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99.それぞれの道

 



 いつもだったら雪が深く残っている年もあるけど、今日という日はアスファルトも顔を出して、何処か心地良ささえ感じる。


 そんな中、教室のモニターに映る大勢の卒業生達。何処か緊張しているようで、どこか嬉しそうな姿を俺達は静かに見守っていた。

 窓から差し込む日の光が心地良い。まるで卒業生を送り出すような……俺達を励ますような……優しい光。

 そんな光に包まれ、今日この卒業式をもって……3年生はそれぞれの道へ羽ばたいて行く。


 たった1年。けど、俺にとってそれは今まで経験したことのない思い出深いものだった。こんなことなら、もっと早い内から入部しておけば……そうすればもっと先輩達と過ごせたのに。なんて思うことも多かったっけ。そんな後悔さえ覚えるくらい楽しかった。


 不思木監督の元、徐々に頭角を表して来ていたバスケ部。一体どんなものなのか最初は不安だったけど、予想以上に明るいというか、和やかだったのを覚えてる。先輩後輩関わらずその距離感の近さがそういう雰囲気を作り出してたんですね?


 準備にしろ片付けにしろ、マネージャーだけじゃなく先輩達が率先して手伝ってて、それを決して俺達に強要しない。でもそんな姿見たら、1年の俺達が動かない訳にはいかないじゃないですか。

 そんな俺達に言ってくれたありがとうって言葉。当たり前なんだけど、それを先輩達に言われるってのが新鮮で……それと同時に、緊張感もスッと消えました。だからこそ、すぐにバスケ部の一員だって自覚が持てて、溶け込むのに時間は掛らなかった。


 春季大会。1年生にも出場機会をくれてありがとうございました。途中で出場した翔明実業戦、あの出場が俺にとってターニングポンントだったと思います。まさか入学早々王者の力を直に感じれるなんて思ってなかったし、その強さに足が震えました。でも先輩達の笑顔で自分なりの力は出せた気がします。


 そして高校総体予選。いつもは笑顔で優しい下平先輩が見せた内なる闘志に、俺達の結束はより強くなりました。そして決勝、まさかスタメンに選ばれるとは思いませんでしたよ。できれば事前に教えてもらいたかったですけどね? あの場面でいきなりは……って、今となっては良い思い出です。樋村先輩にも、先輩達に認められた! そう実感できたんですから。そして大接戦の中、最後俺がシュート外したせいで試合は……それでもあのシュートがあったから、今の俺は居るのかもしれないです。そして、その時感じた悔しさと後悔が、先輩達に届いた。


 ウィンターカップに出てくれる……その言葉を湯花と晴下さんの3人で聞いた時は本当に嬉しかった。もう1度皆で全国へ行けるチャンスが訪れたんですから。その後の夏合宿も、黒前高校バスケ部がチームとして更に強くなった実感を得られました。


 そしてウィンターカップ予選。翔見実業に勝った時の衝撃は……今も忘れられません。念願の全国への切符、それを手にすることが出来たんですから当たり前ですよ。


 もちろんウィンターカップは記憶にも新しい。あの感覚は……そう簡単に忘れられません。全国の強豪校相手に戦ったことは嬉しくも有り楽しくて、そして何より高校王者鳳瞭学園との1戦は俺を変えました。

 限界まで体を酷使してたことすら分からず、純粋にバスケットボールを楽しんでいました。永遠に、この時間が終わらなければ良いって思ってました。そのくらい幸せな時間でしたよ。そしてその経験は……俺の心と体にしっかり刻み込まれています。


 もっとバスケットボール楽しみたい、もっと上手くなりたいって……我儘と一緒に。


 3年生の皆さん、ギリギリまで俺達の為に練習に付き合ってくれてありがとうございます。それぞれの道が無事に決まって本当に良かった。


 樋村先輩。

 俺達のこと常に気にかけてくれましたね。怒ると怖かったけど、それも全て後輩達を思ってのこと。高校総体でスタメンに選ばれた時、先輩自ら話したって聞いて驚きましたけど……認められたって自信が持てました。だからそれに応えられるように頑張りましたよ? 先輩のスッポンディフェンスに対抗できるようにドリブルから何まで見直して……だからこそ今の俺が居ます。先輩? いつでも遊びに来て下さいね? それに俺達も黒前大学バスケサークルにお邪魔しますから。その時は……宜しくお願いします!


 野呂先輩。

 そのガタイと笑顔で部活でも試合でも俺達を支えてくれた大黒柱。白波のこと気にかけてくれてありがとうございます。けど、白波ならきっと先輩を越えるセンターになりますよ。俺が保証します。樋村先輩と同じく黒前大学へ進学するなら、また会えますよね? その時は今まで以上に練習付き合って下さい。


 下平先輩。

 まさに理想のキャプテンです。部員全員をいつも見てて、その雰囲気に誰もが信頼できる人。バスケの腕も超一流でその全てが憧れですよ。でも、先輩が鳳瞭大学へ行くって言ってくれたこと、本来のプレースタイルを見せてくれたことが何よりも嬉しかった。大丈夫です。先輩の背中は晴下さんが、俺がちゃんと見てます。追いかけます。だから先輩はドンと構えて待ってて下さい? 必ず……追い付きますから!


 モニターから流れる校歌も終わり、たくさんの人で溢れていた体育館もガラリとその光景を変える。

 それと同時に騒がしくなる教室の姿に釣られるように、俺達も同時に椅子から立ち上がった。


「じゃあ俺達も行くか」

「だなっ! 盛大に見送りしないとっ! おっと、俺準備あるんだった! じゃあ先行くな?」

「先輩達にはお世話になったしな。って、待てよ山形! 俺も準備あるんだよ!」


 そう言って足早に教室を飛び出す2人。まぁ部活によってはその見送りに準備するものがあるんだろう。その点、俺達バスケ部はベターかもしれないけどボールに寄せ書きを書いて渡すというシンプルな物。

 けど、そのボールに込められた俺達の思いは、必ず先輩達の心に響く……なぜかそんな自信があった。


「おーい白波。行くか」

「うん! 行こう」


「あっ! うみちゃぁん! 行こう」

「白波? 早くしな?」


 俺、黒前高校に来て良かったです。バスケ部入って先輩達に出会えて本当に嬉しかった。


 だからこそ、心の底から言わせて下さい。



「了解! 今行く!」



 3年生の皆さん、本当にありがとうございました。お疲れ様でした。


 そして……




 また会いましょう!




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