第22話・お前の勝手な思想で殺していい命なんて、ここにはないんだよ
っ、なんだよいきなり……!
吹き荒ぶ爆風、周囲にいた人間たちは蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑っていた。
俺は燃え落ちたテントを見る。
「アッハッハッハッハッハ! 素晴らしい! 素晴らしいわ! こんな簡単に力が使えるなんて」
残り火くすぶる石畳の上で、1人の女が高笑いしていた。
どんなバカでも、この騒ぎを起こしたのはアイツだと確信できる。
「お前……、何やってるんだよ」
俺の問いに、女は頬を吊り上げながら答えた。
「なにって“浄化”に決まってるでしょ? 忌まわしい性犯罪者予備軍が集まったところを一気に滅ぼす……、これ以上ない大義名分だと思うけど」
「大義名分? イベント会場で無差別爆破テロを起こすのがそうなら、世の戦争はさぞ立派な理由で起きてるんだろうな」
「偉そうなことを言うお嬢さんね、あなたみたいな口の悪い害悪文化迎合者も、我々にとっては消毒対象よ」
またか、アリサのメイクが上手すぎるのも考えもんだな。
っつかこいつ……、思想拗らせすぎだろ。
「アルスフィーナさん!」
後ろから、別行動中であるはずのユリアが駆けてくる。
この騒ぎを察知してきたのだろう。
っ! マズイ!!
俺は振り返るやいなや、ダッシュして彼女を押し倒した。
ほぼ同時に、俺たちの頭上を黒い炎が通り過ぎた。
あっぶねぇ……!
「あらあら健気な友情ね、それとも愛情だったりする? そんな男を誘うような服装するヤツ、わたしの炎で焼けばさぞ気持ちよかったでしょうに」
どうやら、あの女は本当にイカれた理解不能のテロリストらしい。
人間を焼き殺すことになんら抵抗すら感じないのか。
「アルスフィーナさん……、大丈夫ですか?」
「大丈夫、ユリアはとにかく立ってここから逃げて。アイツほんとにヤバそうだから」
だが、彼女はテロリストを見て声を漏らす。
「あの人、わたしの魔法杖を持ってる……!」
「えっ?」
ハッとして見れば、確かにアイツは左手でしっかり杖を持っていた。
なんでアイツが!
「ん、あぁこの杖……? テントの中に置いてあったから頂いただけよ。落とし物として届けられたのかしらね」
ユリアが前に出る。
「返して……! それはお爺ちゃんから受け継いだ、我が家の大事な杖! あなたが持っていいものじゃない!」
「言ってくれるじゃない小娘が、人に物を頼むときはちゃんと態度で示せってお爺ちゃんから習わなかったかしら?」
乱暴に杖を地面へ落とした女は、靴裏でそれを思い切り踏み付けた。
先端のクリスタル部分にヒビが走る。
「やめて! お願い、それだけは壊さないで! わたしにとって最後の形見なの……!!」
「だーかーらぁッ!! 態度で示せっつってんのよクソ女! お前らみたいなオタクに人権なんて元々ないんだから、媚びへつらって頭を垂れるのが筋ってもんでしょぉッ!?」
いよいよ砕ける寸前の杖、目尻に涙を浮かべるユリア、形見を壊そうとする女テロリストを見て––––俺の中で何かが切れた。
正直面倒ごとは避けたかった、本当なら今後の学園生活でカドの立つ行動は避けたい。
そう思ってたのに。
「いい加減にしやがれクソ女、その汚い足サッサと退けろっ」
前に出た俺は、とうとう殺意を向けた。
「ガキがこのわたしとやり合う気? 不愉快ね……親の遺産を全部はたいてエルフ王級・魔導士の能力を手に入れたのよ、負けるわけ––––」
超高圧の水属性魔法が直撃し、女テロリストはそのまま後方へ吹っ飛んだ。
オブジェへ直撃し、砂埃が舞う。
『魔法能力強化』を発動したのだ。
いつもなら必死で手加減しようと努力するが、今回に限ってそんなものは必要ない。
俺はゆっくり歩くと、壊れかけの杖を拾ってユリアへ渡した。
「はい、そんなに大事なら次は肌身離さず持ってるように」
「えっ、あ……ありがとう、ございます……」
さすがにもう女装はバレたかな、ドン引きされてたら嫌だ
けど……まぁいいか。この状況だし仕方ない。
俺は瓦礫から身を起こすテロリストへ、顔を向ける。
なにが起きたかわからず、思考が混濁しているようだった。
「お前っ! 水属性魔法の使い手だったのか!?」
「まさか、今のはただの初級魔法で誰だってできるやつ。エルフ王級ならそれくらいわからない? それとも金で買った能力じゃ限界でもあるの?」
「言わせておけば! 最底辺ヒューマン級のクソガキが! 一片残らず炭にしてくれるッ!」
大量の魔法陣を展開する女。
全部がぜんぶ上級火属性魔法、発射されればどこに巻き添えが出るかわからない。
「なら……」
『魔法能力強化』解除、モード変更。
「『身体能力強化』!」
金色のオーラを纏う。
地を蹴り、刹那と呼んでいい時間で女テロリストのみぞおちへ拳を叩きつけた。
「ガハッ!? ごぶ!」
相手は大量に吐血。だが容赦などしない。
そのままアッパーで顎を突き上げ、浮かび上がった体を掴んで地面へ勢いよく叩きつけた。
土煙が晴れるまで、俺はそのまま見下ろす。
「お前の勝手な思想で殺していい命なんて、ここにはないんだよ」
白目を剥いた女テロリストが、めり込んだまま気絶していた。
【大事なお願い】
ブクマなどしていただけると凄く励みになります!
ほんの少しでも面白い、続きが気になるという方は広告↓にある【⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎】→【★★★★★】へしてくださると超喜びます!