第32話・この学園で最強の存在になるために
「ふーむ、困ったな……」
休み時間、俺は次の授業の準備をしながらボヤいていた。
窓側最奥の机をあてがってもらったので、考えごとにちょうど良いと思ったのだがどうも上手くいかん。
「どうしたのアルス? 疲れ切ったゴブリンみたいな顔してるわよ」
俺の真ん前に座るミライが、イスを反対に向けながら聞いてきた。
ってかゴブリンて……こいつ、早朝までの自分へブーメラン刺さってるのに気づいてないな。
「いやほら、もうすぐ生徒会長選挙だろ?」
「うん、立候補するとか言ってたわね。銃持ちたいとかいうクッソ不純な動機だけど」
「それは置いとけ……んで、立候補にあたって応援演説を誰に頼もうかと思ってな」
「適当に誰か頼めばいいじゃん、せっかく報道バフ掛かって知名度上がったんだし」
ミライの言う通り、コミフェスでの一件から俺は学内でとてつもない有名人––––否、英雄に祭り上げられていた。
やれ英雄的判断で警務隊500人を救ったとか。
やれ表現規制派のテロから、自由と表現を守ったとか。
やれ著名人を守るため重傷覚悟で身を挺したとか……。
他にもあることないこと、めちゃくちゃ尾ひれがついて拡散してしまっている。
普通に廊下を歩いてたら「あのアリサさんを落とした恋愛術を教えてください!」っと、迫られたときは全力で逃げた。
なに恋愛術って? なんで俺がアリサを口説き落としたことになってんの? テロ事件と関係すらないじゃん!
第一童貞にそんな度胸はありません。
「誰でもとか気軽に言うけどさ、俺のことちゃんと知ってるヤツなんて一握りだろ」
「あー確かに、あんた可哀想なコミュ障陰キャだもんね……おまけに残念なミリヲタだし。ごめんね」
「ぶっ殺されたいかよ?」
「女の子にグーはダメ! グーは! ––––じゃあさ!」
おもむろに席を立ったミライは、右手を胸に当てた。
窓から差した陽光が、茶色のポニーテールを透かす。
「わたしがやってあげようか?」
「冗談ならほどほどにしとけよ」
「いやマジ本気! だってアリサちゃん腹痛でダウンしちゃってるし、割とマジでわたししかいないでしょ」
そうだった……!
今朝まで元気そうだったアリサは、腹痛で早退してしまっている。
原因はたぶん、きのう聴取中に出された飯をアホほど食ったからだ。
あの細い身体のどこに入ってるんだろう。
「確かにアリサはあてにできないか、悪い––––じゃあ頼めるか?」
「ガッテン!」
自信満々に胸を張ったミライは「じゃあいいもの見せてあげる」と、カバンから紙を取り出した。
「これ、メディア部が出した生徒会長選の予想立候補者表」
「へぇ、いったいどこで仕入れているのやらだな。どれどれ––––」
立候補者は俺を含めて5人。
見た感じ全員知らないヤツだが、ある1つの名前に目がいった。
「1人女子が混じってるんだな、珍しい」
言われてから気づいたのだろう、今一度しっかり表に目を通したミライが……。
「えっ、マジ……?」
不自然に震え出した。
尋常ではないほど汗をかき、みるみるうちに顔が青くなっていく。
「おっ、おい……大丈夫か?」
表をひったくり、もう一度見直す。
「名前、ユリア・フォン・ブラウンシュヴァイク・エーベルハルト……? 外国人だな、こいつが一体どうしたんだ?」
思わず聞く俺へ、ミライは泣きそうな顔で首を横に振る。
「アルス、わたしが悪かったから辞退した方がいい……。完全に失念してた」
「失念ってどういう––––」
聞き返そうとした瞬間、教室の外がざわめいた。
いや、ざわめきと言うには大きすぎる騒ぎ、何事かと思っていると、そいつはいきなり教室へ入ってきた。
「アルス・イージスフォードさんはいる?」
俺は目を奪われた。
肩まで伸びた金髪は陽光を反射して輝き、白が基調の夏制服に尋常ではないほどマッチしている。
幼っぽくも凛々しい顔が、碧眼が俺を捉えていた。
そうだ、間違いない––––コミックフェスタで杖を無くして困っていたあの子だ。
「何しに来たのよ……! エーベルハルト」
敵意を剥き出しにするミライ。
拍子で床へ落ちた表。
そこに書かれていた字面をよく見て、俺は凍りついた。
『第5生徒会長候補。ユリア・フォン・ブラウンシュヴァイク・エーベルハルト(2年)。王立魔法学園ランキング––––”1位“。』
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