第151話・アルスVSセヴァストポリ
王都を走る鉄道は、『ミリシア国営鉄道』によって運営されている。
夏休みではあるが、世の社会人や日常を送る者たちにとって鉄道ダイヤの乱れは生活の乱れだ。
俺はそんなインフラを支えるための、ある場所に来ていた。
「ここか」
周囲には、使い古された数多の鉄道車両が安置されている。
風景が示す通り、ここはいわゆる鉄道基地だ。
本来立ち入り禁止だが、『飛翔魔法』で簡単に侵入できた。
無論––––理由があって足を運んだわけであるが……。
「出てこいよセヴァストポリ、お前の逃走計画は完全に把握している。諦めて投降してくれないか?」
幾重にも交差し、伸びる線路上で俺は無防備に立っていた。
レスポンスは、すぐさま後方から帰ってくる。
もちろん……声などではなく。
「そこか」
真後ろからの魔力弾を、俺は首だけ動かして回避する。
やはり事前の情報通り、ヤツは––––キール大本命のスパイたるセヴァストポリはここにいた。
下手に反応しなけりゃ良いものを。
「あーあ、お前がその気なら……こっちも遠慮なくやらせてもらうぞ、許可はあるし、ここには人も誰もいない」
俺の全身から紅色のオーラが溢れ出た。
『魔法能力強化』により、自身の魔法ステータスは竜王級の名に相応しい規模へと変化する。
「アリサを紙みたく使い捨てて、本気で逃げ帰れると思ってるなら––––とんだ大間違いだと教えてやるよ」
広げた左手から、超高出力の電撃魔法を放つ。
もちろん初級用の軽いものだが、俺が手加減を一切していない状態のそれは魔人級10人の全力に匹敵する。
––––ズドガガゴッガァアァン––––!!
魔力弾の発射位置を、俺は列車ごと一直線にぶち抜いた。
高熱で融解した地面に、人間の死体跡はない。
すると、今度は全く異なる2方向から魔力弾が突っ込んできた。
列車の隙間を縫うような、精密狙撃。
「はっ、手が込んでるこったな。もう4日寝てない身からすれば––––」
その場でジャンプ。
魔力弾をかわすと同時、両拳を握った。
「たまらんね」
回転に加え、空気を裂くように初級火炎魔法を纏ったパンチを真下へ打ち込む。
超巨大な爆裂旋風となったそれは、またも車両ごと俺の周りを蹴散らし業火で燃やした。
魔力弾などかき消すには十分過ぎる威力。
全ての攻撃を防ぎ切った俺は、未だ姿を見せないセヴァストポリへ寝不足によるクマだらけの顔を上げた。
「魔力セントリーガンか、さすがスパイ。ずいぶん面白い道具を持ってるんだな」
相手はスパイ。
正面から格闘戦など、挑んでくるはずがない。
小賢しい手で、あれやこれやとやってくるのは想定内。
「だったら––––」
俺はエンチャントの出力をさらに引き上げた。
「そのタネ全部、明かしてみようかっ!」
衝撃波のように、列車基地が震えた。
「『広域魔力探知』!」
これは自身から膨大な魔力の波を放出することで、周囲に存在する他の魔力源を特定する技だ。
返ってきた反射は––––6つ、魔力セントリーガンの位置はこれで全て露呈した。
ついでに、ヤツの位置もアッサリ発見。
「全方向から撹乱の魔力弾を浴びせて、陽動を掛けるか……なるほどいかにも非戦闘職らしい」
俺はまだ無事だった車両の上に伏せ、スコープ越しにこちらを見る男を睨んだ。
魔力を用いない、対人狙撃銃を手に持つそいつこそ今回の目標。
「そこかぁッ」
対物レンズに、さぞかしおぞましい形相が浮かんだことだろう。
セヴァストポリが引き金をひいた。
撃ち手の恐怖が乗った弾丸は、半端な制圧射撃と同じだ。
放たれた銃弾が、相手を貫くことはない。
「おいおい、外してるぞぉ?」
「う、うわああぁ!!」
俺の寝不足も相まった声にビビったのか、次弾がドンドン飛んでくる。
もちろん直撃するわけがない、俺は蒼焔を手に纏った。
「『イグニール・ヘックスグリッド』」
展開された六角形の焔は、なんの抵抗もなく弾丸を次々と受け止める。
銃弾の雨をそのまま歩き、俺は遂に弾切れを起こしたセヴァストポリのすぐ前までやってきた。
「化け物め……ッッ!!!」
旅人に見せかけた服装のセヴァストポリへ、俺はその場から見上げた。
「7ミリ口径のライフルで俺に傷なんてつけられるかよ、それが精一杯の抵抗ならもうやめとけ」
「どうして……、俺がこの鉄道基地の車両に便乗して逃げるとわかった?」
「お前らより遥かにデカい国のとても偉い武官に聞いた、それだけだよ」
「クソッタレッ!!!」
今は非殺傷弾が撃てる銃を一旦置いてきている。
よってぶん殴るしか選択肢がないわけだが、セヴァストポリは車上で尻もちをついた。
「そうだ! 竜王級––––お前はこの劇場の真実に興味ないか?」
「は?」
いきなり何を言い出すんだと思った次の瞬間、ヤツは狡賢そうな顔で俺を見下ろした。
「王国が決して面に出さない最高機密を俺は知った、“世界の神”と“始祖の竜王級”についての情報だ」




