第473話・フェイカー島爆撃
ワープにより完全な奇襲を実現したラインメタル大佐率いる第1航空戦隊は、眼下で光る巨大な城を確認した。
アレこそが、憎き防壁発生の源に違いない。
大佐の専用機が両翼を左右に振る。
それは、攻撃開始の合図だった。
「––––全機、急降下せよ。喰らい尽くすぞッ」
頭のゴーグルを下ろし、スロットルを操作。
特別攻撃隊の全機が、フェイカー島への爆撃を開始した。
すぐさま地表からレーザーによる対空砲火が上がってくるが、てんで狙いが外れている。
そもそもが混乱し切っており、目標すら決めかねているようだった。
陽電子砲を回避しながら、急降下で一気に速度をつける。
「2番機! 君はレーダー設備を潰せ。私は奴らの“盾”を頂く」
コックピットの照準器に、城の頂上部が重なった。
大佐がトリガーを引くと、両翼のハードポイントから重多連装ロケットランチャーが勢いよく発射された。
飛翔したロケット弾は、見事全弾が狙った場所へ命中。
機体が揺れるほどの大爆発を起こした。
機首をグイッと上げ、上空から見下ろす。
「天使共、ご自慢の傘が消えるぞ」
言うが早いか、倒れた尖塔が地面へ落っこちる。
同時に、フェイカー島全域を覆っていた超神力防壁がゆっくり霧散していった。
他の機も、次々にレーダー設備や陽電子砲を叩き潰していっている。
「やりましたな! 大佐殿!」
仲間の声は、興奮に満ちていた。
当然だろう、奇襲作戦としてこれ以上のものは無かった。
ほんの3分足らずで、島を守っていた鉄壁のA2ADが粉砕されたのだ。
しかし、当然被害は出た……。
いくら照準が手動でも、レーザー兵器は脅威に違いない。
確認しただけでも、完璧な奇襲でありながら攻撃機3機が撃墜されてしまった。
けれども、レーザーは翼を貫通したため、被弾した機のパイロットは即座に脱出できていたのが救いだろう。
風に流されて、海の方にパラシュートが落ちていくのが見えた。
あれなら、すぐにでも救出できる。
大佐は機体を急旋回させ、墜落した仲間のパラシュートが降りていく海域へ向かった。
彼らを救出するための、迅速な行動が求められていたからだ。
コックピットから腕だけ出すと、緑の発煙筒を放り落とす。
「第3小隊、私が落とした発煙筒の場所へ向かって救援物資を投下してくれ」
大佐の命令に従い、第3小隊の機体が方向転換し、煙の伸びた地点へ速やかに接近していった。
この部隊は、爆弾の代わりに小型の救命ボートを吊り下げていたのだ。
「了解! 援護をお願いします!」
海上に落とされた救命艇が膨らみ、パイロットたちを救出する準備を整える。
大佐は一瞬、墜落した仲間たちの様子を見守った。
パラシュートが海面に接近し、順調に降下している様子が見受けられた。
「安全に降り立てよ、すぐに後援が来てくれるだろう」
大佐の判断は間違いなかった。
彼は戦闘中でありながら迅速な救助作戦を展開し、仲間たちを助け出すことを確実にしたのだ。
「機体なんぞ、消耗品だからな」
一方、攻撃部隊は引き続き敵の要塞地帯を制圧するために攻撃を続けていた。
レーザー兵器の脅威によって遅延は出ていたが、大佐の指揮のもと、チームワークによる連携攻撃が敵を次々に撃破していった。
「第2小隊、敵の主砲をできるだけ無力化しておけ! 出し惜しみは無しだ」
大佐の命令に応え、第2小隊は敵の陽電子砲に向けて集中攻撃を開始した。
精密な調整が施されたミサイルが、敵の主砲を直撃し破壊すると同時に、周囲に展開されたアクティブ防護兵器も次々に排除されていった。
攻撃部隊の猛攻によって、要塞の防御は次第に崩れていき、敵の抵抗も見る見るうちに弱まった。
ここが潮時だろう––––
「我々の役目は一旦ここまでだ、撤収する!」
コックピットから直に、フレア弾を撃ち上げた。
撤退の合図だ。
高度を一気に上げ、作戦を完遂した第1航空戦隊は島を高速で離れていく。
––––オーバーロード作戦の、最も重要となる第一段階が完了した。
続いて発動された第二段階は、天界人にとって……まさに“地獄”と言えるものだった。




