第18話・軍の体裁もクソもあったもんじゃない
––––国防省 中央参謀本部。
「失礼いたします!」
青が基調の軍服を着た男が、木製の扉を二度ノックした。
厳格な雰囲気を漂わせるこの建物は、国の安全保障を司る重要施設だ。
「ご苦労少尉、もしかしなくてもまた例のヤツか?」
「はい、今度は行商人が襲撃されたようです。これで今年5件目、そろそろ隠し通すのは難しいかと」
「クソっ……! だからもっと危険な道の交通規制を徹底しろと国通省に進言しておいたのに」
ギム・ハーバード大佐は、報告に上がった部下を前に思わず愚痴った。
彼は国防軍の中でも佐官と呼ばれる、言ってしまえば偉い方だ。
少々のことでは動じない大佐も、今回ばかりは動揺を隠せない。
「被害のほどは?」
「死亡者10名、護衛を行なっていた『神の矛』は潰走したとのことです」
「アーカイブはさっき一応観させてもらった、よくあんな実力でランキング5位まで上がれたものだ……。しかし闇ギルド風情がこんなにつけあがっていては軍の体裁もクソもないな」
「えぇ、本当に『魔導士モドキ』とやらは厄介です。未熟な半端者が力を得たらどうなるかの典型と言っていいでしょう」
少尉の言った『魔導士モドキ』とは、ここ最近になって浮き上がった新しい問題だ。
「反社会因子に美辞麗句を謳って”力“を売り歩く人間がいるなど、大衆へ言えるわけない。まして才能ある魔導士から力を奪い、無能力者へ移植する闇マーケットができつつあるなんてな……」
ハーバード大佐は、苦虫を噛み潰したような顔をするや引き出しから物を取り出した。
ポケットサイズのそれは、丸みを帯びた石に似たもの––––
「誰でも魔法が使えるようになる次世代魔導具、『フェイカー』でしたっけ? この売り文句を考えた連中は相当気が狂ってますよ」
少尉が辟易した表情でその魔導具を見た。
「実態は瀕死の魔導士から能力を奪い取り、任意の他者へ与えるというもの。東方の社会主義国で、ある兵士が外国の侵略から祖国を救いたいと病院で設計したらしい。皮肉なものだ」
「ええ、まさか設計者もこんな闇マーケットで使われるとは思わなかったでしょうね。本来は病気や怪我で死ぬ運命にある魔導士の能力を未来へ残すための道具なのに……」
王国では昨今より、テロが増え始め国内治安があまり良くない。
この『魔導士モドキ』が、軍にとっては大変うっとうしい存在となっていたのだ。
「もし都市部でテロを起こされたら、警務隊だけでは対処できまい」
「諜報員いわく、元ランキング上位にいた魔人級・魔導士の能力すら高値で取り引きされているようです」
平和を願い作った物が、争いに使われることはよくある。
先ほどから出ている『魔導士モドキ』という単語は、これを使った無能力者のことを指しているのだ。
「誰でも強力な魔法が闇マーケットで買える。言い返せば、誰もが剣より強い武器を手にするようなものだ」
頭痛の種に悩んでいたハーバード大佐は、ふと最近入った情報を思い出した。
「そういえば数日前、300年ぶりとなる竜王級魔導士が魔法学園へ入学したらしいが……本当か?」
「自分も聞きました、どうやらガセではなく本物らしいです。あの大英雄グラン・ポーツマスさんがスカウトしたとか」
「例の駐在武官にでも急かされたかな? あの人は頼み事を断れない性格だし。大英雄殿も丸くなったものだ」
「数年前は王国一の問題児でしたのにね。では報告も終わりましたので、小官はこれにて」
敬礼した部下は、軍人らしいキビキビとした歩調で部屋を出ていった。
ハーバード以外の者がいなくなると、彼はおもむろに葉巻きを燻らせる。
「竜王級か……」
闇ギルドがその能力を欲しがるのは、きっと時間の問題だ。
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