第97話・道具はマニュアルを理解している限り、誰でも扱えるべきだ
「ユリアが宝具に認められていない……、っというか、そもそも道具が使用人を選ぶものなんですか?」
「あぁ……宝具というのはずいぶん特殊での、自らが主人と認めた人間が持たないと能力を発揮せんのじゃ」
うわ、それは……結構面倒くさいな。
俺はそんな選ばれるような人間じゃないので、誰でも使える工業用品が好きだ。
ゆえに理解できない。
だってそうだろう。
本来道具というのは、持った人間がどんなヤツであろうとマニュアルを理解している限り扱えるべきだ。
「そこの差が、人間製と神様製の違いってわけね」
ミライの言葉を、俺も肯定する。
「だろうな、けどわっかんねぇわ……」
大賢者フォルティシアの放った一言は、全くもって信じられない。
どちらが選ぶ云々は置いとくとしても、あのユリアだぞ……選ばれない理由はいったいなんなんだ?
実力、武器への愛は俺が保証してもいい。
つまりそれ以外の外的要因だろう––––
「こればっかりは外野じゃどうしようもないが、一応修理はしよう。今日から明日に掛けてちょっち預るわい」
「……お願いします、師匠」
席を立ったユリアは、真っ二つの『インフィニティー・オーダー』を置いて玄関へ向かう。
落ち込んでいる感じではないが、アレはしばらく考え込むだろうな。
「ミライ、アリサ……すまんがついていってやれるか?」
「りょうかーい!」
「うん、わかった」
彼女の後を追って、2人も家を出て行く。
俺と2人っきりになった大賢者が、ハーブティーを飲み干しながら一言。
「さて……イージスフォード。そろそろおぬしの用件を聞こうか、宝具修理の目処は一応立ったわけじゃし、話しても罰は当たらんぞ」
さすがにご賢察。
俺はキャリーケースから2つの“宝具”を取り出した。
『ホログラフィック・サイト』と、『謎の鍵』だ。
「これは以前、古代帝国跡地から持って帰ったアーティファクトです。これらについて相談を」
「ほぅ……古代帝国のアーティファクトか、よく生きて帰ってこれたもんじゃ」
興味深そうに手で取り、ジッと見つめるフォルティシア。
宝具の専門家だけあって、様々な道具であらゆる方向から観察する。
写真まで撮りまくる徹底ぶりだ。
「ふむ、鍵の方は正直よくわからん……だがこのヘンテコな黒いレンズは用途がハッキリしておるな」
「おっしゃる通りです、調べた限りだと……たぶんライフル等に取り付けて使う、一種の“照準器”だと思います」
俺は生徒会長権限で得た銃を使い、これについてかなり調べ尽くしていた。
検証の結果、ライフル上部に取り付けて運用するものだと判明。
それに伴い用途もハッキリした。
「下部のレール径は20ミリ、これは古代帝国における共通規格だったと推測されます。たぶん規格に合えば無加工で取り付けれる」
「銃の照準を容易にするアタッチメントだと推測したわけか……、で。これをワシに見せるからには……意味があるんじゃろ?」
「まさしく。あなたは宝具専門家であると同時に、それらをベースとした家庭用魔導具の開発者でもある」
俺は別で持ってきたケースから、大量の現金を取り出して机に置いた。
先のアルテマ・クエストクリアで得た、報酬金だ。
「このホログラフィック・サイトの現物、そして俺が纏めたデータ、最後にこちらの資金を全てあなたに託します」
「託してどうする? ワシにどうして欲しい」
「その宝具を解析……改良型を量産し、対モンスター用に行き渡らせたいと考えています。これは、それに対する前払い分と開発資金です」
驚いたような仕草をした後、フォルティシアは大袈裟に笑い声を上げた。
目尻の涙を拭って、俺を見つめ直す。
「これは面白い……おぬし、まさか投資家気質であったとは。クエストで得た宝具と報酬金をこのように使う人間は初めて見たわい」
「もし必要なら、僅かですが追加資金もあります。売り上げの山分けに関しては……要相談ということでどうでしょう?」
もし宝具が人を選ぶというのなら、このアーティファクトも例外ではないだろう。
もちろんそんな物は量産向けじゃないので、性能をデチューンしてでも消してもらう。
俺が全てのプロへ送りたいのは、”誰でも使える“高性能照準器なのだ。
間違っても、人によって道具が不機嫌になるなどあってはならない。
これは凡人として3年間苦労したからこそ、そして手加減できない竜王級として苦労したからこそ、
1人でも俺のような人間を減らしたいと考えた末のアイディアだ。
「––––良いじゃろうイージスフォード、これだけ色々出されればふざけてないのもよくわかる。細かい部分に関しては……ユリアの宝具が修理完了したときにでも答えよう」
「それで構いません、じゃあ––––俺もそろそろみんなのところへ行きます。あんまり長い時間役員たちを放置したくない」
俺は席を立ち、投資資金と宝具を置いて玄関に向かった。
「そうじゃイージスフォード」
振り向くと、フォルティシアは座ったまま穏やかに笑顔を向けていた。
「ユリアのヤツと友達になってくれたこと……本当に感謝する。ワシでは親代わりになれても、良き友としては不十分じゃったからな」
俺も立ち止まり、返答した。
「それで良いと思います、逆に俺ではアイツの師になれません。せいぜい友達が精一杯です」
「フーン……」
ニヤニヤしながら、フォルティシアは俺を吟味するように見つめてきた。
「本当に“友達”で終わるかのぉ?」
それが今日最後にした大賢者様との会話だった。




