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【追放者サイド】第6話・ぬるま湯生活に終止符を

 

「無能がいなくなるだけで、こんなにスッキリするもんなんだな」


 ギルド・ランキング第5位『神の矛』のリーダーを務める剣聖グリードは、奥深い森の奥でつぶやいていた。


「到着前に余計なモンスターと出会わなかったのも、きっとアルスなんていう疫病神が消えたからかしらね」


 森林迷宮ダンジョンの奥地で、大魔導士のミリアがグリードにタブレットを渡しながら言う。

「違いねえな」と、グリードはイケメンな顔の頬を吊り上げながら受け取った。


「3分後にライブ配信開始だ、既に待機してるリスナーはもう80万人を超えてる。登録者もガンガン増えて、120万人だ。カッコいいとこ見せようぜ」


 見渡すと、剣聖グリード、大魔導士ミリア、ウォーリアータンクのラントのほかに、大弓を持った男がいた。


「みんな、こいつが新加入したアーチャー職のペインだ。今日から後方支援はこいつがしてくれる! 無様に逃げたエンチャンターの代わりにな!」


 周りがクスクスと笑う。


「あれ、前の人って逃げちゃったんですか?」


 短髪のペインが、武器の準備をしながらグリードに近づく。

 彼はアルスに代わり新加入した、王国でも有名な冒険者である。


「あぁ、無能な上に敵前逃亡常習犯! 昔ならともかくトップランカーへ成り上がった俺たちにはお荷物同然だったよ」


 グリードはかなり脚色していた。

 自分たちで一方的に切り捨てておきながら、都合のいいように捏造しまくっているのだ。


「だから頼りにしてるぜ、ペイン」


「任せてください、これでもランキング7位のパーティーにいたんです。意地を見せますよ」


「あー7位ね、ぶっちゃけ7位と5位じゃ全然レベル違うよ、うっかり死ぬなんてことやめてくれよ〜? 俺たちはさらに高みへ行けるから、古巣の常識なんてのは捨てておけ」


 あからさまな物言いに、ペインは少し不快感を覚える。

 彼にとって古巣は愛着ある思い出だからだ。


「よし、じゃあ時間だ。ライブを始めよう!」


 非戦闘員のカメラ担当が、高品質の魔導カメラを回した。


「ついたかな? みなさんこんにちは!『神の矛』チャンネルへようこそ! 今日は予告していたとおり高レベルダンジョンの攻略に挑もうと思う」


 意気揚々と語るグリードは、まさしく人気配信者の姿だった。


『グリード様マジ可愛い!! 今日もイケメンです!』

『期待の超新星ギルドのチャンネルはここですか?』

『ワンチャン制圧しちゃうんじゃね? 剣聖グリードなら余裕だろ』

『あれ? いつもいるエンチャントの子いない』


 ミリアが向けているタブレットでは、物凄いスピードでチャットが流れている。

 もちろん、グリードは有象無象にすぎない人間のコメントなど見ない。


 世界最強候補の自分以外に興味などないからだ。


「それじゃあ頼れる仲間たちとダンジョンへ潜ろうと思う、チャンネル登録もよろしくな!」


 タンクのラントを前衛に、パーティーは前進した。

 薄暗い森林迷宮を、『神の矛』はガンガン進む。


「いいんですかグリードさん、索敵魔法や痕跡を分析して、ゆっくり進むのが定石だと思いますが……」


「古巣だったらそういう臆病な戦術もありだろうな、だが俺たちは絶好調の超新星ギルドだ。小細工なんて必要ない」


 ガンガン音を鳴らしながら、パーティーはペインの忠告を無視し続けた。

 実況の音を鳴らし続けたせいだろう、……太い木々の後ろから1体のオーガ・ロードが現れた。


「わざわざ殺されに来たか」


「ウォーミングアップにはちょうどいいぜ」


 ラントがドシドシと前へ出た。

 筋肉を震えさせ、パワーを集中させている。


「カメラ! ラントの勇姿を映してやれ」


 グリードの指示で、カメラがラントとオーガへ向けられる。

 勇ましい映像に、90万人いる視聴者のボルテージは一気に上がった。


「行くぜぇッ!!!」


 勢いよく駆け出したラントが、オーガ・ロードと取っ組み合いを開始して––––


「えっ……!?」


 パーティーとリスナー、全員が目を疑った。

 カメラと視界に、ぶっ飛ばされて戻ってくるラントが映ったからだ。


「ぐおあっ!?」


「どうしたラント! あんなのお前の敵じゃないだろっ!」


「わかんねぇ……! どういうわけかパワーが……半分も出ないんだ」


「なんだとっ!?」


 動揺するグリードの横で、魔法陣が広がった。


「情けないわね、1つ貸しよラント!」


 魔人級 魔導士のミリアが、炸裂魔法を詠唱したのだ。

 しかし……。


『ミリアさんの詠唱長くね?』

『サッサと撃てよ』


 リスナーたちは、ミリアの魔法発動がやけに遅いことに気づく。

 それでもようやく、詠唱は完了した。


「『グランド・ブラスト』!!」


 放たれた魔法は一直線にオーガ・ロードへ向かう。

 直撃したそれは––––


「なっ!?」


 映画の演出にも使えない、非常にしょぼい爆発だった。

 当然ながらモンスターは無傷である。


「魔人級であるわたしの魔法が……、全力で放ったのに!」


「クソッタレが! 俺に尻拭わせんじゃねえよ!!」


 剣聖グリードが、愛剣を勢いよく振るった。

 否……振るったなどというものではない、グリードが剣の重さに負けてズッコケたのだ。


「うっ、嘘だろ……。やめろ! 今のは事故だ! 映すんじゃねえ!!」


「そんなこと言ってる場合じゃないですよ!! はっ、早く逃げないと!!」


 これまでの力は、全てアルスのエンチャントありきで成り立っていた。

 ぬるま湯に浸かっていた彼ら『神の矛』は、“本来”の力に戻っただけなのだ。


「うっ、うわああぁぁッ!!?」


 100万人の視聴者の前で、グリード達はカメラを放って逃げ出した。

 一目散に、一直線に、ただ「ありえない」と叫びながら。


 この配信を見ていたユグドラシル運営 冒険者管理部は、彼らにダンジョン攻略の失敗、そして【全滅判定】を容赦なく下した。


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