第41話・合作なんて笑わせる! 付け焼き刃の魔法でわたしに勝てると思うなッ!
「さすがですね……、たしかに地上戦ではそちらに分がありそうです」
ゆっくり立ち上がったユリアは、口端から垂れた血を腕で拭う。
白い袖に、鮮血がジンワリと染み込んだ。
「しかし……、今のがわたしへ与えられた最後の一撃になるでしょうね」
2刀短剣が再び変形し、魔法杖となる。
瞬く間にフォルムチェンジする様は、見ていて純粋にカッコいい。
なにより、それを使ってあそこまで器用に立ち回れるユリアはやっぱり強いと思う。
「ここからが本気です––––ブラッドフォードさん同様、これで決着をつけます!」
魔力を高めたユリアは、金色の髪までもが輝きを放つ。
「『飛翔魔法』!!」
雲に近い高さまで、凄まじい速度で彼女は飛び上がる。
やはり十八番の空中攻撃へ移行した、一応は想定内だ。
上空に閃光が走り、雷と一緒に大規模範囲攻撃が降ってくる。
俺は全身を奮い立たせ、紅い魔力を引き出した。
「『魔法能力強化』!!」
ネフィリムからモードを切り替える。
周囲の住居の窓ガラスが余波で粉々に割れた。
さらに、俺は今日に至るまで繰り返した特訓を思い出した。
使わせてもらうぞ、ミライ……!!
「『飛翔魔法』!!」
ヤツと同じ魔法で飛翔。
攻撃を全て避けた俺は、足元の爆発をいなしながらユリアと同じ高さまで昇った。
「……ッ! 本当に貴方には驚かされてばかりですね、まさかわたしと同じ魔法を会得していたなんて」
杖をこちらに向けるユリアへ、俺も銃口を向けた。
「俺だけの力じゃないさ、ミライの奴が空き時間全部使ってまで俺に熱血指導してくれたから習得できた」
放課後––––俺は選挙やバイトの合間を縫い、ミライから飛翔魔法を教えてもらっていた。
アイツが負けた空中戦で、今度こそ勝つために……!
「合作とでも言うつもりですか、群れなければ習得できなかった付け焼き刃の魔法で––––わたしに勝てると思わないでくださいッ!!」
放たれた炸裂魔法を、俺は弾丸を使い空中で迎撃する。
爆発の煙に紛れて急降下すると、ユリアも追撃をかけてきた。
「星凱亜––––『火星獣砲』!!」
とんでもない熱量の炎属性魔法が、ユリアの杖の先端から撃ち出される。
真後ろから迫ったそれを咄嗟に横へ回避、攻撃はレーザーのように市街地を薙ぎ払った。
「わたしはいつも、どんな時でも最終的に1人で強くなった! 竜王級のくせに合作なんて笑わせる……! 男なら1人で挑んでみせてくださいよッ!!」
叫びながら、次々に次弾を発射するユリア。
俺は屋根を飛び越え、狭い路地を縫うように機動しながら攻撃をかわした。
「無茶苦茶しやがるな!」
高出力火炎レーザーが降り注ぐ。
密集した住宅街が吹き飛び、豪雨すら跳ね除けて炎が踊り狂った。
無人をいいことに好き勝手してくれる。
空中で姿勢転換した俺は、素早くコッキング––––魔力を込めた。
「『初級雷属性魔法』!!」
弾に魔法を付与し、ユリアの攻撃にぶつけて相殺。
機を逃さず加速して肉薄、彼女へ銃剣を振り下ろす。
––––ガァンッ––––!!!
金属音が響いた。
「ッ!!」
「ッ……!!」
お互いの武器が擦り合い、火花を起こす。
「わたしは絶対に負けられないんです……ッ!! 自分のため、師匠のため、親友のためッ!!!」
小さな体からは到底想像できない力で、鍔迫り合ってくる。
「悪いがそれは俺も同じだっ……! スカウトしてくれたマスターのため、そして全てを託してくれたミライのためッ!!」
互いに距離を取り、再び杖と銃口を向け合った。
「残弾は残り2発といったところですか? それさえ凌げば貴方から勝ち筋は消えます。リロードする隙なんて与えません」
さすがに初めての空中戦では、向こうに分があるように思える。
彼女の言う通り、このままでは俺が押し負けるだろう。
だが、そんなのはわかりきっていたことだ––––無為無策などという怠惰な真似は俺の信条じゃない。
素早くコッキングしながら、俺は空中でユリアへ言い放つ。
「だったら見せてやるよ、俺の切り札––––最後の“とっておき”をな!」
自身で封印していた禁じ手を、俺は発動した。