第51話・反抗期の妹様は口を開けばウザいか死ねしか言わない
「ふあぁ、もう朝か……低血圧に日差しはキツい……」
陽光差し込むカーテンを開けると、青空が窓から伺えた。
軽く伸びてからベッドを降り、寝起きの思考を整理する。
「いや〜、アリサって怒らせるとあんな怖い子だったんだな……」
昨日はたしか放課後……、俺のところへ元パーティーリーダーのグリードが来た。
……来たのだが、相変わらずのクズっぷりを見た生徒会会計のアリサがブチギレてしまった。
思い返せばそれはもう凄まじいもので、こちらへ襲ってきたグリードは返り討ちに遭い、両腕を脱臼&骨折させられている。
マジこえぇ。
「ウチの生徒会、か弱いと言えるヤツなんて全然いないよな。ユリアやミライも戦闘力高いし」
だがあのグリードのこと、そうそうおとなしく引き下がるだろうか……。
洗顔と歯磨きを終えたところで、後ろから声が掛けられる。
「おはようアルス兄、やっと起きたの?」
振り返ると、フローリングの床の上で少女がこちらを見ていた。
腰まで伸びた亜麻色の髪を揺らし、凛々しいながらも14歳らしく幼さの残る顔が、俺をジトーっと見つめる。
「ん? ”カレン“……おはよう、珍しいな––––家にいるなんて」
「様子見で戻っただけよ、別にいいでしょ。それより––––」
エプロン姿のカレンは、手に持ったおたまを俺へ勢いよく向けた。
「だ ら し な い! もう9時だよ、生徒会長になったくせしてこんな時間に起床とか……民主主義の敗北だわ」
「敗北て……、仕方ないだろ。ミライの冬コミ本を夜明けまで手伝ってたんだから。それにきょう休日だぞ」
彼女の名は“カレン・ポーツマス”。
苗字でわかる通り、マスターの身内––––正確には妹だ。
普段は冒険者業をやっており、たまに帰ってきたときだけ店の手伝いをしたりしている。
「ウザい触るな口開くな、こんなんが竜王級とかマジ無理なんだけど。サッサと朝飯食べてくんない?」
「りょーかい」
いや理不尽か……っ。
まぁあえて言うなら––––カレンは絶賛反抗期。
俺やマスターには必要連絡以外、基本的にウザいか死ねしか言ってくれないのである。
1年前まで凄く大人しい子だったと言うが、とても信じられない。
とりあえず朝から喧嘩なんてしたくないし、これ以上は反論しないでおく。
「おはようアルスくん、君にしちゃ早い起床じゃないか」
キッチンと併設したリビングへ行くと、マスターが俺を見て挨拶。
こっちは相変わらずのほほんとした空気だ。
「おはようございますマスター、なんかここに住んでると風邪引きそうですよね」
「ん、体調不良かい? 肺炎になったらマズイ……無理しちゃダメだよ」
「いやすみません、大丈夫です。単純にご兄妹で温度差が凄まじいなと思っただけです」
「温度差? あぁ……」
言葉のニュアンスを理解したらしいマスターが、苦笑いを浮かべた。
「こっちもさっき寝起きでキツイのを叩き込まれたよ、10代女子の刺々しい言葉はくるものがある」
着席し、パンを噛みながら全力で頷く。
「僕もヤンチャな時期があってね、そのときカレンには苦労や我慢をいっぱいさせちゃったから……多分反動だと思うんだy––––ブフォ!?」
紅茶を飲もうとしたマスターの椅子が、おもっくそ蹴られる。
いつのまにか背後に立っていたカレンが、冷ややかに見下ろした。
「昔話する暇あるならサッサと食ってくんないグランお兄ちゃん、こっちは洗い物済ましたいんですけど」
「いや、まだ着席して3分だよカレン……? 紅茶だって熱いし」
「じゃあサッサと飲んで、ゴタゴタ言うならわたしがカップごと燃やすっ」
握った拳から青い焔がバーナーのように噴き出す。
詳しくは聞いてないが、相当強い冒険者をやっているらしい。
1回闘り合ってみたいもんだ。
「ところで、今日は店開けるんですか?」
「いや、今日は夕方以外開けないよ。ラインメタル大佐と会う約束があるからね」
「了解です、じゃあ暇だな……」
バイトもなし。
かと言って特にやることも––––いや。
「そういえばカレンさ、お前ってどこのギルドに所属してるの?」
「え? アルス兄には言ってなかったっけ」
「聞いてない、っつーか教えてくれないだろお前」
「どこでもよくない? アルス兄もう冒険者辞めたんでしょ?」
まぁそうだが、やはり気になるものは気になる。
俺はこいつがどんなギルドで冒険者しているのか、全然知らないのだ。
過干渉かもしれないけど、苦い経験のある俺からすればブラックギルドに入っていないかすっごく気がかりなのである。
「ッ……、わかったわよ。連れてけばいいんでしょ?」
「サンキュー」
「フンッ……」
読んでくれている皆さんの声を聞くのも作者として執筆する楽しみでして、一言「ここ好き」くらいの感想を頂けるとめっちゃモチベーション上がったりしますので是非。