四話地下深く・・・
エレベータの扉が開き、高杉が乗り込むのを笑顔で待つピンヒールの女・・後ろには、サングラスの男が睨み付けている・・高杉はエレベータに乗るのを躊躇していた・・
「どうしたの?さぁ乗って!下まで直ぐ着くから」
女は気軽に誘うが、高杉の足は重い・・
「あの・・階段でも行けるんですよね・・」
「行けるわよ!階段で行きたいのなら、どうぞ!好きな方を選んで、私はエレベータを使うけど」
高杉は、とりあえず階段でゆっくり考えながら行こうと思い
「俺は、かい『ガチャ!』・だ・・」
後ろから聞こえた撃鉄を起こす音・・
「エレベータで行きます!」
咄嗟の判断でエレベータを選んだ・・エレベータに乗り込むと、女が耳元で囁く
『危なかったわね・・階段を選んでたら、あの男に撃たれてたわよ・・』
後ろに控えるサングラスの男に震える高杉・・
『あの・・俺に危害を加えないって言ってましたよね・・』
「言ってたわね!あなたが大人しく、言う事を効いてくれればね!・・では、下に参りまーす!」
女が笑顔でボタンを押すと、高速で降りて行き、あっという間に地下300メートルに着いた・・高杉は何とも言えない不安と恐怖を感じるが、どうする事も出来ない・・
エレベータを降りると目の前に重厚で巨大な扉があり、暗証番号を入力すると、自動でゆっくり開き始める・・扉の厚みは50センチ・・高杉は、この強固な扉をまじまじと見ながら中へと入っていく・・
中は驚くほど広くて明るかった。
学校の体育館程の広さがあり天井も高い。そして、その中央に椅子が一つ有るのが分かった・・どうやら、そこに座らされるらしい・・
椅子以外何もないと思っていたが、床にゲージが一つ置いてある。中には白いマウスが2匹・・高杉は椅子に座るよう指示され腰掛けると、サングラスの男が紐を取り出し、足首を椅子に縛り始める・・
「ちょっ・・なぜ、そんな事するんです!」
足を縛るとサングラスの男は無言で、ポケットからカギを取り出し、手錠を外した。
「な~んだ!カギ、持ってたんじゃないですか・・」
少しホッとした高杉だったが、椅子の肘掛けに手首を縛り付けられた・・身動き出来ない高杉・・
「さぁーて!準備が整ったようね!」
ピンヒールの女が笑顔で高杉の前に立ち
「まずは、自己紹介させてね。私は国家情報保安保障局の保安保障部リサ・ステッキーよ!リサって、呼んでくれていいから。で、彼が情報諜報部の通称ゴルゴ・ハンター、略してゴハンって呼んであげると喜ぶわよ!」
高杉は、なぜ、今ごろ自己紹介するのか疑問を感じつつも『ゴハンって呼ぶと喜ぶって犬かよ!』って思い試してみる・・サングラス男に向かって
「ゴハン!」
殴られた・・
リサは見なかった振りをして話を続ける・・
「あなたは、私達の監視下にあったの・・あなたがスーパージョブ細胞を発表した時からずっと・・」
「えっ?・・なぜ、監視される訳?」
「そんなの、スーパージョブ細胞を作ったからに決まってるでしょ!」
「どうしてっ!」
「あなたは、皆が喜んでくれると思ったかもしれないけど、あんな物は・・この世を地獄に変えるだけなの・・」
「地獄っ!・・俺の研究は人を幸せにするためだぞ!ふざけるな!」
「若さを保って、いつまでも生きられる。聞こえはいいけど、地上は爆発的に人で溢れ、直ぐに住む処や食料が無くなってしまうわ・・」
「・・・・」
高杉は黙ってしまった・・リサは
「この世界は、支配する人と支配される人に別れているの・・そして更に、必要な人とそうでない人に・・不要な人間が死なずに増え続けたらどうなると思う?・・埋められてしまうのよ・・大きな穴を掘って生きたまま土の中に・・土の重みで身動きも出来ず、空腹と喉の乾きに苦しみながら、それでも死ねずに生き続けるの・・・生き地獄よね・・あなたの作ったスーパージョブ細胞のおかげで・・分かるでしょ!」
高杉は、極端な事を言うリサに反論したかったが、自分の縛られている状況を考え、納得したように頷いた・・
「あっそう!納得してくれたのね、ならよかった!じゃあ、私達がした事も許して貰えるわね!」
「許すって、何をしたんです?」
「そうねぇ・・例えば、あなたの論文を書き変えたり、神谷所長を利用したり・・実験用のマウスを盗んだのも私達よ!後は、あなたが世界中からぺてん師扱いされるようにした事かなぁ・・」
「ぜっ全部じゃなねぇか!人を破滅させといて、よく許して貰えるなんて思えるよなぁ!」
高杉は、縛られてなければ飛び掛かっているほど、椅子をガタガタさせ、紐を外そうともがく・・
「仕方ないでしょ!あなたがあんな物作るからよ!命に限りがあるから人は一生懸命生きるの!それが人生なの!あなたは、人をバケモノに変える物を作ったのよ!」
高杉は言い返す言葉がなかった・・諦めたように体の力を抜き、溜め息を付き下を向いた・・項垂れる高杉にリサは
「でも、記者会見で泣いたのは、私達のせいじゃないからね!あなたが勝手に泣いたのよ・・」
「そりゃ、泣きたくもなるでしょうよ・・他に上手いやり方無かったのかよ・・」
記者会見を思い出し、高杉は涙ぐんだ・・・