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第402話・ホットライン

 

 とりあえずアリサ達から離れた俺は、近くにあった公園のベンチへ腰かけた。

 周囲は子連れの家族や、ランナーたちで賑わっている。


 ここなら、俺の声も紛れるだろう。

 ついでとばかりに、ベンチを中心とした僅かな空間に防諜魔法を展開する。


 準備が整ったところで、俺は“ホットライン”を起動した。

 独特な発信音が鳴ってしばらく……、相手は応答する。


『この端末に掛けて来たということは、何か進展があったということですね? アルスさん』


 透き通るような声に、キッと背筋を伸びさせる覇気。

 通話の相手は、この国における最高権力者––––アイリ・エンデュア・ミリシア第1王女だった。


「そんなところだ、ところで……そっちは防諜大丈夫なんだろうな?」


『王族を舐めないでください、この端末は貴方が持っている物より高スペックのミニタブですよ。盗聴防止アプリもキチンと自家製で入れてます』


 スピーカーの向こうで、アイリがドヤ顔しているのが伝わる。

 通常の魔導タブレット端末は、そのどれもが通話機能を持たない。


 しかしユグドラシル社の試作品たるミニタブは、ミニタブ同士のリアルタイム通話を可能としていた。


 俺とアイリは密かにアドレスを交換し、竜王級と第1王女間で文字通り直通通話(ホットライン)を形成したのだ。

 まだこのことは、インターネット空間最強のノイマンくらいしか知らない。


『それで、どのような進展があったのですか? まさか……もう例のフェイカーを見つけたとか?』


「いや、フェイカーは見つけてない。っというか見つける必要が無くなった」


『っ、どういうことですか?』


 困惑した様子のアイリに、俺はついさっき得た確信を話す。


「結論から言うと、“勇者”が見つかった。今はまだ大人しくしているがいつ何をするかわからん」


『……確かなのですね?』


「今この目で確かめた、間違いない––––アレはもう人間じゃない。人類を超越した存在だ、俺の盗聴も危うくバレそうになった』


『アルスさんにそこまで言わせるとは……、素性はどこまで明らかになったんですか?』


 王女殿下にそこまで言われて、俺の中でほんの少し躊躇いが生まれる。

 言っていいのか? 話して良いのか?


 なにせ勇者の正体は……。


「ッ!!」


 自分の膝を思い切り叩いて、それら思考を吹っ飛ばす。

 今重要なのは速度だ。

 躊躇している場合じゃない。


「勇者は……、生き別れたアリサのお姉さんだ。今までスイスラスト共和国にいたらしい」


『そんなっ……』


 これが赤の他人だったらどれだけ楽だったろう。

 天使共は、ワザと俺たちの関係者を選んだと見て良い。

 なんとも狡猾でクソ外道、吐き気をもよおす程の邪悪。


 アイリが絶句するのも無理なかった。


「勇者……、名前をアーシャさんって言うんだが。アリサに俺との恋愛関係を切るよう迫っていた。家族は1つで十分だとな」


『恋愛より……親愛を取れと、そう言ったわけですね』


「実質そうなるな」


『しかしなぜスイスラストにいた勇者が、いきなりこの王都に……』


「予想だが、俺たちこないだ天界に宣戦布告しただろう? それを最も良く思っていない国家はスイスラストだ。ここにヒントがあると思う」


「永世中立国が……、信仰する宗教のために勇者を使って他国へ介入すると?』


「可能性だがな……」


 本来あり得ないことだが、神や天使といった神話の味方が敵の状態だ。

 何が起きても不思議じゃない。


「とにかく、アイリにはスイスラストの動向を調べて貰って––––」


 そこまで言って気づく。

 周囲に溢れかえっていた人間が、誰1人していなくなっていた。


 同時に、ミニタブからノイズ音が響く。


「防諜魔法の中で通話とは結構だが、少々油断しすぎだね––––竜王級」


 ECM(電波妨害)を受けたミニタブをポケットに突っ込み、正面から歩いてきた青年を見上げる。

 全身を甲冑とマントで包んだ、ただならぬ気配を持つ騎士だった。


 腰には安物とは思えない剣が提げられており、天然パーマの茶髪が妙に端正な顔を引き立てていた。

 俺は立ちながら、目の前の騎士へ視線を向ける。


「永世中立国が武力介入とは頂けないな、スイスラスト共和国の騎士さんよ」


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