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100.思いがけない東京旅行

 



 卒業式に終業式。学期最後の式典が終わり、俺達は短い春休みを迎えていた。

 当然その間も部活に夢中なのは変わりないけど、今日と明日に至っては……


「着いたぁ!」

「なんか温かいなぁ」

「うわっ、人混みやべぇ……ヤバすぎるっ!」


 少し違っている。


 ホームに降り立ったその光景は、つい最近見たそれとほとんど一緒。違うとすれば、私服ってことと完全に遊びに来たということ。数ヶ月しか経っていないのにまた来れるとは、まさに青天の霹靂だ。

 まさかまた来れるとはな……望さんに感謝しないと。


 俺達が東京に来れた理由、それを語る上で外せないのが望さんだ。あの大晦日に交わされた、


『シュートを決めたらデート』


 って姉ちゃんとの約束を見事果たす、まさに有言実行。けど俺達まで来ても良かったのか?


「なぁ姉ちゃん、しつこいようだけど俺達も来て良かったのか?」

「そうですよ? しかも私なんて叶ちゃんのお兄さんと会ったこもないのに……」

「ていっても、むしろ海達もどう? って言ったのはノゾだからねぇ」


 姉ちゃん、それって冗談半分だったんじゃないのか。それを真に受けて望さん焦ったんじゃ……


「けど……」

「うわっ、とりあえず歩こう。動かないと酔っちゃいそうだわ。着いたって連絡はしたから、とりあえず駅の入り口まで行きましょ」


 望さんの表情見るのが怖いなぁ……




「やぁ! 皆良く来てくれたねぇ!」


 めっちゃ笑顔ー! 


「君が湯花ちゃんだね? 初めまして、叶の兄の皆木望です。宜しくね」

「はっ、はい。宜しくお願いします」


 初対面にも関わらず湯花を圧倒するコミュ力……流石だ。


「海君! 元気かい? ようこそ!」

「お久しぶりです、望さん」


 こうしてみると、逆転シュート決めたのと同一人物ってのがホント信じられないなぁ。


「棗もよく来てくれたね」

「そりゃ約束だからね?」

「ありがとう」


 まぁでも、姉ちゃんと話してる時が一番生き生きしてる気がするよ。


「それじゃあ、早速行こうか? 皆、俺が前に送ったSucaiは持って来た?」


 えっと、これだよな? 姉ちゃん宛てに送られてきたSucai。これをかざせば、切符買ったりする手間が省ける優れものらしいけど……チャージ必要じゃね?


「これでしょー? ノゾ」

「それそれ。それ改札にかざせば通れるから」

「えっ、望さん? これってチャージが必要なんじゃ……」

「大丈夫だよ湯花ちゃん。クレジット決済だから安心して?」


 クレジット? まさか……


「それって支払い望さんってことじゃ!」

「そうだよ?」

「やるぅ、ノゾ」


 えぇ!? そこまで? 新幹線代とかホテル代だけでも俺達の分余計にかかってるんだぞ? 切符代まで?


「それはマズくないですか?」

「そっ、そうですよ?」

「ははっ、最初からそういう約束だろ? 気にしない気にしない。じゃあ時間ももったいないないし、俺に付いて来て?」


 そう言いながら改札へと向かって行く望さん。そんな望さんの後に、


「案内頼んだよ? ノゾ」


 なんて言いながら、至って普通に付いて行く姉ちゃん。そんな2人の姿に、若干申し訳なさを感じるものの……そんなご厚意に甘えるように俺達も、ゆっくりと2人のあとを追って歩き出した。 


「えっと……行こうか?」

「うっ、うん。なんか色々とすごいね? 望さんって」


 なんか、色々申し訳なきがするなぁ。けど付いて来てって言われたら行くしかないよな?




 そんなこんなで、電車に揺られること数十分。望さんに連れられて来たここは、話を聞く限りどうやら姉ちゃんご希望の場所らしい。けど、その意外な場所に若干の驚きは隠せない。


「望さん? ここが姉ちゃんご希望の場所ですか?」

「そうだよ? だよねっ、棗?」

「なによ、別に良いでしょ? デデリーランドなんて滅多に来られないし、乗り物好きなんだから」

「わかります棗さん! まさに夢の国ですよね?」


 夢の国って……姉ちゃんのイメージからかけ離れてる気がするんですけど? でも人は見掛けに寄らないって言うしな。もしかしたら入室厳禁な姉ちゃんの部屋は、デデリーランドのキャラクターで溢れ返っているのかもしれない。


「海、何ニヤニヤしてんの?」

「いや、何でもないよ」

「じゃあ早速行こうか? もうチケットは購入済みだから入園保証付きだしね?」


 チケットまで? 


「望さん、事前にチケット買ってるんですか?」

「そうだよ? この時期は御覧の通り混むらしくてね。最悪入園制限かかるって聞いてたからさ」


「流石ノゾ。分かってるじゃん!」

「大切なデートだし、その辺は抜かりないよ?」

「はいじゃあ、レッツゴー」


 姉ちゃん……今のは望さん可哀想だぞ? にしてもそこまで準備万端とは望さん相当気合入ってるのかな? ますます俺達来ても良かったのか不安なんですけど……




「じゃあ、ここからは別れようか? とりあえず俺も棗とデートしたいしさ?」


 そんな不安にかられながらも、無事入園する事が出来た俺達。そんな中、入り口付近の広場で徐に口を開く望さん。その言葉に、俺は何とも用意周到な望さんの凄さを……感じた。


 っ! そっ、そういうことか望さん!?

 まずは1対1で緊張するであろうシチュエーションを避ける為に俺達を誘ったのか。こうすることで姉ちゃんも来やすくなるし、俺達だって東京に行けるとなったら余程の理由がない限り断るはずもない。実際そうだしね?

 その為には交通費なんて安いもんだってことか。その辺のお財布事情はわからないけど、コンスタントに試合にも出てるみたいだし……有り得る。


 そして、姉ちゃん希望の夢の国デデリーランド。たぶん姉ちゃんのこと知り尽くしてる望さんのことだ、きっとこう言うとわかってたはずだ。そして予想通りの言葉、俺と湯花の存在……それが組み合わさることで、今のこの状況が生まれる。そう自然と2組に分かれる状況が!


「はいはい、じゃあノゾ? 全アトラクション乗るからね。いいでしょ」

「了解。じゃあ海君達? とりあえずパレード終わりくらいにここ集合で良いかな」


 もちろんですよ望さん。姉ちゃんには悪いけど……できるだけ2人の時間を楽しんでもらいたいですしね。


「了解です」

「じゃあ海君に湯花ちゃん、何かあったら連絡してね?」

「あのねぇ、そんな子どもじゃないからね? 2人共楽しんでねー。ほら、ノゾ?」


 なんというか、姉ちゃんがそういう風になる姿がイマイチ想像できないけど、望さんには頑張って欲しいなぁ……って、歩くの速っ! もはや人混みに紛れて見えないんですけど?


「ねぇうみちゃん?」

「どした?」

「なんかこんなに甘えていいのかな? 交通費からチケット代まで……」


 確かにそうなるよな。ましてや名前は知ってても、実際に会うのは初めての人なら尚更だよな? けど、わかるぞ? 今の望さんは最高の気分に違いない。


「まぁな。でも……良いんじゃない? 折角のご厚意だしさ」

「でも……」


「湯花? 折角デデリーランド来たんだぞ? 嬉しくないのか?」

「そっ、そんなことないよ? 去年は修学旅行だったけど、今日は……うみちゃんと……」


「2人きりだぞ?」

「……うんっ!」


 まぁ色々と恵まれてるけど……良いよね? 望さんも嬉しそうだし良いでしょ? 2人きりの夢の国デート、楽しまないと損だろ。


「やっぱり、その笑顔がないとな?」

「そう? にっしっし、ごめんね」


 俺達もさ、思いっきり……


「じゃあ、はぐれないように……」

「あっ……絶対に離さないでね? うみちゃん」


「当たり前だろ? じゃあ……行くか」

「行こう! 夢の国デートだぁ!」




 夢の国で……楽しもう!




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