第241話・見届ける代わりに
「本当に良かったんでしょうか……」
学園からの帰り道、隣を歩くユリアは後ろ髪を引かれるような仕草で呟いた。
理由はハッキリしている、ミライとアリサによるマチルダとの公式戦が、今この瞬間に演習場で行なわれようとしているからだ。
本来であれば俺とユリアが立ち合い、見届けるべきだろう。
しかし––––
「良いもなにも、他でもないミライ本人に『2人はバイトあるでしょ、だから見届ける必要なんてないから』って言われたしな。多分……俺が魔力切れなのをマチルダへ悟らせないために言ってくれたんだろうけど」
「けれどあのマチルダさん、実際の実力はかなりのものと聞き及んでいます。いくら2人掛かりでも勝てるかどうか……」
未だ不安気なユリアの頭を、俺は横からポンポンと撫でる。
「大丈夫だ。なんたってあの2人は他でもないお前が選んだ役員だぜ? 俺はお前を信じる……だからユリアが選んだアイツらを俺は疑わないよ」
「そう……ですね、その通りです。むしろわたしの方こそバイト初日なのですから、ちゃんと自分のことで緊張感持たないと」
「あぁ、それと単に気遣われただけじゃない。俺たちはミライから言われた“頼み事”をキッチリ遂行しなきゃならん」
「“アレ”ですか……、ちゃんと保管してあるのですか?」
「机に入れっぱだったからな……グリードのヤツがこっそり盗んでる可能性も否定できん、だからこうして真っ先に帰らされたんだろうさ」
俺たちはバイトのシフトを優先するのと同時に、いわばお使いを頼まれた。
いわく『一応世界救うかもしんない』というかなり大仰なことを言われたが、果たしてあんな物がどう世界を救うのだろうか……?
◆
時刻は夕方、午後の授業が終わったマチルダ率いる風紀委員たちは、演習場区画で生徒会を待ち受けていた。
「遅かったわねぇ、待ちくたびれたわよぉ」
余裕を見せるマチルダの前に、ミライとアリサの2人が現れた。
当然、違和感の正体に気づく。
「会長と副会長の姿が見えないけど……、遠くからでも観戦してるのかしら?」
純粋に不思議そうなマチルダへ、ミライは正対しつつ答えた。
「言ったでしょう、ウチの会長と副会長が出るまでもないって。わたしたちで十分だからもう帰ってもらったわ。ねっ、アリサちゃん?」
「まぁねえ、わたしら今日バイトのシフトじゃないし」
アルスたちへ自身の強さの顕示を目論んでいたマチルダにしてみれば、これはあまり面白くない。
それとも自信の現れか? いずれにせよ目的は変わらない。
「いいわ、じゃあ後日談で聞かせてあげることにしましょう。アナタたちは良い見せしめになるわ……風紀委員に歯向かえば一体どんな悪夢を見るかをね」
「寝るつもりなんかないけど?」
「心配ないわ、10分後にはこの地面をベッドに……2人共ぐっすり眠れるから。この学園に不純異性交遊は不要、悪夢から目覚めたらしっかり理解できるわ」
風紀委員長……学園第3位として、この2人を徹底的に叩きのめす。
まずは意識を奪うまで痛めつける、今考えるのはこれだけだ。
一方で、ミライとアリサは並んだ状態で戦闘体勢へ移った。
「エーベルハルトさんの言った通りね、規律と法律を混同する勘違い風紀委員ごときに––––」
ミライとアリサの身体から、ボッと魔力が吹き上がった。
「「わたしたちは絶対負けないッ!!」」
不敵に笑うマチルダへ、2人は青春を守るべく敵意を込めた眼差しを向ける。
「いいわぁ、掛かってらっしゃい。生徒会の––––双竜ッ」
審判の風紀委員が録画を開始した。
「それではこれより、マチルダ・クルセイダー(3位)対、ミライ・ブラッドフォード(8位)およびアリサ・イリインスキー(第7位)による公式戦を開始します!!」




