表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

487/497

第487話・ユリアVS天界参謀スティンガー

 

「貴方を倒して、これから湧くであろう傲慢クソ野郎の量産を––––止めさせてもらいます!」


 彼女にしては珍しい、憤った乱暴な口調。


 アルスと初めて出会ったコミフェスから始まり、これまで散々魔導士モドキに好き放題された恨みが、今ここで爆発したのだ。


 床を蹴ったユリアは、宝具をすぐさま2刀短剣モードに移行。

 神速の動きで、まずフェイカーを生み出し続ける異形を斬り伏せようとして––––


「天才か……、なるほど。確かに絶対的な自信があるようで」


「ッ!!」


 繭まであとほんの僅かまで近づいたユリアだが、飛び退くように後方へ下がった。

 勘か、経験、はたまた“恐怖”か……。


 とにかく、彼女は攻撃の中止を即断した。

 そして、その判断は正しかったと繭周辺の床が証明する。


 ––––ドゴォンッ––––!!!


 直前までユリアのいた場所が、爆音と共に大きくへこんだ。

 非常に硬い材質のそれが、粘土のように潰れてしまっている。


 空中を高速で機動したユリアは、スティンガーを見下ろす。


「重力操作……!?」


「良い推察だお嬢ちゃん、まぁ正確には––––指定した位置へ大量の神力粒子を集めて、目に見えない質量鉄球を作ってるだけだがね」


 スティンガーが指を振る。

 音も光も発さない“数十トンの鉄球”が、ユリア目掛けて飛翔した。


「『高速化魔法(ミーティア)』!!」


 壁を蹴ったユリアは、飛翔魔法へさらに上書きして速度を増す。

 精神を研ぎ澄ませた彼女は、目に見えない攻撃を次々に回避。


 流星のごとく尾を引き、身体を捻りながら回避して突っ込む。

 振られた剣先が、スティンガーへ命中したと思った矢先––––


「面白い子だ、本当に神力を探知できるんだね」


 鉄も斬り裂く一撃は、やはり見えない触手に弾かれてしまう。

 一歩下がったユリアは、宝具を構え直した。


「だが、あくまでそれだけだ。竜王級のように攻撃へ転用することはできない、––––それでも天才なのには違いないが」


「お褒めに預かり光栄です、ではこちらも1つ。貴方のそれ、確かに面白い技ですが……ただ面白いだけです」


「ほう?」


「それだけ膨大な神力を使い続けるのは、大天使級でもなければ厳しいはずです。神力を使うには信仰心とやらがいるのでしょう? 所詮貴方は策謀家……小細工でわたしは倒せません」


 行動は言うよりも早かった。

 ユリアは先程の数倍はあろうスピードで接近すると、スティンガーの胸部を剣で突き刺した。


「ぐがっ……!?」


「まぁ、エネルギー切れを待つ必要もありませんね。所詮は大天使アグニの傀儡……こんなものでしょう」


 追撃は続いた。

 胸部をなぞりながら引き裂き、肋骨を勢いのまま粉砕。


 引き抜かれた剣は、防御させる暇もなく鮮やかに右腕を斬り飛ばした。


 2刀短剣という圧倒的な手数をもって、スティンガーの四肢へ壊滅的なダメージを与えていく。

 そこに一切の慈悲は無く、あるのはただ最愛の人を殺されかけたという“憎悪”のみ。


 文字通り、天界人への特攻キラーと化したユリアがそこにいた。


「これで終わりです」


 ボロボロになった天使の首を掴み、無理矢理立たせる。

 宝具を魔法杖へ変更すると、先端を腹部へ押し付けた。


「星凱亜––––『火星獣砲』」


 数日間行われた森林ダンジョンでの修行は、ユリアを根本から強化していた。

 以前よりも遥かにパワーアップした魔法が、極熱のレーザーとしてスティンガーを貫く。


「っ………………」


 右手で掴んだボロ雑巾に、ユリアは冷酷な笑みを浮かべた。


「わたしの会長に手を出して、無事に生きれるわけが無いじゃないですか。本当に天使というのは愚か極まりますね。ウジ虫のように地面へ這いつくばるのがお似合いですよ」


 焦げたスティンガーを放り捨て、繭へ向け正対。


 相手を完膚なきまでに打ちのめし、再起不能にする。

 ミライを始めとして、数多の人間にトラウマを与えて来たユリアの戦闘は、“通常の相手”であれば勝てる者などいない。


「さて、これでフェイカーはもう作られません。繭を破壊して––––終わりです」


 背後に倒れるスティンガーから、ドンドン感じられる神力が小さくなっていく。

 やがて消えかけの蝋燭に等しい灯火となり、看取ろうとした瞬間、


「……」


 無言で振り向く。

 そこには、ビクビクと不気味に痙攣するスティンガーの体があった。


「主は災禍を鎮めん……」


 白目を剥いた天使が、空中に浮遊する。


「主は最果てより至らん……」


 ユリアの目に信じられない光景が映った。

 脱力しながら浮かぶスティンガーの背中へ、無数の半透明なパイプが接続されていたのだ。


「クリアランス・コード承認……、『エンジェル機関』からのバイパスを接続。エネルギー供給を開始」


 消えかけだった灯火が、太陽のように膨れ上がった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ