1 『転移』
第2章『過去異世界編』です
異世界の技術の粋と言うべき、『オープス』
オープスがこの世界で担う役割
これが、手段であり、秩序であり、未来である
夢の世界からの帰還を果たした僕が、
目覚めた場所。
シャッフルの案に乗り、光に包まれた後、
連れて来られた時代。
計画通りなら、ここは過去。
今より、約1万年前の日本。
のはず……。
「ちょっと、想像していたのと違うな」
「おい、シャッフル、これは……」
返事がない。
「オイってばッ!」
返事がない。
「何黙ってんだよ。それともお前も
呆気に取られている感じか?」
やれやれ、自分で連れてきておいて、
言葉も出ないほど呆けているとは。
そう思って辺りを見渡すと……
あれ――――――――――――?
シャ、シャッフルさぁーん?
いなかった……。
「ふ、ふっざけなー!」
「こんな未知の世界に僕を1人、置き去りにすんなー!」
・・・・・・
「え?これマジでどうすんの?」
思考が停止し、立ち尽くす。呆然とする。
騙された?
「ねぇ。お兄さん。そんなところに立っていると
危ないよ」
僕の中の不信感が確信に変わる前に、女のコの声と
腕の裾をそっと引っ張る感覚が同時に押し寄せた。
「わぁー!」
僕は、慌てて後退る。
「な、なんですかー!?」
慌てた人間の行動は実に滑稽だ。
少女は、僕のそんな姿を見て、笑みをこぼし、続ける。
「そこは、電磁路。磁空車が通る道だよ。
轢かれちゃうよ」
そう言うと、僕の腕の裾を掴んだまま電磁路の外に
今度は、強く引っ張った。
「お兄さん、変わった服着てるね。
この国の人じゃないでしょ」
少女は、ニコニコしながら僕の顔を覗き込む。
「……」
頭が混乱して、言葉が出てこない。
「あっ、そうだ。コレ、そこに落ちていたけど、
お兄さんの?」
少女が手に持っていたのは、シャッフルの杖だった。
シャッフルはいないのに、杖だけ転移してきたのか?
「あ、ありがと」
やっとのことで、言葉を絞り出す。
「ところでぇー、お兄さんこれからの予定は?
時間があるなら、うちの店に来ない?すぐそこの
酒場兼宿屋なんだけど」
積極的で、友好的なコだ。
僕とは正反対のコ。
ただ、だからこそ、疑いたくなる。
人間不信の弊害だ。
(『ゴ、ゴホン。このコは問題ないぞ』)
え!?
なになになに―――!?
僕の頭の中に響くこの声はなんだー。
慌てて辺りを見渡すが、声の主らしき
男はいない。
(『どこを見ている?ここだ。君の左手だ』)
声の主に言われるがまま、自分の左手に目をやる。
すると、さっき女のコに渡された杖の先端が微かに
光っている。
「お、お前、まさかとは思うが、シャッフルか?」
(『あぁ。その通りだ。経緯は追って説明する。
今はとりあえず、目の前のコに付いていけ』)
右も左もわからない僕は、シャッフルに言われた通り、
女のコに連れられ、酒場兼宿屋へ足を踏み入れた。
「一名様ご案内でーす」
「いらっしゃいませー」
店に入ると威勢の良い声が響き渡る。同時に、
強面の野郎どもがこちらをじっと睨みつけてきた。
「お客さん。とりあえず、ここの席使って。
これはメニューね」
暗示に掛けられたかのように椅子に腰かけ、
メニューを開く。
なんだこの文字。全然読めないぞ。
そこに記されていたのは、日本語でもなければ、
英語でもない。強いて言うなら象形文字に近いか。
そんなことがわかったところで、読めないことに
変わりはないのだが。
「ご注文は決まったー?」
女のコが注文を聞きたげに、僕の横に立って
待っている。
「あー、えーっと、一番弱い酒ってどれかな?」
これくらいの質問は、飲み屋に入ったら普通だろう。
「そーだね。一番弱いとなると、エールかな」
「エールって?ビールか?」
「そうだよ。それが、この店で一番弱いお酒」
普通にビールあるのかよ……。
「じゃあ、とりあえずそれをお願い」
酒場だし、酒を注文しておけば間違いないだろう。
それはさておき……。
「さっきからだんまりを決め込んでいるシャッフルよ」
僕は、周りに怪しまれないように、小声で杖に
語り掛ける。
この服装のせいで既に変わった人と周りから
思われているかもしれないが、これ以上、
状況を悪化させるのは御免だ。
(『ひとまず、これから運ばれてくるエールで
喉を潤せ。話はそれからだ。あっそうそう。
別に、発声せずとも、頭の中で会話を思い
浮かべてくれれば、通信はできるぞ』)
僕は、テーブルの上に差し出されたエールに手を伸ばし、
勢いよく、喉の奥に流し込んだ。
(「そうゆう大事なことは、早く言えよ!」)
引き続き、お楽しみいただけると幸いです。