14
机に座りキーボードをかたかたやっている最中
ふと考え事などしてやや右に目をやると
ちょうど焦点の合う位置にそれはある
壁に据えてある棚の棚と壁との接点に
先から設けられた蜘蛛の巣は
拳を握ったよりも狭小の
三点固定のたわみ造りで
胡麻粒よりも小さな若蜘蛛がちまちまと住んでいる
机に座りキーボードをかたかたやっている最中
ふと考え事などして久方ぶりに右に目をやると
巣は埃を被ってたわみが深く
かかる虫の姿もない
糸を指先でつついと触れてみても
家主が顔を出す気配はない
棚板にはあわれ家主の糧となった羽虫の
芥子粒よりも小さな翅だけがぱらぱらと落ちている
空になった巣はいつまでも空のまま
再び主が住まうのを見た試しがない
主のない埃と糸の一緒くたになったものをちり紙で絡め取る
ところが取り去ってしまうと不思議なことに
数日のうちに新たな巣が設けられる
手洗い場の隅の巣も部屋角の天井の巣もそうであった
ピンと張った糸も瑞々しく新たな巣には新たな主が居る
元の主が戻ってきたか以前見なくなった別の主かと
つい知り合いを迎える気持ちになりはするが
この時には以前の主らの姿形をすっかり忘れているものだから
やむを得ず毎度新顔を迎える気持ちで眺めている