第462話・君に嘘はつけない
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「ってな感じで、店長からセクハラ受けた」
––––喫茶店ナイトテーブル、アルスの部屋。
少しだけ熱の下がった俺の下へ、バイト帰りのアリサがやって来ていた。
どうも、東風には俺とアリサの……なんというか“肉体関係”がバレたらしい。
時折思うけど、東風もそうだがラインメタル大佐やマスターなんかの達観した大人は、こういうのを嗅ぎ取る能力を持っているのだろうか……。
昨日大佐からも、チャットアプリでそれらしい文言のメールが届いたし。
「んー……怒鳴って正解だったと思うぞ、普通にそれセクハラだし」
「で、でしょでしょ! ったくウチの店長……あの観察眼をもっと別のところで使えないのかな〜」
頭をかきながら呆れるアリサ。
髪が揺れたせいだろうか、彼女特有の良い匂いが漂った。
「ところでアルスくんは熱どう? 下がって来た?」
「あぁ〜まぁ、今は37度ってところか。相変わらず身体は怠いけど」
マスターいわく、俺は予想を超える速度で快方へ向かっているらしい。
普通なら、生死の狭間を彷徨うレベルらしいが……。
「さすがは世界一タフな男、やっぱ将来わたしにぶん殴られるべき人間はこうじゃなくっちゃ」
なぜか自慢げに鼻を伸ばすアリサ。
彼女にとっては、ぶん殴るが諸々の基準らしい。
とてもアリサらしくて、まるで不安なんか感じさせない。
けど––––
「そんなわけで、数日中には復活できるだろうけど……」
「わかってる、……アルスくんは作戦に参加できない。わたしたちだけでなんとかしてみるよ」
見れば、ベッドに背を預けるアリサの身体が、僅かに震えていた。
表情は見えないが、想像など容易にできる。
「不安……だよな?」
「うん、正直言うとね。めっちゃ怖い……」
ベッドから上半身を起こすと、俺は彼女の銀髪を撫でた。
それでも恐怖は拭い切れないみたいで、
「あのユリが……まるで手も足も出なかったって聞いて、もうわたしには不安しか無い。だって、ユリで勝てないのにわたしなんかが勝てるわけ––––」
そこまで言った時点で、俺は背後から彼女の頭に両手を置いて。
「んにゃあぁあぁああ!!?」
思いっきりグシャグシャにしてやった。
ストンとした髪が乱れると同時に、アリサが涙目で振り向いた。
「なっ、なにすんのいきなり!?」
「悪い、でもウジウジしたってしょうがないだろ。それに––––」
俺は彼女の小さい手首を握った。
「お前はユリアの下位互換なんかじゃない、学園ランキング1位の俺を倒そうとしてんだろ? そんな程度でへこんでたら……俺は一生殴れないぞ」
「……っ」
「お前の不安はわかる、だから……俺も白状させてくれ」
アリサの手首を、より強く握る。
「俺も……こないだから不安でしょうがない、お前らだけを敵の拠点に突っ込ませるなんて、本気で阻止したいくらいには嫌だ。俺の腕から離れるのが嫌だっ」
握った手の……、力が抜けない。
ダメだ、先日カレンに弱みは見せないって言ったのに……アリサを前にしたら、そんな浅い覚悟、一瞬で溶けちまう。
「お前が死ぬのは嫌だ、せっかくここまで仲良くなったのに。もし“別れる”ことなんかになったら––––」
俺の言葉は、そこで遮られた。
どうしようもなくなった俺の口へ、アリサの唇が触れることで無理矢理黙らされる。
「……っ。嬉しい」
ものすごく至近距離で、アリサが微笑んだ。
どうして良いか分からず、俺は目を逸らす。
「何がだよ……」
「初めてアルスくんが弱音を聞かせてくれた、初めて弱さを見せてくれた。それが嬉しい」
「ッ!!」
身体が、心が渇望していた。
もうブレーキなんかぶっ壊れてしまっていて、今度は俺がアリサをひたすらに求める。
彼女は優しく受け止めてくれて、そうした時間が5分ほど続いた。
「君〜、持て余してたねぇ?」
嬉しそうにニヤつくアリサに、俺は正面から抱きつくことで答える。
アリサに嘘はつけない、つきたくない。絶対つかないと決めていた。
だから、不安も欲望も全部ぶつけた。
「今日……泊まってくれないか?」
「体調は良いの?」
「わからん、でも今は……お前だけが欲しい。手放したくないんだ」
「フフッ、良いね……その言葉は“嘘”じゃなさそうだ」
一度目は躊躇したが、二度目のハードルはとても低かった。
俺とアリサは、互いが最高だと思う時間を一晩中……存分に過ごした。
『オーバーロード作戦』開始まで、あと12時間。




