五話貴重な瞬間
高杉は、長年一人で黙々と研究を続け、世界中の人が幸せになると信じて開発したスーパージョブ細胞が、世の中を生き地獄に変えると言われ、落ち込んでいた・・
『お・俺の10年が・・』
「まぁ、そう落ち込まないで・・生き地獄になる前に防げたし、生きてればきっと良い事だってあるわよ!」
リサの言葉に納得したが、すでに完成させたジョブ細胞の行方が気になった。
「既に作ったジョブ細胞はどうなったんだ?神谷所長に渡したヤツ・・」
とリサに尋ねる。
「それなら心配しないで、全て当局で厳重に保管してあるから」
「廃棄しないのか・・」
「そうね・・いつか約に立つかもしれないし・・エイリアンが地球に攻めて来たりとか、なんて言っても不死身になれるんだから、廃棄するのは勿体ないでしょ」
「そうか・・全く無駄って訳じゃ無いのか・・」
それだけで満足する事にした。
「ふぅーっ!」
高杉は大きく息を吐いて
「もう、君達の事は、全て許す事にした。だから、この紐をほどいてくれ!」
と言ったが、リサは腕時計を見ながら
「ごめんなさいね・・まだ、ほどく訳にはいかないの・・」
「まだ俺に言いたい事があるのか?」
「あなたを監視していたのには、もう一つ理由があってね・・」
悲しげに高杉を見つめるリサ・・
「理由?・・」
「あなたがジョブ細胞を自分の体内に取り入れたのかが知りたかったの。残念ながら、既に取り入れてしまってた・・」
高杉に嫌な予感・・息苦しさに深く息を吸い込む・・
「あなたは研究所を辞め、やる気を無くしたのか毎日パチンコ店と自宅の往復・・私達は、しびれを切らし確かめることにしたの。公園で出会った二人の子供・・あの子達は劇団の子役で、あなたを包丁で刺すように私が雇ったのよ。」
「はぁ?・・子供にそんな事させるんじゃねぇよ!俺が死んでたらどうすんだよ!」
「そうなれば、ゴハンが後始末をするだけ!でも、死ななかった・・・5歳児なら泣いて逃げれば済む話でしょ。あの子達は台詞も動きも台本通り演じてくれたわ・・そして分かった!あなたがバケモノだって事が・・」
「へっ!バケモノ扱いかよ・・」
「・・・あなたの研究室から盗み出したマウスで、ゴハンが試したの・・殺す事が出来るかどうかを・・マウスを水に沈めてもコンクリートで固めても死ななかった。そこでゴハンは、マウスのゴハンに強力な毒を入れ食べさせたの。そのゴハンをマウスは平気で平らげ、ゴハンにゴハンをもっとと催促し、ゴハンはゴハンにもっと強い毒を入れ食べさせた!そのゴハンをゴハンの前で嬉しそうに食べるのを見て、ゴハンは頭に来てゴハンを食べているマウスをナイフで2つに切り裂いたのよ!それでも、ゴハンを食べ続けるの・・ゴハンは食べてすぐに切り裂かれた腹からポロポロこぼれ落ち、それでもゴハンを食べ続ける。ゴハンはそれを見てゾッとしてゴハンを取り上げたって話をゴハンを食べている時にゴハンに聞かされ、ゴハンを吐きそうになったわ!」
「ゴハンばっかで、話が入って来ねぇ・・」
「つまり、マウスを殺す事が出来ず、2つに切り裂いたら2匹に増えてしまったの!」
リサは、マウスの入ったゲージを高杉の前に持ってきて
「ほら!あなた達のご主人様よ!」
と目の前に置いた。
「あぁトム!可愛そうに・・酷い目にあったな!」
マウスは高杉に名前を呼ばれ、ゲージの中を嬉しそうに走り回る。
「・・で、俺達をどうするつもりだ!」
「そうねぇ・・実はゴハンがマウスは殺せなかったけど人間なら殺れるかもって、言うのよ・・彼、殺し屋でしょう・・だから、試してみたいって!」
高杉は後ろの気配に寒気を感じ、凍りついた様に固まる・・リサは腕時計を見ながら笑顔で
「私も見たいのよ、スーパージョブ細胞がどれ程の物なのか・・あなたが、どれだけ不死身なのかを・・ここは地下300メートルどれだけ悲鳴を上げても誰も気付かない・・あなたの体から、どれだけの血が流れ出るのか見てみたいのよ・・そして、あなたが二人になる所をね!アハッ・アハハハハハッ!」
高笑いするリサに高杉は・・
『この女!飛んだサイコヤローだぜ・・コイツはもう、腹をくくるしかねぇなっ!好きなだけ俺を痛ぶるがいいさっ!必ず隙を突いて逃げ出してやるからな!』
リサを睨み付けた!
リサはゆっくり近付き、睨み付けている高杉の顔を見て、また高笑いする!
「アハハハハッ!・・・冗談よ!冗談!私がそんな悪趣味な分けないでしょー!やぁねぇー!」
冗談と聞いても、睨み続ける高杉・・
「冗談は、言わない主義なんだろう・・」
「そうねっ!笑えない冗談は言わない主義なの!」
「けっ!笑えねぇよ!さっさと、この紐ほどけ!」
「ごめんなさい・・それは出来ないの・・あなたを地上に戻すわけにはいかないの。分かるでしょ・・あなたは危険人物なの!普通の人間じゃないのよ・・しばらくこの地下で暮らしてもらう事になるわ!」
「しばらくってどのくらいだ!」
「そうねぇ・・200年位かな・・」
「にっ200年!ふざけるなっ!200年もこんな所に居れっかよ!」
「ここはねぇ・・元々国の機密文書が山のように保管してあったの、だから凄く頑丈だし、いざって時のシェルターとして残してあるの、電気は地熱発電で全てを賄えるし、空調や水回りもしっかりしてる。隣に同じ広さの部屋がもう一つあって、そこには、たっぷり食料品が保管してあるわ。
必要な物はみんな揃ってる!
あなたは不死身になったんだから200年位大した事ないでしょ!200年先の未来なら、あなたを受け入れてくれるはずよ。それまで、ここで大人しくしてて」
と言うと、リサは腕時計を見て
「じゃあ私、そろそろ行かないと!」
扉の方へ歩き出し、ゴハンも後に続く・・
「ちょ・ちょっと!待ってくれよ・・なぁ、行かないでくれよ・・」
情けない声にリサは足を止め、振り向いた・・高杉の今にも泣きそうな顔・・
「200年たったら扉が開くから、あなたには不死身のお仲間も居るんだし、楽しく過ごしていれば、あっという間よ!じゃあ、お元気で・・さようなら・・」
ヒールの音をコツコツと響かせ遠ざかって行く・・
その後ろ姿を見つめる高杉・・
「おーーい!戻って来てくれよー!冗談だって言ってくれよぉー・・リ~サァ~~ッ!・・」
高杉の呼び掛けに、リサは、もう振り返る事も立ち止まる事もなかった・・
「紐ほどいてくれよ~!リサ・ステッキ~!」
すがり付く様に大声を張り上げる・・
「ありがとう・・」
リサは、フルネームで呼んでくれた人には、ありがとうを言う事にしていた・・
リサは部屋を出ると、腕時計に目をやり、足早に扉の制御パネルの前に行くと200年間ロックする設定作業を始める・・
あと残すは、ロックする年数とロックボタンを押すのみと、なっていた・・
「後は年数ね!に・ひゃく・ね・ん・っと」
声に出しながら数字のボタンを押す・・
「あらっ!間違えてゼロ1つ多く押しちゃった・・」
時計を見て少し考えるリサ・・
「まっいいか!ロックっと・・」
ロックボタンを押すと扉が閉まり始める・・
隣で見ていたゴハンの額から一筋の汗が流れた・・
ゴハンは、ゆっくり閉まり行く扉を見つめ、この巨大で重厚な扉が閉ざされれば、次に開くのが2000年後かと思うと、何か歴史的な瞬間を目にしているような興奮を感じ、とても貴重な物を見ているように閉まり行く扉を見つめる・・
「ガシャ・ガシャ・ガッチャーン!」
扉が閉まり、厳重にロックされた音が響き渡った・・
ゴハンは貴重な瞬間に立ち合った気分になり、感動して、その場に立ち尽くしている・・
「ちょっとー!ゴハン、何してるのよー!ぼっーと突っ立って!」
リサがエレベータの中から声を上げた!
「早くしてよー!こっちは、あなたを待ってるの!この後デートなのよ!私、先に行っちゃうわよ!」
(プラス0おわり・・地下300Mに続く・・)