第87話・元パーティーリーダーとの邂逅
「お客様様へ連絡します! 現在、本列車は襲撃下にあります! お席をお立ちにならず、落ち着いてガラスなどの破片から身を守ってください」
動揺した声の車内アナウンスが広がるも、機関砲の音は絶え間なく響き続けていた。
席を立つな……か、マニュアルではそうなんだろうが––––
「アルス!?」
俺は棚上のバッグからハンドガンを取り出し、ホルスターから抜いた。
マガジンをポケットやベルトに挟み、スライドを引いて装填する。
「全員前方車両に行くぞ、戦う準備はしてるだろ?」
「マジで!?」
「マジだ、時間はない」
この列車に搭載されているのは、おそらく重装甲偵察車の20ミリ機関砲だ。
音的に汎用マシンガンも加わっている、かなり強力だがそれでも万全ではない。
「俺が襲撃側なら、機関砲を避けるために非武装の先頭車両から襲う。車内に入れば武装はないからな」
加えて言うなら、後方車両の砲塔では視野にも限界がある。
敵はわかって襲ってきたと見るべきだ。
「わたしは会長に従います、宝具がなくても素人に負けるつもりはありませんので。それに……人の命が掛かってるのでしょう?」
「さすが副会長、話が早くて助かるよ」
ミライとアリサも同意し、俺たちは先頭車両へ走った。
他の人たちはみな怯えてうずくまっており、こちらに注意を向ける余裕もないようだった。
全方向にかなり広い客席を通り抜け、俺たちがレストラン車へ入った時だった。
「アルスくん!!」
変身して髪と瞳を淡い紫色に変えたアリサが、上を指さした。
「あれは、飛行艇か……!」
ガラス張りになった天井の向こう、機関車が吐く煙の奥で飛行艇が浮かんでいた。
列車の機関砲では、仰角が足りずに対応ができないようだ。
「ッ! 避けろっ!!」
飛行艇の下部から、連装魔導砲が撃ち下ろされる。
俺はミライを庇い、ユリアがアリサを押し倒す。
「うっひゃああぁぁあっ!!? 怖い怖い怖いッ!!」
飛び荒ぶ破片、テーブルを盾代わりに彼女を守っていると、むき出しになった天井から人間が何人も降ってきた。
訂正……“人間のような何か”だ。
「殴り込み成功。これよりアルナクリスタルを奪取します」
なんと、敵は全員が同じ顔の少女だった。身長や体格まで完全に同じ。
生えそろった猫耳と尻尾は、猫獣人特有のものだ。
「今の掃射でやれたかクリアリングする、02はカバーを」
「了解01、カバーします。敵機関砲は弾切れを起こした模様」
姉妹……とかいうレベルじゃないよなぁ。
だがまぁ––––
「おいお前ら、随分派手な乗車じゃないか……。チケットくらいちゃんと買ったらどうだ?」
俺はテーブルを飛び越えた。
いずれにせよ絶対に生きては帰さん、人の旅行の出鼻をくじいた罪は大きいぞ。
「敵健在ッ!! 殺せッ!!」
亜人モドキ共は、一斉に俺目掛けてボウガン型魔法杖を向けた。
鍛え抜いた動体視力と反射神経で弾幕をかいくぐり、隊長格を思い切り蹴り飛ばす。
「ガッハ!?」
吹っ飛んだ敵が扉にぶつかって倒れた瞬間ミライ、アリサ、ユリアも飛び出した。
「やるぅアルス、わたしも続くよ!」
「全員強制降車させてやるっ!!」
「会長に武器を向けたこと––––後悔させてやります」
王立魔法学園生徒会は、不届きな乗客に降りてもらうよう行動を開始した。
「魔力ライブラリ照合……、魔人級が1人にエルフ王級2––––バカな! 反応極大……これは、“竜王級”ッ!?」
「ご名答、そしてさようなら」
激しく機動しながら、俺は亜人モドキの頭へ弾丸をぶち込んだ。
余計な被害を避けるべく設計された非貫通弾は、やはり室内戦闘にうってつけだった。
「会長、敵は全員が【ホムンクルス】だと思われます。実在していたなんて驚きですが……!」
拾ったナイフを武器に戦いながら、そう叫ぶユリア。
やっぱり……どうりで人間っぽくないわけだ
ホムンクルスとは、いわゆる人造人間の類い。
変な儀式の生贄に使うとは聞くものの、こうして戦うのは初めてだ。
「こいつら……ッ、まぁまぁ強いよ!」
「うん、気をつけてアリサちゃん、気を抜いたらやられるかも……っ!」
アリサとミライが2体ずつ相手にして攻めあぐねるも、ユリアが単独で4人を捌いているので大丈夫だろう。
「さってと……」
ホムンクルスを7体撃ち倒し、マガジン交換。
敵はここだけじゃない、全員で釘付けになるのは良くないな。
「悪い、ここはみんなに頼むぞ! ちょっと上へ挨拶に行こうと思う」
戦闘中の3人からそれぞれ返事を貰うと、俺は砕けた天井から外に踊り出た。
空中で連続射撃しながら車上へ着地、落下するホムンクルスたちを尻目に、俺は銃を“そいつ“に向ける。
「ラントのヤツが爆死して、ずいぶんご乱心みたいだな––––“剣聖グリード”」
照準器の向こう、やつれた顔に怒りを乗せた元冒険者ギルド『神の矛』リーダー。
剣聖グリード・ランチェスターは、憎悪と嫌悪に満ちた目を俺へ向けた。
「あぁ……っ、全部お前のせいだからな」




