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窓のサッシの間に黒い塊を見つけた
黒い塊は小さすぎて
立ったままでは何者か判断がつかなかったので
えいこら屈んで目を寄せた
半円型の体の腹側に
きっちり肢をまとめてじっとしている
背に四つの星を背負ったてんとう虫がいた
てんとう虫は半分仰向けに傾いて
肢の一本も動かす気配はなかった
光沢のあるはずの外殻は埃を被って曇っていた
動かなくなってからずいぶん時が経っているようだった
いくら安アパートといっても
虫の入る隙間などないはずなのに
それほど微小でもないてんとう虫が
いったいどこから入ってきただろう
と考えてはたと
窓を開けた覚えがあることを思い出した
滅多に開けない窓をそのとき開けたのは
その日の陽気があまりに晴れ晴れとしていて
普段少しも浮かばない調子を
少しばかりふわふわと浮かばせられたので
風でも入れてみようかと文字通り調子に乗って
数ヶ月ぶりに開け放ってみたのだった
それは春先のことであったから
となると約五ヶ月もの間このてんとう虫は
ここへ転がっていたことになる
気まぐれで開けられた
滅多に開かない窓へ寄ったばかりに
二度と空の下へ出られなくなったてんとう虫は
食べるものもなく
とうとうその命が尽きようとするとき
何かを思ったろうか
長い間関心を寄せられないまま放っておかれて
その亡骸をようやく発見されたとき
何かを思ったろうか
私は二度と
気まぐれや軽い気持ちで窓は開けるまいと誓って
親指で中指の爪を押さえた
それから中指を伸ばす時の反動を利用して
中指の爪でてんとう虫の背を弾いた
四つ星が閃光の速さでくるくると回転して
ベランダの格子の外へ飛んでいった
私はてんとう虫の遺した軌跡を何度か反芻して
華々しい陽気に照らされたベランダの
すこし軋んだ音のする窓を
ゆっくり引いて ぴちり と閉めた