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呼応  作者: はじめ
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9

ぎっしり詰まった文字の粒は

日ごとに色を変えて

印字された罫線の上を平気で横切り

角隅までをもぴったりと隙間なく

手帳の頁の全てを埋め尽くしているのでありました


ぎっしり詰まった文字の粒は

絶対に他人に読まれぬことを前提とした文体で

十五歳から十八歳のあらましを

あられもないほど率直に伝えてくるので

勝手に顔の紅潮するのを止められないのでありました


青文字の日には

「じぶん・この不思議な存在」という評論を読み

自分のことを書かれているような気味悪さを覚えて

それで「人ともっと話をしよう」と決意したのだと

なぜそうなったのかをさっぱり辿れない乱雑な文章で書かれてありました


緑文字の日には

下校途中の電車で見かけた

緑のマフラーの学ランの他校生について

どこの学校であろうかといつもこの時間に乗るのかと

誰に問うでもない問いが延延と書き連ねられてありました


赤文字の日には

友人の両親が喧嘩をして家を出て行ってしまったのだと

打ち沈む友人と夜通し電話で語らい

しゃべり疲れて朝になってようやく寝たのだと書いてありました

うちだけではないのだと密かに安堵したことは書いていないのでありました


桃文字の日には

誰も彼もと自分との間には大きな隔たりがあるのではと

自分だけが何か別の形をした生き物なのではないかと

なぜ皆のするように会話を楽しめないのかと

誰にも言葉が伝わる気がしないと不貞腐れた文字で書いてありました


ぎっしり詰まった文字の粒は

日ごとに色を変えて

印字された罫線の上を平気で横切り

角隅までをもぴったりと隙間なく

手帳の頁の全てを埋め尽くしているのでありました


ぎっしり詰まった文字の粒は

絶対に他人に読まれぬことを前提とした文体で

十五歳から十八歳のあらましを

あられもないほど率直に伝えてくるのに

本当に重要なことは何も伝えてこないのでありました


それから十年後のある日に一度浸かった塩水は

拭っても拭いきれなかったと見えて

すっかり錆びた金具に綴じられた頁が

めくりめくるごとにざりざりと騒ぐのでありました


水性ペンの日だけは

頁中にすっかり滲んでそれから乾いているので

日暮れの間近に迫る空の色に似て

ゲルや油性のペンの日に鮮やかな背景を添えているのでありました

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