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第84話・もう一つのユリアの顔

 

 ––––王立魔法学園 女子学生寮。


 自室に戻ってきたユリアは、カバンを置くと制服のままベッドへ身を投げた。

 ボフッと音を立て、布団を抱きしめながらニマニマと笑う。


「宝具が直せる……、その上みんなと旅行なんて。こんな生活予想もしてなかったなぁ〜」


 入学時は強さしか興味のなかった自分が、今こんなにも周囲の暖かさで満ちている。

 アルスと戦ってから、物事が凄い勢いで変わっていき、毎日が充実していた。


 人間、良いことが重なると1人で色々浸るもの。

 普段は冷静沈着なユリアも、例外ではなかった。


「ムフフ〜っ」


 宝具が壊れた日は食事もできず、泣きながら寝入ったが今日の気分は正反対。

 シャワーと食事をサッと済まし、タブレットでユグドラシル・インターネットへログインした。


「着替えってどんなのが良いかな……、最低2泊はするから荷物は多めかも。うーん……ッ」


 迷った末に、彼女はユグドラシルの配信サービスへアクセスした。


「ちょうど昨日できてなかったし、雑談配信でリスナーさんに聞いてみよ」


 王立魔法学園の厳正な副会長たるユリア、彼女の趣味はイラストを動かすタイプの雑談配信だった。


「マイクテスト、マイクテスト……通信魔法良好、みんなおひさ〜」


 とても気だるそうな声で挨拶。

 だがこれを求めるリスナーは非常に多く、突発的な配信にも関わらず同接数はあっという間に800を超えた。


『ミニミさんこんばんはーッ!!!』

『癒し降臨ッ!! 心配しましたよ!!』

『昨日何かあったんですか!?』


 凄まじい速度でチャット欄が埋まっていく。


 ちなみに“ミニミ“とは、彼女のハンドルネーム。

 昨日はショックで配信日をドタキャンしてしまったせいか、安否を気遣うコメントが多い。


「大丈夫だよ〜、ちょっと用事ができて配信やり損ねただけ。今日はみんなに聞きたいことがあるんだー」


 ユリアはマイクを少し近づけた。


「旅行に行く時ってさぁ、荷物はどんなバッグに入れて出掛ける? あんまり多いとドン引きとかってされないのかな?」


 ユリアことミニミの問いに、レスポンスは瞬時かつ大量にきた。


『都市部ならリュックでオーケー! 必要な生活用品や服は現地調達すると荷物減りますよ』


『キャリーケースが安定かと、必要ならトートバッグを合わせて持っていけば、街でお土産買うとき余裕が生まれますね』


『大きめのバッグ1つあれば十分ですッッ!!』


 フムフムと、ユリアは首を縦に振る。

 ここまで三者三様だとは思ってなかったので、ちょっと思考が纏まらない。


 気力のない声で悩んでいると、1つのコメントが視界に入る。


『自分もキャリーケース等で良いと思います、初めての泊まりなら一番無難ですので」


 何気ない言葉なのだが、実用主義っぽいところがなんか会長に似てる。

 そんなコメント主の名前に、ユリアは見覚えがあった。


「ん、あれぇ……? あなたは随分前に読み上げた人だね。たしか––––“大事な友達のため学校最強の人に挑んだ”っていう……」


 あの日はたしか、自分と会長が生徒会選挙で互いに宣戦布告した日なので、よく覚えている。

 ずいぶん奇遇な話だ。


「殺すくらいの気持ちで挑めって言った気がする、勝負には勝てたの〜?」


『はい、おかげさまで勝てました』


「良いなぁ〜、わたしはわたしで色々負けちゃったんだよねぇ。勝利の女神はそっちに行ったかぁ〜」


 少しだけ俯いた彼女は、明るく前を向いた。

 画面のイラストも連動して微笑む。


「けどそのおかげで色々気づけたし、色んな繋がりができた。その相手は今すっごく尊敬してるんだ〜」


『それは良かったです、人との繋がりは人間社会における最強の財産。ミニミさんならきっと使いこなせます」


 不思議だ、顔も見えないのになんだか会長と話してるみたい。雰囲気?

 けどあんまり1人を相手していると、他のリスナーに悪い。


「みんな今日はありがと〜、おかげで旅行の参考になったよ。もうすぐ夏休み––––張り切って行こう。あ……社会人の皆さんはお仕事ファイトっ」


 ソッとマイクを切る。

 会長は……きっとこういう配信とか見ないんだろうな、まぁ知られたらキャラ崩壊待ったなしか。


 部屋を出る。

 1分後に切るよう設定された配信……視聴者が次々出ていく中、チャット欄に1つのコメントが流れた。


 ––––『貴女は死ぬけどね』––––


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― 新着の感想 ―
[良い点] ギャー!!!最後の一言がッ!!! [一言] アルス、配信ちゃんと見てるんだwww
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