第21話・コミフェスはヲタクたちの文化的大戦争なのです
コミックフェスタは初日から非常に多くの人間が訪れていた。
各著名コスプレイヤーたちがシャッターの的となったり、数多ある同人サークルがこの日のためにこしらえた同人誌を販売する。
あるサークルは打ち上げ分の費用を賄えるほど稼ぎ、またあるサークルは大量に刷った部数と反対にほとんど売れず赤字ど真ん中。
一手の読みミスが死に直結する、そこは恐ろしい戦場。
もちろん参加者側も生半可な気持ちでは参加しない、持てる知力と策略、体力の限りを尽くしてルートを策定!
最大効率で神サークルを回り、目当ての本をゲットする。
コミックフェスタとは、ヲタクたちの文化的大戦争なのである。
『警備本部よりパトロール各隊、異常はないか』
だが、そんな祭典にも警備は必要だ。
王国首都警務隊 パトロールチームは、会場やその近辺に述べ150人の警務官を配備していた。
『東館、異常ありません』
『西館、こちら異常ありません。人混みのピークはまだ続きそうです』
『こちら入場口、熱中症患者が多数搬送されています。救急車両の通行を円滑にする必要があります』
会場外のテントに陣取る警備隊長は、通信機に向かった。
「了解、誘導員に指示して道を開けさせる。他にも体調不良者がいないかよく確認してくれ、今日は暑いからな」
『わかりました』
この仕事を始めて早10年……、こういったイベントの警備は、不審者よりも体調不良者や落とし物の対応が多い。
実際、今日も荒事は起きなさそうな雰囲気だった。
「コミフェスですか、隊長はなにか欲しい本とかないんです?」
部下の質問に、警備隊長は赤の制服を整えながら答える。
「俺みたいなオッサンにはないよ、お前こそこういうの興味ないのか?」
「俺にコミフェス戦士は無理ッスよ、胆力が足りません。それより聞きましたか……? 例の話」
「例の?」
「あれ、知らないですか? 最近ヲタク文化を憎悪してやれセクハラだ! やれ人権侵害だ! とか言ってる連中」
「ユグドラシルのTLでいっつも燃えてるあの連中か、ヲタクは全員性犯罪者予備軍とか言ってる」
「そうそう、なんでも去年の冬コミでは爆破予告までしてきたらしいです」
コーヒーを飲みながら、警備隊長は「あぁ」と呟く。
「それで今年は俺らが警備することになったんだな、まったくどっちが犯罪者予備軍なんだかわからなくなるよ。この国は文化輸出大国なのに」
「ホントっすよ〜、俺たちミリシア王国が新大陸の軍事大国––––『アルト・ストラトス』と友好を結べたのも、ヲタク文化のおかげなんですし」
「経済的、軍事的恩恵は計り知れんわな。まぁ好きに言わせとけばいいんだよ、どうせ一部の男性憎悪者だろ」
コーヒーのおかわりを取ろうとしたとき、ふとテントの入り口に誰かがきた。
「なんですか? ここは関係者以外立ち入り禁止ですが。もし落とし物ならコミフェス運営に申し付けください、それとも体調不良ですか?」
立っていたのは40代と思しき女性。
首からは、紐でなにか石のような物をぶら下げていた。
「えぇ、体調不良を起こしそうだわ」
「でしたら、すぐに屋内の休憩室へ––––」
警務官が立ち上がると、女性を黒い魔力が覆った。
濁ったドス黒いオーラを纏い、手をテント内へ向ける。
「必要ないわ、体調不良の原因は今から根絶するもの」
◆
「あれ、ずいぶん早いですね」
公衆トイレ前で、俺は相変わらず女装したままつっ立っていた。
なんとか女子トイレに入るような真似は避けたが、メイクは結局落とせずじまいである。
「え、えぇ……まぁ」
今さら男だとカミングアウトすれば、何を言われたかわかったものじゃない。
ちょっとでも気を抜けば、声質でバレる。
不本意だがミライたちのところへ戻るか……。
「ところで貴女、名前は?」
や、ヤバい……なんとか誤魔化さないと。
「アルスフィーナ……です、冒険者をやってます」
とっさに偽名をでっち上げる。
本名をもじっただけの安直ネームだ。
「いい名前ね––––覚えておくわ。わたしはユリア。それじゃあこれで失礼……あれ?」
キョロキョロと周囲を見渡す金髪の少女ユリア。
「どうしましたか?」
「ここに魔法杖を立て掛けて置いたのだけど、無くなってる」
「もしかしたら、落とし物と勘違いして持ってかれたのかもしれないですね」
「えぇ……すごく困る、すぐ探したいけどモタモタしてたら新刊売り切れちゃうかもだし」
「じゃあわたしが見てきますよ、警務隊が外にいたはずなのでテントまで行ってきます」
「いいんですか? アルスフィーナさんだって目的があるんじゃ」
俺はすぐさま駆け出すと、振り返りながら手を振る。
「ご心配なく! おれ––––じゃない! わたしすごく暇なんで!」
よし、なんとか場を離れられた。
それにしてもスカートって慣れないな、こんなので戦うとか女子凄すぎだろ。
とにかく、警務隊に聞いてわからなかったらそこで俺の任は終わり。
更衣室に行って元の姿に戻る。
やっとの思いで目前に迫ったテントは……。
「えっ?」
ドス黒い爆発に覆い隠された。
歓声は一気に、悲鳴へと変わった。
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