第251話・ヘブン・ブレイク戦闘団
––––王都西方約50キロ。
河川が横たわっているこの平原を、ミリシア、アルト・ストラトス連合軍は最終防衛線に指定していた。
『こちらティーガー01、第1戦車連隊は現在河川沿い5キロに渡って展開中。送れ』
『CPよりティーガー01、パンター戦車大隊の射線に気をつけろ。指定された位置で射撃準備態勢に移れ。送れ』
『ティーガー01了解』
平原には、無数の戦車部隊が展開していた。
砂漠色の重車両が、履帯で地面全てを覆わんばかりにあちこちで轍を作る。
ちらほらとミリシア陸軍の戦車も見えるが、こちらはいわゆる歩兵戦車の上に数も少ない。
大半は、アルト・ストラトスの駐留軍だ。
これに加えて後方10キロには大口径榴弾砲部隊が控えており、測距したデータと地形図を基にキルゾーンの選定を行なっている。
こちらは約80門が上空を指向しており、兵士たちが次々に砲弾を込めていく。
『航空艦隊司令部より、『ヘブン・ブレイク戦闘団』へ。現在ワイバーン隊は王都陸軍航空基地を発進。現着予定時刻は11:35』
「了解、ポイント・ブラボー通過時にもう一度通信を送れ。悪天候が予想される、気をつけられたし」
『ヘブン・ブレイク戦闘団』と呼ばれるこの大軍団を指揮するのは、河川敷後方1キロに設営された臨時基地だ。
通信機器でいっぱいの天幕に、全身ずぶ濡れのラインメタル大佐が入ってきた。
「どうだい戦闘団長、展開は上手くいってるかな?」
「あぁ大佐殿、荒天が酷くなっていますが……まぁ問題ありません。戦車部隊は7割が配置に着きました」
「砲兵部隊はどうかね?」
「準備万端ですよ、ネロスフィアⅡが射程に入り次第––––。一斉に効力射を叩き込めます」
効力射とは、大砲の同時発射による面制圧攻撃を指す。
今回は80門の155ミリ榴弾を使った、同時弾着射撃を企図していた。
さらに、それだけではない。
戦闘団とはいわゆる諸兵科連合部隊のことを意味する。
この『ヘブン・ブレイク戦闘団』は、陸軍の他にもう1つ強力な軍が加わっていた。
「“第1主力艦隊”は、もうそろそろ指定海域へ到達したかな?」
「先ほど旗艦グリフィスより通信が届きました。後20分で到着とのことです」
大佐は頬を吊り上げた。
「良い機会だ、日本文化をたしなむミリシア人にもこの際見せてやれ。日本人が漂着したのは––––なにも君らのところだけじゃないとな」
陸軍が展開する河川敷より、ずっと南方––––
河口が合流した海の先、水平線に続々と浮かび上がったのは……黒鉄の城と形容すべき“戦艦群”だった。
「旗艦グリフィスより全艦へ、陣形変更を通達、第1警戒航行序列を解いて単縦陣へ移行せよ。取り舵いっぱーい!」
先頭を航行する最も大きな艦は、艦名を『グリフィス』。
旗艦にもなっているこの艦は、46センチ砲を3基9門搭載した超巨大戦艦だ。
あまりに高かった建造費用から、動く国家予算と呼ばれるほどである。
これに続くのは、同艦隊所属の巡洋戦艦隊。
『『ダイヤモンド改二』より『フォッグ・アイランド』へ、貴艦の真後ろにつくぞ』
『了解、幅は数キロちゃんと取れよ』
こちらはダイヤモンド級巡洋戦艦と呼ばれており、主砲は35.6センチ。
高速が売りの艦艇で、今回作戦に参加するのは6隻。
そして順に並んでいく最後尾に着いた艦は、他のどの艦とも似付かぬ異様な艦橋を持っていた。
巨大な威容を撒き散らす『マウンテン・キャッスル』級戦艦、砲サイズは35.6センチ。
砲身をゆっくり旋回させながら、雨の中白波を立てる。
『しっかしヘブン・ブレイク戦闘団とは、また随分思い切ったネーミングにしたもんだな。ラインメタル大佐案か?』
『敵が天使だからだろ? っというかこの波で統制射撃するのかよ。当たるのか?』
『相手は街みたいにデカい神器だ、波を言い訳に外す砲手と砲術長はまさかいないよな?』
大戦艦8隻が陸地に側面を向け、全砲門を指向する。
陸地から数十キロも離れているが、戦艦の主砲なら容易に届いてしまう距離だ。
旗艦グリフィスの艦長が、通信を行う。
『さて諸君、久しぶりの大規模軍事作戦だ。ミリシア軍は失礼ながら我が軍と比べて正直おまけみたいなものだが……1つ頼って良いとされる組織があるそうだ』
『こちらダイヤモンド改二、もちろん存じてますよ』
『では言ってみろ』
『王立魔法学園生徒会、伝説の竜王級魔導士が従える天才揃いの超精鋭––––噂じゃウチの主力艦隊を超える戦闘力らしいですね』
『正解だダイヤモンド改ニ、今回の作戦はそのおよそ半分を生徒会に担ってもらう。各艦––––学生を前にしくじるなよッ』
『移動要塞ネロスフィアⅡ』VS『ヘブン・ブレイク戦闘団』。
両軍の会敵まで––––あと2時間を切った。




