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101.夢の国

 



 夢の国デデリーランド。テレビで見るたびに行きたい欲求が膨らむ様は、まさに夢の国という名にふさわしい。ただ、実際に行くとなると時間もお金もかかるのが現実で……去年の修学旅行で訪れたのが2回目。だからこそ……


「うわぁ、うみちゃん! また来たんだよね、デデリーランド! 最初は何に乗ろっか!?」

「なんか中に入ったらめちゃくちゃ実感湧いてきたな? 最初か……悩むっ!」


 俺達はある意味、姉ちゃん以上にはしゃいでいるのかもしれない。

 やばい、なんだろう……ワクワクが止まらないんだけど? 去年来た時もヤバかったけど……


「どうしよう! 迷っちゃうよぉ」


 湯花と2人きりだともっとヤバい! こりゃもう人気のアトラクション片っ端から乗るしかないでしょ。


 この辺に住んでる人なら、デートでデデリーランドなんて珍しくないのかもしれない。けど、地方に住んでる人にしてみれば観光で来ることすら難しい。そんな中でまさかの2年連続、しかもほぼほぼデートみたいな状況が訪れた俺達は……恐らく黒前高校内でも今一番幸運なカップルと言っても良い気がした。だからこそ、


「片っ端から乗っちゃおうぜ? 行こう湯花っ!」

「うんっ」


 その勢いは凄まじかった。



 まず向かったのは、定番中の定番バルトの海域! ここは定番の割に回転率が良くてさほど並ばなくても良い。にも関わらず、船の上から感じるその世界観やいきなり訪れる急降下は面白くて仕方ない。


 そしてそこへ並んでいる最中、俺達は抜け目なく次のアトラクションへ目を付けている。それはアプリを使い、他の人気アトラクションへの優先入場券……通称クイックパスをゲットする為。これも事前に望さんから聞いた技で、効率よく回る為にはこれが必須らしい。


「えっと、湯花。次は何に乗りたい?」

「何が良いかな? コロニーマウンテンも、ビックリサンデーマウンテンも良いよねぇ」


 その2つね……しかし凄いなぁ、アプリでクイックパス取れるなんて。去年はそのアトラクション近くにある発券機まで行ってゲットしてたぞ? それがスマホのアプリで楽々じゃないか。しかも待ち時間まで表示されてる! ……っと、それはそうと、なになに? コロニーマウンテンが60分でビックリサンデーが55分? やっぱ人気と今日の混雑を考えるとクイックパスでもこのくらいかぁ。ん? 待てよ?


「湯花? アプリ見てくれる?」

「了解ー!」


「その2つは今から1時間近くかかるけど、ミニチュアアースはクイックパス無しで15分だぞ?」

「あっ! 本当だ!」


 並び的にもバルトの海域にはあと少しで乗れる。終わってからミニチュアアースに行って、その後どっちかに行けば……そこまで待たなくても大丈夫だっ!


「湯花? ミニチュアアース挟めばそこまで待たなくても乗れるぞ? どっちいい?」

「じゃあ……コロニーマウンテン!」


「オーケー! じゃあクイックパス取るよ」

「はぁい。なんかうみちゃん……格好良いね」


「なっ、何言ってんだよ」

「にっしっし……えいっ!」


「うっ!」

「ふふっ」


 うっ、腕ギュウはやっぱヤバいって! 当たってる当たってる! 谷間に挟まってるって。けど……最高じゃないか。ったく、そんなことされたら……


「ったく、じゃあとことん楽しませてやるから覚悟しろよ?」」 


 もっと笑顔にさせたくなるじゃんか!

 そんな思いも相俟って、俺達は……


「くっ! あとちょっとで金貨に届きそうなんだけどなぁ」

「うみちゃん? 触ったらだめよ?」


「すっ、すいません」

「ふふっ」


 とことん夢の国を満喫した。



「きゃー! やっぱりいつ見ても小さくて可愛いー!」

「なんか平和な雰囲気だよなぁ」


「あの子可愛い! もうちょっと乗り物こっちに寄ってくれないかなぁ?」

「……湯花? お触りは厳禁だぞ?」

「はっ! そそっ、そんなこと思ってないもぉん」


 アトラクションは勿論、



「あっ、湯花! ポップコーンあるぞ?」

「食べたぁい」


「じゃあ……あの首から掛けるの買うか? どれがいい?」

「えっ?」


「いいから、どれ?」

「うみちゃん……じゃあ、このトゥーンストーリーズ!」


「はいよ!」

「じゃあうみちゃんにも何か買ってあげるよっ」


「俺はいい……」

「だぁめ! 私だけじゃダメだよ?」


「分かったって。じゃあこのショコラにするよ!」

「はぁい!」


「ありがとな? 湯花」

「うみちゃんこそ……ありがとっ」


 ランド限定のポップコーンやスイーツ、



「うみちゃん? 見て?」

「うおっ、そのヘアバンド可愛いなぁ!」


「ホント?」

「ホントホント! それもプレゼントするよ?」


「えぇ! うみちゃん大丈夫?」

「ふふふっ、まだお年玉の残りはあるぜ!」


「うみちゃん? 貯金は?」

「ちょっとはしたぞ?……とにかく、湯花? 俺に似合うのも探してくれよ!」

「本当かな? にっしっし。じゃあうみちゃんに似合うの探そうかな?」


 あぶねぇ、でも本当にちょっとは貯金したからな? 嘘じゃ……


「じゃあこれ!」

「何々……どうだ?」


「ぷっ……にっ、似合う似合う」

「ちょっと噴き出してなかったか? 一体何を……って! 赤ちゃんが良く被ってるやつじゃねぇか!」


「かっ、可愛いよ?」

「ダメダメ! こんなの恥ずかしくて付けてられんっ!」


「えぇー、いいじゃん?」

「あのなぁ湯花……これだけは無理っ!」

「むぅー」


「「ふははっ」」


 グッズなんかを2人で選んでは、付けてみたりして……めちゃくちゃ笑ってた。それに、



「やっぱさ、もっとスリー磨いた方が良いよね?」

「だな。てか湯花はドリブルもスピードもあるし、さらにスリーまで仕上げたら最強じゃね?」


「でも……その道のりはかなり遠いのですよ?」

「そうか? 直近の試合ではバンバン決めてた気がするけど?」


「たまたまだよぉ。それにうみちゃんみたいにスパスパ決められないもん」

「俺だって今だけかもしれないぞ? 練習は欠かさないけどさ?」


「いやいや、自覚してないと思うけど……うみちゃんの最近のスタッツの方がヤバいからね? しかもさ? あれを隠してるなんてズルいよ?」

「あれって?」


「ダンクだよ! 居残り練の時やってたじゃん!」

「いやいや、あれこそたまたまだぞ? リングには掴めるけどダンクとなると感覚がなぁ……あれだって練習だからこそできた訳だし、実践レベルじゃないよ」


「それでも……うみちゃんはやっちゃうんでしょ? スリーも出来て、ドリブルで抜いてダンクもしちゃうんでしょ? ……うん、なんか想像できるもん」

「いやいや、さすがに……」


「私の目は本物だよ? 彼女の言うこと……信じられない?」

「信じられないはずは……ないけど……」


「じゃあできるよ?」

「がっ、頑張ります! とっ、湯花だって、もっとスリー上手くなれるぞ?」

「しょっ、精進しますっ!」


 本当だったら辛いはずの待ち時間。それすらも俺と湯花にとっては何ら問題はないなかった。バスケの話に高校の話、その話題が尽きることがなかったし……なによりも、常に笑顔の湯花が見られるだけで楽しくて仕方なかった。そして……


「綺麗だねぇ、うみちゃん」

「めっちゃ綺麗だな」


 気が付けは空は暗くなってて、あっと言う間にパレードが……始まっていた。


 楽しい時間はあっと言うまって言うけど、まさにその通りだな。気が付けばあっと言う間にこんな時間だよ。それにしても今日1日でめちゃくちゃ笑ったなぁ……めちゃくちゃ湯花と話したなぁ。

 それこそ今まで湯花のことは知ってるつもりだったけど、意外と初耳なことも聞けたし。カエルの他にミミズが苦手とか? 実は静電気起こりやすくて、特に冬は油断してドアノブや教室の扉の指掛けるところとかでバチっとするのが大の苦手とか……どうでも良いことかもしれないけどさ? 俺にとってはその全てが新鮮で、嬉しかった。だって……好きで、恋人で、大切な人のことだから。


「湯花」

「どうし……はぅ」


 ベンチに座りながらずっと握っていた手。そこに優しく力を込めると、湯花もそれに反応してくれて……


「うみちゃん」


 寄り添うようにゆっくりと、その体を俺に預けてくれる。その温もりは……めちゃくちゃ心地良い。


「ねぇうみちゃん? 私幸せだよ」

「俺もだ」


「ずっとこのままで居たいなぁ」

「でも時間は残酷だぞ?」

「そうなんだよねぇ」


 確かに時間は残酷だ。俺だってこのままで居たいのはやまやまだけど……よし、ここはちょっと格好つけようかな? 湯花をドキッとさせてやれっ!


「でも湯花?」

「んー?」


「これからもっと幸せにするからさ? だから……また来ような?」

「うみちゃん……」


 臭いと思われようとこれは本音だから。


「うん……私も幸せにしてあげる。だから……絶対に来ようね?」

「当たり前だろ?」


 けど今だけは、1分1秒でも……




 この時間が続いて欲しい。




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