第3話・ヲタ友と飲むグレープジュースは格別です
「ホント殺す……、マジで殺したい」
木製ジョッキに注がれたエール(お酒)を飲み干しながら、ミライは机に突っ伏していた。
本当はこいつのバイト先である喫茶店で飯を食う予定だったんだが……。
「ヲタク趣味隠してたんなら言ってくれよ、普通気づかんぞ」
「いや察せ、そこは否応なく察せよ。わたしがどんな苦労であそこに勤めてたかわからないの? 良い? 肯定? おk?」
「はいはい、次から気をつけるよ。っていうかイメチェンしたんじゃなかったのかよ」
「ざんねーん、中身はガチガチ陰キャのままでーす。エールおかわりくださーい」
追加で酒を頼むミライ。
この国ではアルコール類が15歳からOKとはいえ、俺は弱いのでブドウジュースを口に含む。
「髪まで茶色に染めた意味ないな……」
「そういうアルスだってガチのミリヲタじゃん、あれとか分かるの?」
壁に飾られていた絵画を指さすミライ。
「マチルダII、最新歩兵支援戦車」
「はいキモいー、ミリヲタ乙〜! また喫茶店でわたしの秘密バラしたらアンタも道連れにするから」
「道連れもなにももうギルドに所属してないって……、言いふらされても友達自体いないしマジでノーダメ」
ブドウジュースを飲み干す。
正直こんな話をするよりも、サッサと次の食い扶持を探した方がいい。
俺は袋から自分の荷物をまさぐる。
そして、目当ての物を見つけたは良いのだが––––
「ってうわ......、俺の魔導タブレット砕けてるじゃん」
『魔導タブレット』は、ユグドラシルのサービスを利用するのに必須の魔導具だ。
グリードのやつが乱暴に扱ったせいだろう、魔力を注いでも画面は点灯すらしない。
絶対ワザとやりやがったな、完全にぶっ壊れてる。
「まいったな……、これじゃ不便だぞ。いや不便どころじゃねえ、ギルドの求職ボードすら見れん」
「あ〜こりゃ綺麗に砕けてるね、どうせだし買い換えたら? これかなり古いタイプじゃん」
お亡くなりになったタブレットをひったくったミライが、同じようにボタンを押しつつ言う。
「無職の俺にそんな金あるわけないだろ、ここでの飲食と数日分の宿泊費が限界だ」
「退職金って出た?」
「無いな……、そもそも超低賃金に加えて非正規扱いだったから」
『神の矛』には親の借金返済を目的で勤めていたが、この3年でたぶん2〜3回返済完了するくらいは働いたはずだ。
なのに、グリードたちはほぼ無賃金でずっと俺を働かせていた。
ミライはタブレットを机に置くと、端正な顔でこちらを見た。
「だったらさアルス、ウチの喫茶店に来ない? ちょっと試させてもらうことにはなるけど」
「分岐イベみたいなこと言い出したぞこいつ、どういう風の吹き回しだ?」
「別に、わたしの秘密を知る人間をいつでも監視できるようにするだけ」
「言い切ったなクソ腐女子、おおかた同人誌即売会の締め切りが間近だから、代わりにシフト入れる人間が欲しいだけだろ」
「ぐっ……!」
再び突っ伏すミライ。
どうやら図星のようだが、まぁ……。
「いいよ、その試すウンヌンはあとで聞けばいいし。面接してくれるなら喜んで行く」
「マジ!? ホント!? 男なら二言ないよね!?」
「ガチ、それに俺なら原稿作業も手伝い可能」
勢いよく立ったミライはとびっきりの笑顔で目を輝かせ、俺の肩を掴んだ。
「明日から出勤してッ!!」
……いやまだ面接してませんよね?
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