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死んですぐ目にする光景といったら、体験談でも創作でも、何やら神々しい花畑だったりするものですがね
異論はありませんよ、所謂死後の世界などあるとしたら実際そんなようなものじゃないかと思ってますよ
正確にはそんなものだといいと思っていると言ったほうがいいのですかね
でも同じことでしょ結局
私ら脳みそっていうまだまだわからないことだらけの物体を原動にしてる生き物ですから
死ぬその瞬間には各々好きな極楽に行くくらいの現実はアドレナリンあたりかもしくは未だ知られていないホルモンなんかが作ってくれるでしょうよ
つまりは私ら死ぬ間際の一瞬だけ全能になるのかもしれませんから、見たい光景を自分が作り出したこともわからないように作り出すなんて、簡単にできてしまうんじゃないかということですよ
人生の一番幸福だった頃の風景だとか
先に身罷った親しい人が迎えに来るとか
ただぷつりと無になるだけだとか
いろいろでしょうね
自罰の厳しいお人は地獄を作って自分でそこへ収まったりするんですかね
ごうごう煮える赤い池を自分で作っておいて、徐ろにそこへ尻を浸けてうわぁうわぁと騒いでみたりして、と想像すると可笑しくて笑ってしまいますがね
それはそれで本人が望んだ結果なのだとすれば幸福なのでしょうね
私の場合は花畑の類ですから特に面白みもないんですが、春の三神峯のお山の公園がそうだろうと踏んでいますよ
小高い場所にあって、空しか見えないようなだだ広い野っぱらで、周りを桜で囲われているから地平線がみんな桜でね
初めて目にしたときにはいつの間にやら死んでしまって、この世ならざる場所に来てしまったかとしばらくぽかんと見蕩れていたものですよ
そんな錯覚をするくらい見事な光景でしたから、きっといよいよそのときとなればその景色を真っ先に思いのぼすと思うんですよ
逆に言えばあそこへ行けばいつでも死んだみたいなものでね
ちょっと愉快じゃないですか
毎年春のほんの数日だけは何度でも気の済むまで死にに行けるんですって、こんな愉快な行楽を私は他に知りません
結局はみんな、死ぬ間際とその後までしんどいやら悲しいやら退屈やらの生の鬱陶しさに煩わされたかないんですよと、全てそういう意思の表れでしょう
そんなことはない、生きているのが楽しくて楽しくて今際の際にもただただ死にたくないと思う人もいるですって?
いろんな人がいますから、そんな人もいるでしょうね、私はそういう人とは真逆の位置にいるようなものですから、信じられない気持ちでいっぱいですけれどもね
きっとどこかがおかしいのでしょうね
暦の移ろいがどうでもよくなってから何年も経つが、今日明日あたりは一年で最も夜が短い日なのだそうだ
そういう言い方をされればふぅん、と興味も湧くもので
そういえばちょうど二、三日前の午前四時、電気を消して初めて外が明るいことに気が付いて、思わず時計の狂いを確かめたところだったのだ
今を境に、もう夏も始まる前から昼は日毎短く、夜は夜毎長くなっていく
夏の暑さは心底嫌いだが、これから少しずつ昼は夜に浸食されていくのだと思うと幾分気持ちがいい
ぐらぐらと太陽を沸かし上げていても、その登板時間は確実に削られていくのだ
もうすぐ日が沈む
せっかくだから今日は、いいぞもっとやれと手を叩いて夜を迎えてやろう
きんとするほど音のなくなった真夜中に
得体の知れない不安は湧き上がる
スマホとパソコンの画面の光だけがこの世に唯一の明かりのようで
いつも限界あたりをふらふらしている
いつ越えるかとひりひりするような博打打ち
月も見えない艶消しの真っ黒い凹凸だけになった窓の外に
得体の知れないときめきが押し寄せてくる
ざぶざぶと真っ暗闇を泳いでどこまでも
戻れなくなるくらいの遠くを見ている深海魚
変わったようでいて何も変われない
あきらめたふりして何一つあきらめられない
まだとりあえずは終わっていないから
二度と明けない夜に万歳




