第34話・大英雄殿は腹案がおありのようです
「うーん……、威勢よく言ったはいいがどうしたもんか」
放課後、喫茶店ナイトテーブルで俺は昼間ユリアへ放った言動のことを悩んでいた。
今の格好は黒のパンツに薄手の白シャツ、腰には丈の長いエプロンというおおまかなイメージ通りの喫茶店店員。
久しぶりのバイトだが、平日ということもあって客はまばら……訂正、とても少なかった。
よって結構暇である。
ちなみに、今日ミライはシフトの相談だけして帰っているからもういない。
「顔色が悪いね、君らしくない」
カウンターで立っていたマスターが、コーヒーを煎りながら一言。
やはり顔に出ていたかと反省しつつ、切り替えもかねて返答した。
「俺が生徒会長選に立候補するっていうのは、知ってますよね?」
「むしろそのために入ったんじゃなかったっけ? 今の君なら票も結構集まるだろうに」
「まぁはい……そこまでは良かったんですが、成り行きで学園最強の子に宣戦布告しちゃいまして」
「ハハハ、それはまた大胆不敵だな。でも理由があったんだろう?」
視線はコーヒーに集中しているが、会話のキャッチボールはしっかり行うマスター。
「ミライが昔そいつに完敗したみたいで、しかも俺の目の前でその試合のこと掘り返してきて––––泣きかけのアイツの横顔見ちゃったらもう気づいたときには……」
「なるほどね、人情深いのは良いことだよ。しかし君のことだ––––実力差で悩んでるわけじゃなさそうだ」
さすが大英雄殿。
しっかりこちらの思いを見抜いていらっしゃる。
「俺って魔法も体術も一応両方いけるじゃないですか?」
「竜王級だしね」
「でも知っての通り、加減がいつも全然できてないんですよ。特に魔法、素手でやると鬼火力で絶対オーバーキルになっちゃうんで」
「制御できない力は危険だというのがよくわかってる、確か魔法杖だと魔力に耐えられずにすぐ壊れて、使用不能になったっけか」
ここの地下でやった試験を思い出す。
たしか魔法一発で杖が割れたんだったよな。
そんな思い出を振り返っていると、ほろ苦い香りが鼻を触った。
「はい、あそこのお客さんに運んでくれる?」
マスターが淹れたコーヒーを受け取った俺は、トレイに乗せ、唯一いらっしゃるお客様へ持っていく。
「ごゆっくり」と一言声をかけてからカウンターに戻ると、マスターは話を続けた。
「つまり君の要望としては、相手と自分のためにも“銃”が使いたいということかな?」
「そうですね……、でも俺まだ生徒会長じゃないので権限なんて一切持ってないですし、八方塞がりというか四面楚歌というか、とにかく困ってまして」
ハァッとため息をつく俺を見たマスターは、掛けていたメガネをクイっと指で持ち上げた。
あっ、何か腹案があるときにやる仕草だこれ。
「それなら良い人物を知ってる、前に言ってた学園の特別顧問を覚えているかい?」
「あぁ、マスターがいっつもイビられてるっていう。その人に言われて俺をスカウトしたんでしたっけ」
「イビられ……いや間違ってはないか、まぁ合理主義の権化みたいな人だよ。彼に頼めばなにかしら理由をつけて一瞬だけでも携行許可をもらえるかもしれないよ」
「マジすか……! お願いします!」」
「任された。ちなみに君の入学試験時にライフル持ち込みをオーケーしたのもその人だ、でも忙しい人だからね––––アポ取れたら一緒に伺おう」
やった、ようやく一筋の光明が見えた。
これで手加減不能な素手で突っ込むような真似はしなくて済む。
しかし特別顧問か……、どんな人なんだろう。
いずれにせよ、選挙とユリア対策も同時に進めていかないとな。
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