第472話・用心+注意=油断
投稿ペースが遅くなっててすみません。
時間は5分ほど遡り、フェイカー島の地下司令部内。
大天使アグニは腕を組みながら、正面の巨大モニターを見つめていた。
「またICBMか……、学ばない奴らだな」
モニターには、フェイカー島とそれに接近する攻撃がリアルタイムで示されていた。
画面の上方から、5つの赤い三角形マークが落ちてくる。
「超神力防壁を起動せよ、これしきのちょっかいでは何の意味も無いと教えてやれ」
アグニの指示で、担当天使がパネルを操作した。
「“エンジェル機関”よりのエネルギー回路、開きました。防壁、起動します」
地上に造られた城のてっぺんから、再び猛烈な輝きが放たれた。
天に伸びた線は花開き、島をスッポリと防壁で覆ってしまう。
「弾数はさっきと同じ5発……、これしきでは通用しないとさっきわかった筈だが」
大天使の問いに、隣で立つ天界参謀のスティンガーが答えた。
「何か狙いがあるのかもしれませんな、例えば……本星でも昔あったルーレットを模しているとか。アレです……6連発のリボルバー銃に1発だけ銃弾を入れて複数人で回し撃ちする、度胸試しの」
「ほぅ」
「最初の何度かは通常弾頭で攻撃を行い、こちらが油断したところでメガトン級の核弾頭を混ぜて撃ち込む。これなら弾数が同じことにも説明がつきます」
「なるほど、だが連中は環境汚染の観点からこれ以上核攻撃を行いたくないだろう。それに、万一核爆発が上手くいっても肝心の地下はダメージを受けない」
近づいてくる弾頭をモニターで見つめながら、アグニは続ける。
「それに、連中の目的は上陸しての直接制圧だろう。放射能をばら撒く核はこの場合不適切だ」
「ふぅむ、ではますますわかりませんな。っとなると––––“何かの陽動”が可能性としては高い」
「しかし……この防壁を打ち破れる手段は、あったとして核か“超神力砲”ぐらいだ。竜王級が死にかけの今、後者はあり得ない」
「ではやはり……犠牲覚悟で核を?」
「可能性は捨てきれない、スティンガー参謀!」
顔を向けたアグニは、最大限の用心から指示を出す。
「島の陽電子砲を、BMD(対弾道ミサイル防御)モードにしたいが……よろしいか?」
「そうですな、用心を重ねるに越したことはありません」
同意を得たアグニは、すぐさま指令を発令。
“遠距離特化モード”に変更された陽電子砲が、大気圏外から突っ込んでくるICBMへ攻撃を開始した。
レーダー出力の全てを狭い範囲に絞っているため、遠距離での精度はもはや百発百中のそれ。
防壁にたどり着けたミサイルは、たったの1発だった。
当然ながら、通常弾頭でシールドはびくともしない。
これで連合軍は、遠距離打撃の打つ手を完全に失った。
竜王級が不在の今、天界特一等技術たる超神力砲を撃てる者も存在しない。
こちらが一方的に有利な状況ならば、火力で勝る敵相手だろうと決して負けないだろう。
後は、ミニットマンが行う『パーティー』まで持ち堪えれば––––
「ッ……? 島の上空に重力振?」
パネルに張り付いていた天使が、ポツリと呟く。
最初こそ機器のバグかと思ったそれは、モニターにハッキリと映った大量の赤点により現実と証明されてしまう。
「大天使アグニ様!!!」
「ッ!!」
あり得ない、あってはならない事態だった。
防壁に覆われた島の上へ、60機を超える航空機が相転移次元跳躍––––俗に言うワープを行なって来たのだ。
「敵機、直上!!」
空襲警報が鳴り渡る。
「……!! エンジェル機関からのエネルギー回路を大至急遮断しろ!!! 敵の目的は防壁発生装置だ!! 近接防空戦闘!!」
額に汗を浮かべたアグニへ、最悪の報せが重ねられる。
「げっ、現在、陽電子砲はすべてBMDモードです! ここまでの近距離では……敵機にロックオンできません!!」
用心に用心を行った結果、アグニたちは完璧に陽動へ引っかかった。
敵の作戦は気ままなルーレットなんかでは無い、合理に満ちた軍事の結晶だったのだ。




