第30話・次会う時は生徒会長
王都では珍しくもないマンション、その一室で少女はオーダーメイドのフカフカな椅子に座りながらキーボードを叩いていた。
部屋の明かりは、マルチディスプレイと化した6台の魔導タブレットから発せられる光のみ。
見る人がみれば、とても体に悪そうだと思う光景に違いない。
「あーあ、結局ミライ先生の新刊は買えずじまいだったな……」
金髪を揺らしながら、彼女––––ユリア・フォン・ブラウンシュヴァイク・エーベルハルトは一人ゴチる。
服装はノースリーブの下着にショートパンツという、ラフな格好だ。
女装したアルスが会場で出くわした、あの清楚系金髪っ娘である。
「ねぇ聞いてよみんな、ご迷惑なテロリストのせいで半年間楽しみにしてた同人誌買えなかったんだ〜。慰めてほしいなー」
株式会社ユグドラシルは、大陸において様々なサービスを展開している。
短文投稿サイトから、企業用ホームページ、動画投稿サイトまで色々だ。
特に、その中でも動画投稿サービスがとても人気を博していた。
ユリアもまた、この動画サイトで配信を行う人間である。
『”ミニミ“さんマジかわいそす』
『テロリストに人権とかなくね? “ミニミ”さん泣かせんなよ』
『落ち込んだ声も可愛いよ“ミニミ”ちゃん!』
結構な勢いで流れるチャット欄。
先ほどから見かける“ミニミ”というのは、彼女のハンドルネームだ。
ユグドラシルにおいて、ユリアは有名な配信者で通っている。
グリードのように素顔と本名を晒すのとは違い、自前のイラストを魔法で3D化してそれに喋らせるスタイル。
現在の同時接続数は3500人オーバー。
「ありがとー、じゃあ元気出てきたし今日も朗読やっちゃおっかな。ASMRだから寝落ち歓迎〜」
新聞を広げるユリア。
時刻は深夜2時で、明かりはめんどくさいからタブレットで照らす。
「<ミニミ>さんさっきまで何やってたの? うーん……学校の課題やってた、明日はテストの準備があるかな。校名と出席番号? 教えないよばーか」
リスナーと戯れながら、一面へ目を通す。
「先週の記事ね、なになに……王立魔法学園の男子生徒が大勢の参加者を救う、たった1人でテロリストを一蹴か……」
読み上げながら、無意識に声が落ちていく。
彼女と連動しているイラストの表情も、テンションの降下を示していた。
「新聞っていつもドラマチックにしたがるというか、演出(捏造)が大好きだよね〜。わたしこの場にいたけど全然違うよ」
懐かしむように、ユリアは背もたれへグッともたれながら、真っ暗な天井を見上げる。
「わたしはテロリストに杖を壊されてなにもできなかったけど、あの人––––”アルスフィーナ“さんっていう黒髪美人さんが助けてくれたの。凄かったな〜」
アルスフィーナ。
それは、アリサに女装させられたアルスが咄嗟に思いついた嘘ネームである。
本人からすれば人生の黒歴史扱いだ。
「だーかーら、この新聞は間違い。男子生徒も十分凄いけど、アルスフィーナさんがいなかったらもっと大勢殺されてたかも」
間違いではない、同一人物である。
しかしピュアな彼女は信じて疑わない、自身を救ってくれたアルスフィーナという女性を。
「また会って絶対お礼を言いたいな、今度やるとしたら冬のコミフェスだから––––それまでに」
ユリアはマイクをその瞬間だけミュートにした。
「王立魔法学園の”生徒会長“になって、自信満々胸を張ってお礼を言う……!」
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