第2話・ブラック契約を終えたのでフリーとして謳歌したいと思います
アルス・イージスフォード、16歳。
俺はトップランカーのギルドをクビになり、とうとう無所属となった。
「っ……!」
だが、悲観にはくれない。
なぜなら––––
「あぁぁあ––––––––––––––!!! やっと解放されたああぁぁぁぁぁあああああああ!!!」
街中で思わず歓喜の声をあげてしまう。
簡単だ、奴隷のようにブラックな契約を向こうから打ち切ってくれたのだから。
「親の借金の肩代わりでこき使われ早3年……、長かった。あいつらエンチャンターをあって当たり前だと思ってたけどホントに大丈夫か? まぁ……もう俺には関係ないけど」
しばらく雑踏を歩くと、俺は最寄りのカフェへ入店した。
「おぉ、ヤベェ……1人ってめっちゃ落ち着く」
今の時代、”ユグドラシル“と呼ばれる魔導ネットサービスによってあらゆる情報が入ってくるのだ。
それこそ、ギルドでは毎日のようにくだらない情報を浴びていた。
休日問わず送られてくる依頼のチャット。
匿名つぶやき型掲示板による無差別情報爆撃。
公式動画チャンネルの運営、あげくそれに付けられるエアプ魔導士共のクソリプ対処etc……。
「もうグリードたちに必死でエンチャント掛ける必要も、アンチコメ潰すためにエゴサする必要もない……! ボッチ最強かよ」
背もたれにかけていると、注文した紅茶が運ばれてきた。
ウエイトレス用の制服に身を包み、明るい茶髪のポニーテールを下げた美少女だ。
「えーっと、こちら紅茶とスコーンでございます」
「あぁ、どうも」
「ごゆっくり……ってえ?」
相手のウエイトレスと目が合う。
ん? あれ……こいつって。
「あっれぇ!? あんたアルスじゃん! 久しぶりーっ! わたしのこと覚えてる?」
喫茶店内に声が響いた。
記憶を全力で辿る。
俺は脳内をサーチし、一応該当する人物を割り出した。
「お前……“ミライ”か、覚えてるよ。たぶん4年ぶり」
彼女の名はミライ・ブラッドフォード。
幼少期からの幼馴染で、前はなんというかもっと暗いイメージだった。
「雰囲気変わったな」
「イメチェンしてみた、そういうアルスは全然変わってないね」
仕事中にも関わらず、そのまま対面へ座るミライ。
「ほっとけ、それよりここでバイトしてるのか?」
「うん、やっぱ遊ぶ金欲しいじゃん。本だっていっぱい読みたいのあるし」
「現金なやつだな……」
「っていうかアルスは何してるの? なんか牢獄から釈放されたみたいな顔してたけど」
やっぱ顔に出てたか、まぁこいつに隠し事とか必要ないよな。
とりあえず紅茶を一口飲んでから喋る。
「『神の矛』っていうギルドでエンチャンターやってたんだけど、ついさっきクビにされて無事無職」
「『神の矛』ってあのランキング5位の!? ユグドラシルの登録者も100万人超えてる超有名どころじゃん。なのになんでそんな清々しい感じなの?」
「この喫茶店とは反対の、超絶ブラックな職場もあるってことだよ。そういえば数日後にダンジョン攻略ライブ配信やるとか言ってたな」
「ありゃー、そのギルドの人もったいないことしたわね〜……。じゃあ今のうちにチャンネル登録しとこっと♪。アルスがいなくなったからきっと面白いことになるわよ」
さすがにサボり過ぎたのだろう、同僚から声を掛けられてようやくミライは立ち上がる。
「もうすぐバイト上がりだから待っててよ、久しぶりにご飯食べよ」
「おう、了解」
背を向けるミライ。
まさかこんなところで会うとはな、だがスコーンをかじった俺はふとさっきの会話を思い起こした。
「なぁミライ」
アイツが好んで読む本は、たしか文学でも哲学でもない。
俺は、ホントに何気なくそれを口にした。
「今度の同人誌即売会、行くの?」
ミライの持っていたトレイが、握力で粉々に砕け散る。
あっ、これはあれだ––––めっちゃ周囲に隠してたパターン……。
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