですよ? 大学じゃないですよ? なんで……なんで……居るんですか?


「しっ、下平先輩!?」


 下平先輩だったのだから。


「えっ? 雨宮? それに……宮原!?」

「ふぇ!? どどっ、どうして先輩がここにいるんですかっ?」


「いやいや、それはこっちのセリフだぞ? なんで2人がここに?」

「えっと……ん? お三方知り合い?」


 えっ? ここ鳳瞭()()だよな? 会えたらいいなとは思ってましたけど、まさかここで会えるとは思いもしてなかったんで……結構焦ってますよ?


「どしたー? 下平……ん?」


 ちょっと静かにしてもらえます? こっちは色々と処理が追い付かな……


「あっ、お前黒前のシューターじゃん!」


 シューターって、もっと良い呼び方ある……はっ!? あなたは……


「翔明実業の藤島さんっ!?」


 はっ? なぜだ!? なぜ藤島さんが!


「どしたのー? 早くゲーム……えっ? とっ、湯花!?」

「たっ、立花先輩!?」


 えっ! まさかの立花先輩まで!?


「とーうーかー!」

「キャー、せんぱぁい!」


「なんだなんだ? あれ、月城?」

「どうも、海東さん」


 うおっ! 鳳瞭のキャプテン海東さん!


「ねぇ、シュートの感覚が鈍っちゃうんだけど……」


 くくくっ、榑林さん!?


「驚かずにいられないって、俺達の後輩が鳳瞭にいるんだよ? 凄いなぁ」


 ちょっ、ちょっと待って下さい? 下平先輩? 良いですか? 


「そうだ! なんで居るのー? 湯花!?」


 ……一旦落ち着きましょう!




 そんなこんなで、思わぬ形で体育館へと足を踏み入れた俺達。とりあえず話を聞いていく内に、今のこの状況が徐々にハッキリとしていった。


 なるほど。だいぶ流れが分かって来たぞ? 

 まず、藤島さんは下平先輩と同じく鳳瞭大学へ進学したと。九鬼のやつ全然そんなこと言ってなかったぞ?

 まぁそれは置いといて……そんな中、無性にバスケがしたくなった下平・立花両先輩。けど、今日は大学の部活も休みで、勝手に体育館を使うのは流石にどうなのか? という結論にいたり、同じく寮に住む元学園組の海東さん、守景さん、榑林さんに相談。


 それならと、勝手知ったる学園の体育館を使おうという話になり、海東さんが学園の監督に話をして? 藤島さんや女子の面々も誘って? それで皆でバスケを楽しんでいたと。

 そこに現れたのが俺達って訳か。しかも月城さんは部活体験でお邪魔した経緯から、海東さん達とも知り合いだし……いやぁなんという偶然なんだろう。


「いやぁホントびっくりだよ」

「俺もまさか会えるとは!」

「ホントですよ? って言っても、あの感動的だった見送りの余韻が……」

「あっはは、そうだね。ふふっ、ごめんね湯花?」


 とはいえ、このメンツはなかなかだぞ? 言わずもなが男女共に高校トップレベルのメンバーが揃ってるってヤバくないか?


「どうせなら雨宮達もやろうよバスケ!」

「えっ! あっ……でも着替えとかバッシュ持って来てなくて……」


 くぅ! まさかバスケやるなんて思う訳ないじゃないですか! でも……このメンツでバスケしたら……


「絶対楽しいと思うんだけどなぁ。はぁ……」


 だよな。俺も同じこと考えてたぞ? 湯花。


「ん? 着替えならあるぞ?」

「「えっ?」」


 どゆことですか? 海東さん?


「部室に鳳瞭のTシャツとハーフパンツの予備あったよな?」

「あるよ。持って来ても大丈夫っしょ」


「女子もあるよ?」

「うんうん」


 えっ? 鳳瞭のって……皆さん着て履いてるそれ!?


「あと、バッシュもあるんじゃない?」

「適当にサイズ合わせればあると思うよ」 


 あの海東さん? サラッと言ってますけどバッシュですよ? 

 あの榑林さん? サイズって……そんなにあるんですか?


「えっ……と……」

「あぁ、うちにはさ? 練習中にバッシュ壊れた時用に何個かストックあるんだ」

「へぇー、やっぱ凄いんだなぁ鳳瞭って。なぁ明」

「ホントだよ。最初は敷地入っただけでクラクラしたのにさ? はぁ……聞けば聞く程凄いのねぇ」

「翔明でもそこまではないぞ?」


 バッシュの予備? 嘘でしょ?


「じゃあササッと着替えに行こうー! 海東? 部室何処ー?」

「えっ? しっ、下平先輩!?」

「ほれほれ! 湯花も行くぞ?」

「せっ、先輩?」


 ちょ……やっ、やっぱ……


 鳳瞭って凄ぇ……



 こうして見事、鳳瞭の名が入ったTシャツとハーフパンツに身を包んだ俺達。予備とはいえその履き心地は抜群のバッシュも借りて、今この瞬間だけは鳳瞭のバスケ部の一員のような気がした。


 先輩達とのゲームも、めちゃくちゃ楽しかった。大会みたいにバチバチじゃなかったけど、湯花達も混ざってのそれは新鮮で……海東さんを始め、色んな人の普通の姿が垣間見えた気がする。まぁ榑林さんはあんまり変わってなかったけど。

 それに月城さんは体育の授業でしかやってなかったって言ってたのに、普通にドリブルもシュートも出来てて驚いたよ。本当にこの人は良い意味でヤバい人なんじゃないかと、改めて思うくらいにね。あと、さすが元サッカー部。足が尋常じゃないくらい速かった。


 そんな幸せな時間をどのくらい堪能しただろうか、気が付けば皆汗だくで……ひと区切りついたところで、皆思い思いに休憩。でも、俺はめちゃくちゃ楽しくて……休む気にはなれなかった。


 やばい……楽しくて休憩なんて勿体ない! ちょっとシュート練習でもしようかな?


 そんな時だった、後ろから近づいて来る足音。そして、その人物は俺の目の前に立つと、いつものような笑顔で俺を見つめる。


「雨宮、楽しいな」

「はい。めちゃくちゃ楽しいです」


 そして1つ息を吸い込んだ後、もう1度を笑みを受けべて……ゆっくりと口を開く。

 その瞬間、少しだけ……空気が変わったよな気がした。


「なぁ、雨宮」

「なんですか? 下平先輩」


「俺と……」




「1対1でもしないか?」




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