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第83話・生徒会温泉旅行

 

 生徒会の自席に座り、俺はいつも通り放課後の仕事をこなす。

 今週の公式戦ランキング変動一覧、来月の寄付金運用、その他学期末の諸々。


「アリサっち、予算案のコンマ表記がズレてますよ」


「あっ、ごめんごめんユリ! すぐ直すよ〜」


「気をつけてくださいね、我々が扱う金額は子供の小遣いと違うんですから」


 他のみんなもちゃんと仕事をしている。

 昨日ミライがケアしてくれたので、ユリアに特別異常は感じられない。


「ほいアルス、息抜きに紅茶飲む?」


「……あぁ、サンキューなミライ」


 彼女から受け取ったカップを取りながら、思考を纏める。

 さーて……どう切り出したもんかなぁ。


 さっきから俺の頭は書類どころではない、如何に、どうやって気持ち悪くない話の切り出し方をするか……それだけがひたすら渦巻く。


 いやだって、温泉だぞ……? この生徒会にいる連中は全員が顔もスタイルも性格も超高校級ときている。

 普段の制服姿もいいが、温泉旅行でしか見れない希少な姿だってあるだろう……それはものすごく見たい。


 だがいくら宝具修理の目処があるからって、奥手な俺じゃなかなか言い出せないのが実情だ。


「どうしたのアルス? なんかランキングで天敵になりそうな生徒でもいた?」


「いや……、大丈夫」


 特にこいつ、ミライの風呂上がり姿とか……超見たい。


 まぁどっちみち言わないわけにもいくまい、あくまで自然に持っていこう。

 温泉を強調しなければ良い話だ、先日アリサがやった下着発言と比べれば可愛いもんだ。


「あっ、そうだ聞いてよみんなッ! わたし今日廊下でナンパされたんだよ!?」


 ワンテンポ早く、アリサの元気な声が重なった。


「ナンパ!? どんな感じか教えてアリサちゃん!」


 マンガのネタに使うつもりなのか、ノートを取るミライ。


「ほら、もうすぐ夏休みじゃん。隣のクラスのスポーツ部が『俺たちと一緒に温泉旅行なんてどぉ〜?』とか、笑顔で言ってきたんだよ」


 ユリアが微笑む。


「身の程知らずの下郎共ですね、よっぽど部の予算が有り余ってるのでしょう……来月は異世界研究部と同じ額にしておきましょうか。ナンパ税です」


 重課税……!!

 冗談なんだろうけど彼女が笑顔で言うとマジ怖い。


「しっかし温泉ね〜、わたしは好きだけどなぁー」


 おっ、いいぞミライ! その調子で持ってけ。


「ブラッドフォード書記は、ナンパされたらホイホイ男に付いて行くんですか?」


「あっはっはっは! ないないあるわけ無いじゃんww。そんな軽いノリで誘われても行かないって、わたしも人くらい選ぶわよ」


 俺の勇気が2段階下がった。


「まぁ気持ちはわかりますがね……、せっかくの夏休みを惰性で過ごすのはちょっともったいないです。それに暇だと嫌なことばかり考えちゃいますし」


「ユリ! 辛いことあったらわたしに当たって良いからねっ」


 なんでお前はそうDV耐性見せつけようとするの……?

 いやもう雰囲気とかがダメだ、このままじゃ本当に終業式が来て……。


「ッ……」


 いや、これも逃げなのかもな……。

 さっきから言わない理由探しばかりして、情けねえ。

 やめだやめ、ダメだったらそん時、この世は動いてナンボだ。


 俺が席を立ったその時だった。

 ミライが呟く。


「……でもさ、一緒に行くのが生徒会のメンバーだったら––––わたしは全然アリかも」


「「っ」」


 場の空気がほんの一瞬だけ弛緩した、今ッ、言うならここしかない!

 今学期分の勇気を全部振り絞れッ。


「ユリア! ……実はお前の壊れてしまった宝具を、直せるかもしれない」


「ッ!? ホントですか?」


「あぁ、【温泉大都市ファンタジア】。そこにルナ・フォルティシアという賢者がいる、専門家の彼女ならなんとかなるかもしれん」


「フォルティシア……、その名前に間違いはないんですか!?」


 目をしばたたいた彼女は、俺の前にやって来る。


「その人は……わたしに魔法の全てを教えてくれた、人生の恩師にして––––唯一の師匠なんです」


「マジか、なんつー偶然……。まぁそういうわけで」


 俺はカバンに入っていた旅行チケット、昨夜マスターから貰った4枚中3枚を机に置いた。

 目的の人間が身内だったのなら、部外者は少ない方が良いだろう。


「やっぱ男と温泉とか嫌だろ……? チケットだけ渡すから女性陣だけで楽しんでこい。俺は夏休みもここで仕事してるから––––」


 言い終わるのを待たず、ミライが腕をガッシリ掴んできた。


「……やだっ、アルスも来て」


「やだってお前、さっき男と温泉には行かないって––––」


「言ったでしょ……”人は選ぶ“って、アンタなら良いって言ってんのよ」


 そんな彼女の横に、ユリアとアリサが並んだ。


「わたしも……会長となら行きたいです、話を持ってきてもらったのに、こっちだけ楽しむなんてあまりに酷じゃないですか」


「はいはーい! わたしも賛成〜っ、温泉とか一度みんなで行きたかったんだー」


 あぁ……なんだ、何を悩んでたんだ俺。

 まどろっこしく考える必要なんて無かったな。


「……よしっ、じゃあ行くか! ユリアの宝具修理と、日々の疲れを癒す温泉旅行へ!」


 生徒会温泉旅行––––決定ッ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] おー、師匠つながりとは [一言] ちゃんと好感度を上げておくと攻略がスムーズということですねわかります( ー`дー´)キリッ
[良い点] こういう日常の一幕みたいなのがあると良いですね。個人的にそう思ってるだけですが。 どう切り出すかで迷ってるアルス。自分でハードルを上げてただけのような…… [一言] 色んな意味で羨まし過…
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