第70話・努力嫌いだから、ズルで楽して「俺強い」がしたかっただけだろ
ミライたちが消えた、姿形は跡形もない……。
残されたのは俺と、さっきから相手している4体の魔導機兵たちだけだ。
その敵も、状況の変化を見るや後退––––姿を眩ませてしまう。
静寂が降る中、俺は1つの結論を口に出した。
「転移魔法か……」
あれが自爆なら、もっと派手に吹っ飛んでいてもおかしくない。
近くにいた俺もさすがに火傷くらいは負っただろう、しかしこの通り無傷だった。
いや、考えてみればなにも不自然な点はない。
あの魔導機兵たちは、きっとこの街をゲリラ的に現れた敵から守るための存在なのだ。
古代––––天使とやらが市街地で暴れることを防ぐため、敵ごとテレポートで人口密集地から遠ざける。
アレは戦闘用というより、自衛用 自立兵器とでも言うべき物だ。
軍事的な側面から見れば、ある意味当然の戦略……。
「分断し、各個撃破……元よりそれが本命。そうだろ? ラント」
俺は遺跡の影––––そこに隠れていた男へ、声を掛ける。
「……本当なら、お前をキルゾーンへ転移させる予定だったのだがな」
すぐさま右手で。M1911の銃口を向ける。
視線の先で姿を現したのは、俺のよく知る、そして俺をよく知る元パーティーメンバー。
『神の矛』ウォーリアー職 ラント・ガスドックだった。
俺のエンチャントで、大陸トップのタンク職––––だと思い込んでいた男。
だが重厚な筋肉は、不自然なまでに肥大化している。
ヤツがなんらかのズルを行ったのは見え見えだ、じゃなきゃこんなイキッた様子で姿を現すわけない。
「こんな所まで追放した魔導士をストーカーとは、元ランキング5位もずいぶん暇になったんだな。グリードの差し金か?」
「口に気をつけるのだなアルス、今の俺は“祝福”によって全盛期を超えた状態にある。それにグリードの出る幕はない……なぜなら––––」
言い終わる前に、俺は引き金をひいた。
弾倉に詰まっていた7発全てを撃ち切ると、スライドがホールドオープンする。
アイアンサイトの奥で、ジュクジュクと傷を修復していくラント。
こいつは本体じゃない……、姿だけの土人形。今は撃つだけ無駄かもな。
「言っただろう、祝福を受けたと」
余裕だぜと言わんばかりの顔へ、俺はマガジンを交換しながら笑ってやる。
「祝福……? 不正の間違いだろ。お前は強くなるために必要な努力全てを嫌がり、違法魔導具を買って楽に、簡単に「俺強い」がしたかっただけだ」
銃撃でも不動だった眉が、敏感に動く。
「お前には……、お前にはわからんだろうなアルス!! 俺たちは貴様のせいで桁外れの屈辱を受けたっ! これくらい手を染めてなにが悪いッ!!」
「手を染めたとか言ってる時点で認めてんじゃん、お前の自分勝手な気持ちなんてわからないし、わかりたくもない。正直逆恨みもいいところで大迷惑ってのが本心だよ」
俺は銃をホルスターに戻し、目線をラントの首元へ向けた。
紐でぶら下がった人工宝具が、怪しく輝いている。
「『フェイカー』だっけ? 結局他人の能力じゃん、俺のエンチャントの次は、死んだ誰かの魔法……マジでいい歳なんだから倫理観くらい持てよ」
「黙れェッ!! 俺は選ばれた! 選ばれて祝福を手に入れた! 生徒会長? 竜王級? 自分勝手に道を進んだのは貴様だッ!!!」
話にならない、押し問答もいいところだ。
まぁ元より会話する気もないが、『広域探知』である程度ミライたちの転移先は掴めた。
「2人を返せ、どうやってこの遺跡のシステムを把握したかは知らないけど、今ならまだ……見逃す余地がギリギリある」
「立場をわきまえるのはお前だっ、俺たちは引けん……絶対に引けんのだ。お前に復讐し、竜王級たるその能力を奪うまではなッ!」
俺の力を『フェイカー』で奪い、闇市場に流すつもりってことか……。
人工宝具の供給元が、それと引き換えにラントたち『神の矛』へ商品を提供したと見るべきだろう。
全く、まったくもって腹立たしい限りだ。
「我々『神の矛』は、アルス・イージスフォード––––貴様からその全てを奪う。友も能力も、命もだッ!!!」
宣戦布告。
放たれたその言葉は、俺のホワイトライフに対する挑戦だった。
人形が崩れ去る直前……最後に1つ捨て台詞が吐かれる。
「予定は狂ったが致し方ない、アルス……お前はここで倒れるのだ。いくら竜王級といえど、この”大軍“はどうしようもあるまい?」
土へ還ったラントのデコイ。
その後方––––遥か遠方まで続く古城跡、それすら埋め尽くすほどの“重武装魔導騎兵”が俺1人へ目掛け進軍していた。
剣代わりのスコップを担ぎ、スゥッと息を吸う。
「わかったよラント、ミリア……グリード。お前らがその気なら、俺はおれのホワイトライフ、やっと出会えた俺を想ってくれる大事な人を守るだけ」
全身の魔力を、覚悟と怒りに乗せて放出した。
遺跡全体が持ち上がったように揺れる。
「今この瞬間から––––お前らが泣き叫ぼうと決して容赦しない」