第80話・インフィニティー・オーダー、喪失
校内はかなりの騒ぎに陥っていた。
廊下からは喧騒が響いてくる、テロか? どっちにしろ考えている暇はない。
「やれやれ……、まさか届いた初日で使うことになるとは」
ライフルをスリングで背負い、金属のコッキングレバーを引く。
1発ずつ銃へ込めたのは、先程話題にしていたホローポイント弾。
「ほれアリサ起きろ、仕事だ」
「ん〜……、あと20分」
「いつまで寝てる気だよ、もう怒ってないから行くぞ」
2人を連れて廊下に出る。
火災報知魔法は作動していない、火の手がないならまずは大丈夫だ。
「せ、生徒会の皆さん!? イージスフォード会長までっ」
慌てた様子で通りかかったのは、メディア部部長の女子生徒(先輩)だった。
『インフィニティー・オーダー』を持ったユリアが、窓ガラスから遠ざかるように促し尋ねる。
「落ち着いて、騒ぎの詳細を知っていたら教えてください」
「副会長……! ええっとね、結論から申し上げちゃうとテロじゃないの……! 校内の事件!」
「魔法勝負でもやってたとか? それとも喧嘩が発展して?」
「いえ、でも校庭を見てもらったら一発でわかるわ!」
言われた通り校庭を見下ろす。
見慣れた土のグラウンド上、蜘蛛の子を散らしたように逃げる生徒の中心––––
「は?」
「なーにあれ、変なの」
俺とアリサは思ったことを口に出す。
校庭にいたのは、グチャグチャに歪んだ粘土人形のような不気味さを持ったモンスター。
そいつが生徒たちを蹴散らし、大暴れしている。
「えーっと、一発でわからないんだけど……?」
「自分も詳しくは存じないのですが……、どうも“異世界研究部”の方々が召喚魔法の実験をしていたようなのです」
「なにその部! じゃあなんだ、アレはその奇妙な部の珍妙な実験の産物ってこと? どんな化け物呼んでんだよその部はっ!」
瓦礫が飛んでくる。
間一髪避けるも、レンガ造りの壁が衝撃で崩れ落ちた。
「一応止めたのよっ、でも彼ら的に、校則で異世界の魔物を呼んじゃいけないルールはないと……ひゃっ!?」
先輩がしゃべっている最中だが、モンスター目掛けて発砲。
轟音が響き、弾丸が敵へ突っ込んだ。
「モラル的に当たり前すぎて、明文化してないだけなんだがな……」
ボルトを後退させて排莢、次弾装填。
「どうです会長?」
「うーん……」
手応えがない。
多分これアレだ、弱点をピンポイントで撃たないと殺せないダルいタイプ。
「しゃーない、行くぞ2人共っ。生徒たちが部活でやらかしたのを処理するのも生徒会の仕事だ!」
「「了解っ!」」
3階から飛び降りた俺たちは、例のモンスター(以下ドロドロと呼称)へ一気に肉薄する。
「前衛はまっかせてー!! 久しぶりに本気出しちゃうよッ! 覚悟しろドロドロ!!」
先頭を走っていたアリサの銀髪が、瞬時に淡い紫へと変わる。
どんな攻撃魔法も効かない形態、『マジックブレイカー』を発動したようだ。
「これがわたしの本気っだあぁァッッ!!!」
アリサ渾身のパンチが決まる。
さすが武器や攻撃魔法すらも使わない武闘派JK、普通に威力が凄まじい。
反撃とおぼしき土属性魔法も、案の定彼女に近づいた瞬間無効化されている。
「ユリア、パス!」
入れ替わるようにして、副会長のユリアが前線へ出た。
肩まで伸びた金髪をなびかせ、その場で踊るように攻撃する。
「思ったより弱い、会長のお手を煩わせずに済みそうね」
決して遅くない攻撃をアッサリ捌き、コアではない部分を次々吹き飛ばしていく。
宝具『インフィニティー・オーダー』を持ったユリアは、とてつもなく強い。
彼女を力で止められるのは、ここだと現状俺しかいない。
王立魔法学園の副会長にして、学内ランキング総合2位の実力は伊達じゃないことを改めて思い知る。
「次の一撃で決めます!」
ドロドロの剛腕から繰り出される攻撃を、ユリアは宝具で防御しようとした。
異形は異形だが、ただデカいだけのモンスターに過ぎない。
特に問題などないはずだった。
攻撃が杖に当たる––––––
「えっ?」
「なっ!?」
眼前の光景が信じられず、思わず二度見した。
彼女の相棒と言ってもいい武器、代々伝わるという最強の宝具……『インフィニティー・オーダー』が真っ二つに砕け散ったのだ。
「えっ……? あれ? えっ……!!?」
戸惑い、呆然と立ち尽くすユリア。
絶対に壊れるはずのない攻撃で、絶対に砕けない宝具が折れた……。
一体なぜ––––
「しまッ、がはっ!?」
ショックで隙だらけになった彼女を、敵は待つことなく巨大な腕で殴り飛ばした。
「ユリっ!!!」
後頭部から地面に叩きつけられたユリアは、脳震盪を起こしたのか全く立ち上がれない。
ドロドロが拳を振り上げた。
「いっつ……ッ! なん、で……!」
彼女が殺される。
そう結論を出した俺は、使う予定のなかったエンチャントを躊躇なく発動した。
「アリサッ!!! どけェッ!!!!」
射線上の彼女へ全力で警告しながら、俺は銃口を向ける。
「『魔法能力強化』!!」
俺の全身をとてつもなく莫大で紅い魔力が覆った。
変身時の衝撃波で、校舎や周辺民家の窓ガラスが全て割れる。
「ちょ! アルスくんッ!! 手加減ッ––––」
アリサの声は、撃ち放った超高出力雷魔法の爆音で掻き消えた。
完全なオーバーキルによって、ドロドロは1ミクロンも残さず跡形もなく消滅する。
上に向かい仰角を取ったので、ユリアと街はギリギリ無事で済んだ。




