第4話・面接で生まれる竜王級エンチャンター
「ほとんど採用みたいなもんだし手ぶらでいい……、とかミライのヤツ言ってたけど」
ミライの勤める喫茶店––––『ナイトテーブル』へ向かう道中、俺は昨日のやり取りを思い出していた。
『履歴書はいらないよ、マスターが面接してちょこっと実技さえ見せてくれればそれでおk。アルスならマジ爆速で採用だって♪』
あの謎の自信はどっから湧いて来るんだよ。
っつか、今どきそんなルーズな店ってありえるのか?
なんにせよ……。
「確かここだったよな」
T字路に面した一角に、その建物はあった。
王都ならどこにでもありそうな木組みで作られており、柔らかそうな雰囲気から先日はすんなり入れたのだが––––
「緊張で胃が……、ってか腸が痛てぇ。当然か、マトモな就活なんてこれが初めてだし」
一応『ステータスカード』は持ってきた、これが身分証になるだろう。大丈夫だアルス、男なら迷うなっ!
ドアノブを引くと、カランカランと音が鳴る。
店内はまだ閑散としていて、客らしき人間はいない。
その代わり。
「あぁ––––––!! やっときてくれたーッ!! アルス助けて、ヘルプ、SOS!!」
大量の用紙をテーブルへ置き、涙目になりながら原稿作業をしているミライがいた。
「なんで原稿作業してんだよ、ここでは秘密にしてるんじゃなかったのか?」
「だってー! 同人誌即売会がもう来月まで迫ってるんだよ!? 空き時間使ってでも描かなきゃマジ間に合わンゴ––––ッ!!!」
昨日からもう何度目か忘れたが、また机に突っ伏すミライ。
本気で呆れていると、カウンターの方から声が聞こえた。
「君がアルスくんか、面接の件はそこのミライちゃんから聞いてるよ」
見れば、バーテンダーっぽい服装を着た20代の男性だった。
どことなく教授然とした雰囲気で、和やかに微笑んでいる。
「彼女今朝からずっとこうでね〜、君にヲタバレ食らってからむしろ開き直ってるよ」
「マジすか……あっ、初めまして、ここの店長ですか?」
「初めまして、グラン・ポーツマスだ。気軽にマスターでいいよ」
グラン・ポーツマス? どっかで聞いたぞ。
確か……。
「あぁその人ね、大陸の大英雄。聞いたことくらいあるでしょ? 元王国ギルドランキング1位だったパーティーにいたガチ勢よ」
マジか、教科書にも載ると言われてる偉人クラスじゃん。
ミライの言葉に、マスターは困惑気味で返答する。
「あはは……もう過去の話さ、それにアルスくんこそ今第5位にいる『神の矛』所属だったんでしょ? 凄いじゃないか」
「いやいや全然ですよ、効果があるかも不明なエンチャントを必死で掛けてただけで、もうクビになった身です」
思わず首を振った俺を、マスターはジッと見つめてきた。
なんだろう……吟味されてるような。
「バイトの志望動機は生活のためだったっけ?」
「一応そのつもりです」
「そうか、じゃあ早速地下に来てもらおうか」
は? 地下……?
困惑していると、座っていたミライが勢いよく立ち上がる。
「マジで!? もう“その段階”ですか!?」
「うん、ミライちゃんも一旦原稿置いて来てごらん? 面白いものが見られる。 あとでアルスくんに手伝ってもらえばいいでしょ?」
「行く行くっ!」
何がなんだかわからんが、どうやらもう面接が終わったらしい。
そういえば試すとか昨日言ってたな、それにしたって何故地下なんだ?
長い階段を降りると、そこはかなりの広さを誇る空間だった。
空間魔法だろうか、場所は森っぽくてモンスターを模した模型が等間隔で並べられている。
「君は今まで3年間ずっと、ギルドのメンバーに色々エンチャントしてあげてたんだよね?」
「はい、それが仕事でした。結果的には穀潰し扱いだったわけですが……」
マスターは魔導タブレットを取り出すと、専用の三脚で固定して俺へ向けてきた。
「な、なんです?」
「試しに聞いてみるんだけど、アルスくんは自分自身にそのエンチャントを掛けてみたことはある? これまでの人生で1回でも」
「ないですよ、今も3年分のエンチャントが余ってるだけです」
「なるほどなるほど、じゃあミライちゃん”魔法杖“を適当に持ってきてくれる?」
「ラジャー」
駆けてきたミライが、俺へ長身の杖を渡してくる。
離れ際「頼むから加減してね」と一言。
いや加減ってどういう。
しかもこれとバイトのどこに関係が?
「適当でいいから……そうだな、魔法能力強化エンチャントでも掛けてみてくれ」
あーもうままだ! 大英雄さんが言うならやってやる!
「『魔法能力強化』!!」
今までパーティーの火力であるミリアに掛けていたエンチャント、それを初めて自分へ付与した。
「『レイド・スパーク』!!」
杖の先端から発射された”初心者用魔法“は、広大な森を一撃で薙ぎ払った。
火災は起きない––––木々が一瞬で炭化してしまったからだ。
持っていた魔法杖も砕けている。
呆然とする俺たちを尻目に、マスターのタブレットから音声が響いた。
《計測完了、能力評価”SSS“。総合判定––––『竜王級』》
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