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104.ちょっとばかしの対抗心

 



「さて、好きなの選んで?」


 想像以上に整った環境、まるで同じ高校とは思えない設備。そんな現実を理解しようと必死な俺を突き放すように、月城さんが案内してくれたのは横にあるコンビニ。

 1歩入ると、それこそ一般的なコンビニと同じくらいの広さで、品揃えも恐ろしい。


 ヤバくね? コンビニそのまんまじゃん。でも店員居ないような……あぁ、なんか嫌な予感しかしない。


「月城さん? あの、もしかして店員さんは居ないんですか?」

「そうだよ。セルフレジってやつ」


 やっぱり!? 本来店員さんが居るであろう場所にそんな感じの機械ありますもんね。スーパーでも見かけるようになった機械ありますもんね。……ないとは思うけど、レジに商品通さなかったらどうすんだろ?


「凄いですね……あっ、月城さん? 商品通さなかったらどうなるんです? 誰も居なかったら気付かないんじゃ……」

「ははっ、それについては入学早々に言われたよ。商品の数はきちんと管理してるから、レジに通ったデータと一致しないとすぐわかる。カメラもあるし、誰がその商品取ったかは丸わかりだから……無駄なことは止めようね? ってさ。つまり不摂生な生活は出来ないんだ」


 うっわ、やっぱそうですよねぇ……


「まぁ中には学生証忘れたって言って、人の履歴に大量の商品を残す不届き者も居るけどね?」

「そんな人居るんですか?」

「まぁ、知り合いだから良いんだけどね? さっ、俺は選んだから海君も選んで?」


 おっと、そうだった。いやぁ、いくら学費込みとはいえ奢ってもらえるなんてなぁ。まっ、色々変な汗かいて喉も乾いてるし、ここは……


「じゃあコーラでお願いします!」


 安定のコーラかな? 


「はいよ!」


 月城さんは……真昼のミルクティー? 結構甘いやつじゃね? なんか意外だな。あっ、そうだ。湯花にもコーラ買って行こうかな? たぶん俺と同じ状態になってると思うし……うん、この分は俺が払おう。


「あっ、月城さんすいません! この分は俺が払うんで……コーラもう1本良いですか?」

「もう1本? ……あっ、もしかして湯花ちゃんの?」


「えっ!?」

「ふっ、海君は優しいなぁ。何本でもカゴ入れていいよ?」


 ははっ……やっぱりすぐバレちゃいますよねぇ。


「2本で大丈夫です!」

「了解ー!」


 ありがとうございます月城さん! にしても、やっぱコンビニにあるのは凄いよな? 


 はぁ……いいなぁ……

 なんて心から思いつつ、その桃源郷を後にした俺達。だけどすぐ目の前に佇む、同じような建物が視界に入った瞬間……ここはまだ広大な桃源郷の一部だってことに気付かされる。

 そしてほぼ同じく、目の前の女子寮から出て来た2人の姿。1人の顔を見て、心底安心したのは間違いなかった。


「あっ、ツッキー! ナイスタイミング!」

「おっ、そうだな恋」


 あぁやっと同じ世界観の人と合流できたぁ!


「湯花!」

「うみちゃん!」


 時間にして数分。しかしながら再び出会えたことが、こんなにもホッとしたことが過去にあっただろうか。おそらく湯花も同じ気持ちなんだと思う。目があった途端にお互いにの顔に笑顔が零れ、俺は居ても立っても居られずに片手に持ったコーラを……


「「はいこれ!」」


 その瞬間、全く同じタイミングで差し出されたコーラ。綺麗に並ぶそれを目の前に、一瞬の静寂が訪れる。


 ん? コーラが2本? 俺の手にもコーラ、湯花の手にもコーラ? ……もしかして湯花も俺に!?


 ゆっくりと視線を上げて行くと、そこには俺と同じ表情を浮かべる湯花。そして目が合った瞬間、


「「ぷっ」」


「湯花も買ってくれてたの?」

「うみちゃんも買ってくれてたの?」


 その静寂は瞬く間に消え去っていた。


 まじかよ? 湯花の分もって思ってたら……まさか湯花も俺の分買ってくれてるとは思いもしなかったわ!


「月城さんに奢ってもらってさ? 湯花も分もお願いしたんだけど……」

「私も恋さんに買ってもらってね? それでうみちゃんの分もお願いしたんだよぉ!」


「おぉ? 仲が良いねぇ2人共。このこのぉ」

「凄いな」


 いやぁ、でもある意味お2人のおかげですよ? むしろどっちも俺達に奢ってくれるって行動が無かったら……


「あっ、恋? ほい」

「わぁ! ありがとツッキー! じゃあお返しだよっ?」

「おっ、サンキュ!」


 えっ、月城さん? それさっき買ったやつですよね? それてっきり自分で飲むのかと思ってたのに、まさかの日城さんの分? しかも対する日城さんはブラックのコーヒーって……はっ! まさかこの2人、お互いの行動がわかるのか? そうでなきゃ相手の好きな飲み物だけ買って、それを交換なんてこと……出来るはずないぞ!?


「このコーヒー新発売だよ? ツッキーそういうの気になるでしょ?」

「まぁな? 恋はまだ真昼ティーを越える飲み物に出会ってないもんな?」

「そうなんだよねぇ」


 こっ、この2人どれだけ長い間一緒にいたんだ? でなきゃここまでの意思疎通なんて出来ないぞ? それか……どんだけお互いのこと思ってるんだよ!


「うみちゃん? コーラありがとうね?」

「あっ、あぁ。多分湯花も余りの環境の違いに焦って、喉乾いてるんじゃないかと思ってさ?」


「やっぱりうみちゃんもそう思ってた? 私もね? もしかしたらうみちゃんも同じく変な汗かいてるんじゃないかと思ってたんだ!?」


「ふっ、考えることは一緒だな?」

「だね?」


 でも俺達だって……負けないですよ?


「じゃあ次は校舎の中案内するよ?」

「ついて来たまえー!」

「はいっ! ついて行きまーす!」

「お願いします!」


 お互いを思う気持ちは誰にもっ!




 なんて対抗心を燃やしつつ、その足を鳳瞭学園内部へと進めて行く俺達。そしてついに目の前に現れた昇降口は、外から見る限り黒前とさほど違いは感じられない……はずだった。けど1歩足を踏み入れた瞬間、その中に広がる下駄箱の多さに……生徒数の違いをまざまざと思い知らされる。


 さすが7クラス……下駄箱の数が半端じゃないぞ? 


「じゃあ靴は来校者用のところに置けばいいよ? スリッパもあるしさ?」

「わかりました」

「了解ですっ!」


 えっと、端っこの方か…… 

 月城さんが言うように、端の方に見える来校者用という文字。湯花と2人で早速向かい、その下駄箱に入っているスリッパへと履き替えたその時、


「やっば、ツッキー! ちょっと部室行って来る! すぐ戻るからっ!」


 慌てるような日城さんの声が辺りに響き渡る。


 ん? なにかあったのかな?


「恋さん何かあったのかな?」

「どうだろ? 相当焦ってるみたいだったけど……とりあえず廊下出てみよう」


 突然の声に疑問を抱きつつも、俺達は下駄箱が置かれている場所を抜け廊下へとその足を進める。そこには既に月城さんが居て、俺達を見つけるや否や、


「いやぁ、ちょっとごめんね」


 申し訳なさそうな表情をのぞかせていた。


「恋さん用事ですか?」

「まぁね。どうも新聞部前部長と会う約束してたらしんだけど、すっかり忘れてたみたいでさ?」


 新聞部前部長? まぁ俺達も急に来るって言っちゃたからなぁ、日城さんに迷惑かけちゃったのかも。でも、いくら忘れてたからってあそこまで焦るもんなのか?


「前部長って……いろはさんですか!?」

「せいかーい」


 ん? 湯花は知ってるのか? ……あっ、そう言えば鳳瞭学園の新聞部は、毎年夏に来るって言ってたもんな? その部長なら知ってて当たり前か。


「なんか悪いことしちゃいましたかね?」

「まぁ大丈夫でしょ。ちゃんと謝ればっ」


「でも、よりによっていろはさんの約束に遅れるのは……ゾッとしますね」

「俺だったら背筋が凍るよ」


 ……あれ? 何この雰囲気? なんかおかしくないですか?


「とっ、とりあえず俺達は行こうか? じゃあ……バスケ部が練習してる体育館で良いかな?」

「はっ、はい! うみちゃんも良いよね?」

「えっ? あっ、うん」


「じゃあ一旦恋のことは忘れて……行こう!」


 待て待て! 月城さんは勿論、コミュ力の塊である湯花ですら一歩下がるようなことを言う……いろはさんとは一体何者なんだ?


 新聞部の前部長ですよね? ただの部長だった人ですよね? なんで日城さんが、もうおしまいだみたいな雰囲気出してるんですか。そんなにヤバい人なの……ですか?


「よぉし、じゃあこっちだよ? ついて来て!」

「はっ、はい! うみちゃんも行こう?」

「おっ、おう……」




 ……なんなんだよっ! めちゃくちゃ気になるんですけど!?




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