第49話・忘れかけていた、眼前の剣聖は正真正銘のゴミクズだと……
「剣聖……グリード!」
思わず口に出した俺の声には、驚きと少しの落胆が混じっていただろう。
あの日、俺はギルドから無能と蔑まれて追放された。
『俺たちもうトップランカーだから』。
そう自信満々に言っていたのも束の間、予想どおり『神の矛』は度重なるパーティー全滅でランキングを転落した。
「やっと見つけたぜ……、探させやがって」
ヤツはゆっくりと歩み寄ってきた。
見れば、いつもピカピカだった防具はあちこちが汚れているばかりか破損している。
きっと新調すらままならないのだろう。
イケメンともてはやされていた顔には、疲労感が漂いより老けて見えた。
「会長、この方はお知り合いですか?」
疑問符を浮かべたユリアが俺の横へ立つ。
「会長? お前……ここの生徒会長になってたのかよ」
「まぁな、お前にギルドを追い出されてから色々あったんだよ。それより、無能と蔑んで解雇した俺に––––いまさら何の用だ?」
答えのわかりきった質問を投げかける。
もしかしたら、グリードに微かな何かを期待しているからこそ出た言葉かもしれない。
だが、目の前の剣聖は汗を伝らせながら喚いた。
「なんの用もクソもねえよ、お前が出て行ってからなにもかも滅茶苦茶だ! ランキングは圏外! ユグドラシルの登録者は今や1000人に満たない!! 全部、全部お前のせいだッ!!」
完全に予想通りの答えに、俺の失望は加速した。
あぁそうだ……、こいつに少しでも期待したのが間違いだったのだ。
こいつは––––
「だから……! 俺自らが挽回のチャンスをくれてやりに来たんだ! 戻ってこいアルス! 無能なお前にもう一度俺たちへ尽くす権利をくれてやるっ!」
こいつは––––根っからのゴミクズだ。
唾を吐き散らし、どこまでいっても上から目線で命令してくる正真正銘の恥知らず。
吐き気をもよおす邪悪……。
「おい聞いてんのかっ!!」
苛立ちを隠そうともせず、俺へ掴み掛かろうとしたグリードはしかし––––
「がっ!?」
目前で無理矢理止められた。
宝具『インフィニティー・オーダー』を具現化したユリアが、立ち塞がったのだ。
「尽くさせてやる? 挽回のチャンス……? 己の無力と怠惰から目を逸らしてばかりの戯言は聞いてて不愉快です。会長は王立魔法学園生徒会の現トップ––––あなたのギルドへは戻りません」
冷酷に告げるユリアに続き、ミライが横へ立つ。
「あんたさ、一体何様のつもりでアルスに命令してんのよ。一方的に追い出しといて都合が悪くなったら戻れ……? 剣聖が聞いて呆れるわね」
「ッッ!!」
相当効いたのだろう、数歩退けぞったグリードは顔を真っ赤にしながら剣へ手を掛けた。
呼応してユリアも『インフィニティー・オーダー』を、魔法杖から二刀短剣モードへ変化させる。
俺は前に出ながら口開いた。
「やめとけグリード、今のお前じゃユリアと戦っても勝負にすらならない。それにここは校舎前––––戦闘なんて起きれば騒ぎになる」
「関係ねえよ……、それになんだ? さっきからお前の態度はよぉ。俺の言うことは絶対だっていつも言ってただろうが!!」
「昔はな。今は違う、それに俺は言ったぞ––––頼まれても二度と戻らないって」
「んなもん無効だッ!! 俺が戻れと言ってるんだ、サッサと命令を聞きやがれッ!!」
はてさてどうしたもんか。
俺がグリードの対応に困っていると、それまで黙っていたアリサがヤツの前へ出る。
「そんなに自慢の剣が抜きたいならさ……抜いてよ剣聖さん、わたしが素手で相手してあげるから」
「アリサ……」
彼女の声は、言葉では表現しきれないほどの憤激で満ちていた。
晴天のように快活で真っ直ぐな彼女だからこそ、グリードの腐りきった態度を見てブチギレてしまったのだろう。
普段の明るい印象からは考えられないくらいに声が低い。
「アルスくんは生徒会長になったばかりでしょ? こういう荒事はさ……わたしにやらせて」
アリサは路地裏へ続く道を視線で差した。
「上等だ銀髪クソ女、すぐに後悔させてやるよ……この剣聖グリード様がな!」




