第478話・大天使アグニ
大天使級のキャラは、いずれも弾道ミサイルから名前を取っています(理由は世間的に物騒なイメージだから)。
ミニットマン=米戦略弾道ミサイル・LGM-30
エリコ=イスラエル製弾道ミサイル・MD620
スカッド=ソヴィエト連邦製弾道ミサイル・R11
東風=中華人民共和国製弾道ミサイル・DF21(米国防総省コードCSS-5)
ちなみにアグニはインド軍の弾道ミサイルから取りました。
天界の大天使––––それは、今までアルス以外に倒したことのない敵。
アグニは腕を組みながら、感心するように呟く。
「まさかこの短期間で、血界魔装を衣から鎧へ進化させるとは……さすがに竜王級の選んだ竜ということか」
元の姿へ戻されたミライは、必死に魔力を集めるが、どれだけ力んでも変身ができない。
予想はしていたが、まさかこのタイミングで大天使が来るとは考えていなかった。
いかな彼女といえど、素の状態で勝てるほどアグニは弱くない。
横ではアリサも、必死に魔力を掻き回していた。
こうなったら––––
「はっ!!」
巨城の上に立つアグニの周囲へ、派手なスパークを発生させた。
こんなものに攻撃性能は無いが、キラキラと眩い光が散りばめられる。
「耐えれるもんなら––––」
“サイン”を確認した沖合の大艦隊が、その砲身を一斉に城へ向けた。
仰角が調整され、照準がミライの放ったスパークに合わせられる。
「耐えてみなさいよ!!」
戦艦の主砲が次々に火を吹く。
弧を描いて飛んだ砲弾は、100発を超える数が城へ着弾した。
激しい炎と黒煙に、アグニは包まれた。
すぐさま魔力をかき集めようとするが––––
「チッ……!」
思わず舌打ちした。
爆炎が引き裂かれ、中から無傷のアグニが出てくる。
全身を膜状の防壁で覆っており、破片や爆風はアッサリ防がれていた。
やはり……、直撃でないと効果はない。
「ずいぶんと賢しい手を使うじゃないか、その発想は嫌いじゃないぞ」
アグニの右手に、青白く輝く光が集まっていった。
凝縮された粒子は、やがて高密度の球を形成する。
アレはやばいッ!
すぐさまジャンプし、ヤツの前へ飛び出るが––––
「天界一等技術––––『収束衝撃波圧縮砲』」
アグニの拳から放たれたのは、先ほど飛び交っていた陽電子砲を遥かに上回る高密度ビーム。
射線上で軌道を逸らそうとしたミライだが、雷撃の蹴りは簡単に弾かれてしまう。
「ぐはっ!」
地面に落下するミライ。
勢いを全く失わなかったビームは、海岸の巡洋艦隊へ直撃した。
前衛の重巡洋艦は艦体を真っ二つに溶断され、付近にいた軽巡洋艦隊が爆発で真横にひっくり返される。
発生した高波に、岸にいた兵士たちが飲み込まれた。
「いかな鉄の暴力と言っても、天の装甲を貫く我が一撃には––––」
思わず目を疑う。
ほんの20秒の内に、アグニは両手へさっきと同じ技を充填していた。
「到底耐えられまい」
発射された2発の『収束衝撃波圧縮砲』は、青白い光線となって沖合のミリシア海軍弩級戦艦を貫通した。
装甲が最も厚いバイタルパートへの被弾に関わらず、弩級戦艦『ルシアス』は一瞬で轟沈する。
爆発が水平線に浮かび上がった……。
あまりに圧倒的過ぎる……。
変身封じという絡め手だけでなく、素の強さがそもそも違った。
アグニは腕を下ろし、翼を翻した。
「……大人しく引いてはくれんか? 確かに君たち生徒会を『パーティー』に招待はしたが、妨害なぞこちらの本意でないんでな」
起き上がったミライは、口の中に入った砂を唾に入れて吐き出した。
「パーティーだか知らないけどお断りよ……、こっちはもう引けないの。引くわけにはっ」
脳裏に最愛の彼氏が、いつか倒すべき竜王の姿が浮かんだ。
ここで、こんなところでつまづく訳には!
「いかないんだからッ、アイツに勝つには––––こんな障害自分達で乗り越えられなきゃダメなのよ!!」
「……そうか、なら」
背筋が冷える。
アグニを中心に、青色の光が5つ現れた。
今の会話の間に、もうエネルギーを充填していたのだ。
「夢を土に埋めて、ここで散ると良い」
戦艦をも沈める技が、ミライ1人に対して一斉射された。
5本のビームは彼女へ殺到し、その身体を木っ端微塵に粉砕する。
「ッ!?」
ことは無かった。
真横から突っ込んで来たアリサが、開いた両手でビームを掻き消してしまったからだ。
アグニの顔に、初めて動揺が現れた。
「ハァッ……! 間に合った!」
見れば、アリサの体を薄っすらと紫色の魔力が覆っていた。
血界魔装じゃない、これは––––
「『マジックブレイカー』!? アリサちゃん、なんで発動できてんの?」
驚愕するミライに、アリサは顔だけ振り向く。
「簡単な話だよミライさん、アイツの変身封じは莫大な魔力集中を妨害する仕組み。でもこの形態は血界魔装みたいに多く魔力を使わない“ユニークスキル”、だから––––」
薄い紫色の瞳で、アリサが叫んだ。
「変身封じに、唯一通用するッ!」
上空の魔法陣が、粉微塵に砕け散った。
アリサの持っていた古きスキル、『マジックブレイカー』がアグニの魔法を無力化したのだ。
「兵隊さんたちは少し下がって! あの大天使は」
2本の雷が、フェイカー島へ落ちた。
地面が大きく揺れ、巨大な衝撃波が周囲へ吹き荒ぶ。
「わたし達がぶっ倒す!!」
爆光の中から、再び真なる血界魔装に変身したアリサとミライが現れる。
アリサの声を聞いて、連合軍歩兵達は邪魔にならないよう一時後退し始めた。
目を細めたアグニは、それまで立っていた城から地上へ降りる。
「その自信や良し、一歩先んじられたが……死ぬのが少し遅くなっただけだ」




