二話フラッシュバック
警察署の中に連れられて行く高杉・・
「パシャ!」
入り口の所で一人の新聞記者に、突然フラッシュを浴びせられた。
「刃物男の顔いただき!」
走り去る記者・・高杉は突然の眩しい光に目の前が真っ白になり、記憶の中に意識が引っ張られて行く・・・
「パシャ!パシャ!パシャシャシャ!」
多くの報道陣・・激しいカメラのシャッター音と眩いフラッシュの中に高杉は立っていた・・
「博士!高杉博士が開発した細胞とはどういう物なのか、我々の生活に、どんなメリットが有るのか具体的にお聞かせ下さい!」
報道陣を前に緊張する中で、高杉はマイクを握り話し出す。
「えーっと・・・私が開発しましたのは、スーパージョブ細胞と申しまして、これを体内に取り入れることで体の修復、再生を格段に早める事が出来ます。つまり、怪我や病気を素早く治す事が出来き・・えー・・それから老化現象からも回復出来ます。」
「では博士!若返る事が出来るのですか?」
「はい・・若返る事も出来て、死ぬ事も無くなります」
「では我々人類は、ついに死と老いの恐怖から開放されると言う事ですか?」
「はい、そうです!」
「おぉぉ!すごい・・パチパチパチパチ・・・」
記者から歓声が上がり、拍手が沸き起こる・・テレる高杉にカメラのフラッシュが降り注いだ・・
「んあっぷっ!」
高杉は、立ち止まった警察官の背中に顔をぶつけ、つっかえて立ち止まり、現実に引き戻される・・
取り調べ室のドアが開くと、中には刑事が二人・・
高杉が椅子に座ると、目の前に大柄で強面の刑事がドカっと座り、高杉のアゴを『クイッ』とつまみ起こす
「刃物男を現行犯で捕まえたってのに、綺麗な顔だな・・」
と言って高杉の顔をまじまじと見つめ、顔を近付けると
「お前の応え方次第で、この顔を痛めつけてやるからなっ!肝に命じとけよ!」
高杉は静かに頷く・・強面の男の威圧感に取り調べ室に緊迫感が漂っていた・・・
「お前の名前は?」
「た・高杉健三です・・」
「高杉・・か・・」
刑事が高杉の顔を見ながら考え込み、じいーっと見つめ
「お前・・前にオレと会ったことあるか?」
と聞いた・・
「いいえ、初めてです・・」
「そうか・・何か見たことあるんだよなぁ・・」
と更に考え込み、記憶を巡らせていると、もう一人の刑事が
「梶さん、この男はあれですよ!ほらぁ、この前、記者会見で涙を流し大泣きしてた男・・」
「おぉぉ!そうだ!あのスーパー何とか細胞とか言ってたペテン師ヤローだ!」
「スーパージョブ細胞ですよ!梶さん」
と言ってパソコン画面を向ける
高杉が大泣きしている静止画像・・思わず高杉は目を閉じ下を向いた・・刑事が再生ボタンを押す・・
高杉が腰かける前には、沢山のマイクが置かれたテーブル、報道陣の一人が代表して質問を投げ掛ける
「博士!スーパージョブ細胞は捏造だと、世界中の科学雑誌や研究者が騒いでますが、どう思います?」
「捏造ではないです!スーパージョブ細胞は存在してますから・・」
「では何故、世界中の研究者達が再現出来なかったのでしょうか・・博士の発表した論文に誤りが無ければ、再現出来るはずですよね・・」
「そうですね・・」
「でも、誰も再現出来なかった・・何かコツの様なものが必要なんですか?」
「分からないです・・」
「では、あなたが作ったと言うジョブ細胞は今、何処に有りますか?」
「分からないです・・所長に渡しましたので」
「なるほど・・では、あなたが実験で投与したマウスは今、何処にいるんでしょう・・」
「分からないです・・逃げ出した見たいですから・・」
「あなたは、一人で研究してきたのですか?誰か他に協力者がいましたか?」
「ずっと、一人でやって来ました」
「あなたは、お金に困ってましたか?貯金は有りますか?」
「貯金は有りませんが、お金に困っていません」
「うーむ・・博士・・あなたはジョブ細胞は存在しているけど、何処にあるか知らない・・細胞を投与したマウスも逃げてしまい、お金もない訳ですよね・・本当にあなたはジョブ細胞を作ったんですか?研究費欲しさに捏造し、妄想を発表したのではないですか?」
「ちっ違います!スーパージョブ細胞は有ります!」
高杉は記者を睨み付ける!
「では、あなたがジョブ細胞を渡した所長は、神谷所長だけですね。他に所長と呼ばれる人はいますか?」
「神谷所長だけです」
「今しがた神谷所長に直接電話で確認しましたが、所長は渡されていないと言っているのですよ・・」
「そんな・・ちゃんと渡したんです・・スーパージョブ細胞を全部所長に渡しました!」
高杉は両手を握りテーブルに強く押し付ける・・
「逃げ出したと言うマウスも、あなたが逃がしたのではないですか?」
「そんな事するわけないです・・」
「マウスを調べられたら嘘がバレてしまう、だから逃がしたんでしょう?」
「ドン!」
高杉は目を閉じ、両手でテーブルを叩き
「嘘なんかついてない!」
と言った・・
高杉の拳に力が入って行く・・